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フクロウみたいに犬が鳴く

目的地への道中、畑道の傍で西に向かって一斉に咲くコスモスを見つけ車を停める。

運転席のドアを開けると、コスモスの匂いが風に乗り一斉に吹いてきた。

間近で見る花びらは一寸の曇りさえなく鮮やかに発色していて、ピンクや赤、それに黄色のアクセントを付け風に揺れている。

陽光を浴びた花びらをまじまじと見る。おれが今までピンクだと思っていたピンクより、圧倒的にピンクだと思った。

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季節的にコスモスはもう終わりではないのか?などと思いながら車を再び車を走らせると、今度は左右に広がる向日葵畑を通過した。

その手前には、また畑一面のコスモスが咲いている。

いくら南国鹿児島だからって、コスモスと向日葵の共存はあまりにも頓珍漢というものではないか?

それとも32年生きてきて本当のピンクを改めて知ったように、これもまた四季折々の当たり前の風景だと言うのだろうか。

ただ夏の象徴である向日葵はコスモスと違って、方角こそ合っているものの太陽を見ることなく、全員うな垂れていたのだけれど。



数日前から何度も確認したタイドグラフを、下見をするにはあまりに不向きな水量を蓄える川を前に、もう一度照らし合わせる。

雑木林の傍に車を停めバックドアを開くと、鳥たちの鳴き声が聞こえてくる。

徐々に冷たくなってくる空気を肌で感じながら、しゃぶしゃぶのスープと家で切ってきた食材をジェットボイルのクッカーに放り込む。

やがて、鳥たちの鳴き声が聞こえなくなって入れ替わるように、今度は虫たちの鳴き声が聞こえ始めてきた。

手元が見辛くなりライトを点灯させると、ジェットボイルから立ち昇る鮮明な湯気が、暗い雑木林に消えていった。

食事を終えてバックドアを閉めライトを消して寝袋に潜り込むと、沢山の虫たちの鳴き声におれだけの空間は丸ごと包み込まれた。



この川の大潮に初めてルアーを打ち込んだ。

あっという間に下流へと流される様に、これからの期待と同時に僅かな恐怖心も抱いた。

昼間の下見が十分でないから、一投一歩に感覚的に得られる情報の濃度を追求してゆく。

そのような状況下においても少しずつ視覚的に得られる情報の構築が出来たのは、真上から煌々と照らす月明かりのおかげだった。

安全を確保する現実的な立ち位置を取りながら、それらを無視した理想のみを考慮した立ち位置をイメージしてゆく。

ただそこまでは到底ウェーディングは出来ないだろうと思っていたのだけれど、ひとつのライトが現れスーッとその位置へ移動していったのを見ることが出来た。



過去に何度かこの川を訪れた時、おれはいつも一人だった。

まだ日があるうちは人を見かけたことはあったけれど、日が落ちれば動く灯りなどひとつもない真っ暗な空間がそこにあった。

でも、それもそのはず。まだ日も暮れていないのに既に手が悴んでいたあの時期、人なんていないだろうと踏んで訪れたようなものだ。

対して、今目の前に広がる光景は真逆だった。

点滅するたくさんの灯りが釣り人の居場所を知らせ、当初入ろうと予定していた対岸は駐車スペースの台数を見て早々に諦めた。

至る所からカーボンが空を切る音が鳴る中、整地された護岸に腰をおろすと、月明かりに照らされた潮目を追いながらひとつひとつの点滅灯をさらってゆく。

何もロッドを振ることだけが釣りじゃない。

少しでも無心でロッドを振りそうになったら、時間を無駄にしないようフィールドを歩いた。



初場所でいきなり夜のウェーディングをするほど、おれは馬鹿じゃない。たとえ先行者がいたとしても、だ。

それでもどうしても足元の水深が気になったから、慎重に穂先を水中に突き刺している時だった。

「こんばんは。このあたりの方じゃないですね?」

水際で少し会話を交わした後、不安定な護岸で危うく転倒しそうになりながらその方の元へ寄った。

それから、おれはその方と沢山の話をした。

普段釣り場で人と会わないから釣りの話をすることがないけれど、今抱いている目標を知らない誰かに初めて語っている自分がいた。

3年掛けてメーターを超えるスズキをハンドメイドルアーで狙って獲る、1095日のスズキ。

もうすぐ全行程の1/3である1年が経とうとしているこのタイミングで、ようやくメーターを狙える川をひとつ手に入れたと強く思った。



少し前に、おれは釣りにSNSなんていらないと言った。

このブログを残して、長く構築してきた財産とも言えるSNSは、全てやめちまった。

それは別に、釣り人同士の付き合いなど必要がない、と言っているわけではない。

その真意は、たとえSNSがなくても自身にとって本当に必要な人というのは、"釣り人ならば出逢うべくして釣り場で出逢う"ということにある。

それはたまたまなのかもしれないし、神の巡り合わせのようなものなのかもしれないし、あるいは必然なのかもしれないと思っている。



上げ潮が入ってしばらくすると、ウェーディングをしている釣り人たちが引き返してきた。

見ると対岸の点滅灯もひとつ、またひとつと水からあがっては陸へ消えてゆく。

潮時という言葉がぴったりだな、なんて思いつつこの川の表情を見ながら淡々とキャストを繰り返していると、とうとう最後のひとりも水からあがってきた。

それと同時に上流から、一際冷たい風がビューっと吹いた。

思わず身震いする程の冷たい風に、時計の時刻を確認する。

行動開始から7時間、実釣開始から6時間が経過していた。

今日はここまで。また明日がある。

でもおれに残された時間は、あと2年とちょっとしかない。

歩いてきた護岸を引き返していると、実釣開始直後から時折り聞こえていたフクロウみたいな犬の鳴き声が、どこからともなくまた聞こえてきた。

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