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清流の鱸釣り師

 道路脇から少し草むらを掻き分けて降りたったそこは、角を削られた丸い石が足元をごろごろと転がり、背丈程ある草が辺りを囲んでいた。


流れる水の音が水辺に生い茂る草や木に当たり、そのまま新月の空の深い闇へと響いてゆく。


先を進む友人がヘッドライトの明かりを消して、こちらを振り返る。


「目の前が本流筋、そこから下流に反転流が出来てて……居れば一発で食ってくると思います」


目の前の暗闇に、じっと目を凝らす。


流芯の強い水の流れが作り出す泡がぼんやりと白く浮かび上がり、反転流があろう暗闇へとそのまま消えていく。


友人の言葉を瞬時に脳内に吸収し、視覚的に見えないその向こう側は想像して、ルアーをキャストする位置を決める。


軽く振りかぶって、ロッドティップで慎重に投じた一投目…


想像してたよりもここは、遥かにずっと、清流域だった。



■ 清流の魅力と支流の濁り


 開始早々に反応を得るも合わせが空振りに終わり、反動でルアーを二度、足元の岩に叩きつけてしまう。


三度目の正直でついに掛けたけれど、エラ洗いの連続で無情にもフックは外れた。


だが、バラした事など大した問題ではなかった。


“ここに鱸が居るんだ”


清流域なら、それがわかっただけでほぼ全ての欲求が満たされたといっても過言ではない。


事実、この手にキャッチしてないのに、すでに釣ったも同然の気でいる。


それは清流鱸…いや、清流そのものが持つ魅力のひとつであると、僕は本気で思っている。



 キャスト精度に不安を持つ自分は、少し軌道がズレてしまうだけでたちまち暗闇にルアーを見失い、案の定対岸の際にルアーを引っ掛けてしまった。


なんとか外そうと手を尽くすが、どうも外れる気配がない。


わざわざ車で対岸まで走ってくれた友人も、あまりに生い茂る藪に岸際に降りることは出来ず戻ってきた。


「たぶん、渡れるはず」


そう言う友人と支流に足を踏み入れてみると、想像よりもだいぶ浅くあっけなく渡れてしまった。


ルアーは無事に回収出来たけれどポイントはもう潰れてしまったので、少しヘッドライトで足元や周囲を照らしてみる。


はっきりと、支流だけが濁っていた。


“この濁り…鱸はこっちを遡上するはず”


何か確信めいたものを掴んだようにそう言う友人を見ると、結果的にルアーを引っ掛けてしまった自身のキャスト精度の無さも、今回だけは悪くないと思えた。



■ 縦ドリフト


 翌日の晩、僕らは再び清流域で待ち合わせた。


昨夜よりもさらに深い暗闇に包まれ、その中にぼんやりと本流筋が白い泡を纏いながら、水流の音色を響かせている。


無駄なキャストなんて絶対にしないつもりで、一投一投探るが反応はない。粘る釣りじゃないので、少しずつ移動していく。


「ここで出したことがあります」


友人がそう言ったスポットは、僕が普段全くしないアプローチをしなければならないシチュエーションと立ち位置だった。


“縦ドリフト”


自分だってドリフトの類はいくつかやっているつもりだが、ここまで純粋な縦のドリフトを要求される立ち位置を取ったことは過去になかった。


見よう見真似、ぶっつけ本番でベールを返し、水流に引っ張られスプールから出ていくラインを、サミングで慎重に送り込んでいく。


水圧の抵抗感とラインの角度からおおよその位置の把握に努めるが、途中からやはり距離感は完全に見失ってしまう。


それでもルアーがアクションしている感覚を頼りに、伝わってくるであろうバイトの感触を何度も何度もイメージしながら送り込んでいった。



■ 清流の鱸釣り師


 結果だけ言えばこの日、清流鱸からのコンタクトを得ることはなかった。


だがそこには、人間が作り出した道路から一歩足を踏み入れただけで周囲を草木に覆われ、遠くには山々が漆黒の影を作る自然が広がっていた。


厳密に言えば、人工物が完全に姿をなくすエリアはなかったかもしれない。


そんな今の時代でも、自然豊かな山々の懐に源流を持つ清流の水は数多くの水中生物の営みを形成し、移ろいゆく四季がもたらす条件が揃った時、鱸も他の魚たちと共に逞しく遡上するのだろう。



 僕一人でこの夜の清流域に立つ勇気は、今はまだない。


暗闇が持つ恐怖、獣の気配、言いようがない不気味な雰囲気…そこは、よそ者である無防備な人間が、簡単に足を踏み入れることを躊躇させる自然というテリトリー。


この清流域に何年も前からたった一人で通い続ける男も、真っ暗だからやっぱり怖い、と言った。



 来た道を戻ってきた時、最後にふとこんなことを彼が言った。


「ここを鱸は登ると思うんだよなぁ」


初めに見た時既に、もうこれより上に行くことはないだろうと僕は判断した堰の小さな魚道が、その釣り師の目線の先にあった。


思いのほか水流はあることはあるが…パッと見ただけじゃ、そこを鱸が遡上するシーンは僕にはすぐには浮かばない。


けれど、ひとつだけ確かなことがある。


そこは、“すでにこの清流を知る鱸釣り師が見据えるさらなる清流域”だということだ。





【TACKLE DATA】

ZENAQ/PLAISIR ANSWER PA89 Technical Surfer

SHIMANO/18 STELLA 3000MHG

SUNLINE/CAREER HIGH6 1号(16lb.class)

SUNLINE/STATE CLUTCH SHOCK LEADER NYLON 16lb.


【WEAR & TOOL DATA】

Cap/1989Luresオリジナル(OTTO)

Life jacket/SHIMANO XEFO ショートゲームベスト VF-274L

Wedear/Pazdesign BS BOOTS FOOT WADER V

Porch/Columbia,CHUMS


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