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村岡昌憲
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▼ 2月25日 TSC第1戦 ~優勝~ その2
- ジャンル:釣行記
- (battle-闘い--)
袖ヶ浦一帯のテトラ帯。今回、僕が勝負を掛けていたポイントだ。ここのシャローを撃ち続けて3本揃えればいいとこ行くのではとの打算があった。
時計を見ると11時。帰りの時間を考えるとあと2時間しかない。さっそくハチマルを撃ち続ける。20分ほど流すが反応がない。おかしい。魚がいない?
いないとすればここが風裏だからか。前回ここにきてあっさりと3本釣れた時は弱い南西風で風表だった。どうするか悩んだが、他で釣れないのはもう判っているし、移動時間を考えると釣りができる時間も残り少ない。天気予報では北の風が吹くと出ていた。北になれば風表になる。このシャローに勝負を預ける。そう決めて流し続けた。
20分後、とうとう風の向きが変わった。弱い南東から北に。天気予報では北は強くなると言っていたのであまり長くいるとここは大荒れになってくるかもしれない。しかし、風表。出るのか出ないのか。
「風表に変わったからきっと喰いが立つよ。」
半分、僕自身の願いともいえる言葉をカメラマンに向かって投げかけて5分後、初のバイト。
ゴンゴン!
しかし、乗らない。
リトリーブが早すぎたか。だんだんと強く吹き始める風に焦りつつも、なんとなくパターンをつかんだ気がした。いよいよ岸際は荒れ模様の気配を見せ始めた。
その直後、ハチマルをシャローに引っかける。岸際まで近づいてハチマルを外したとき、初めて底の地形をまともに見た。それは単なるゴロタ場でなく、水深2mに高さ1mのトウフ石がゴロゴロと沈んでいる地形であった。
底がカケアガリだと思って攻めていた僕は攻めるパターンを変えてみた。昔、青海でさんざんやったラパラで沈み根についた魚を浮かせて捕る方法。それは昨年はハチマルが変わって取ってくれた。ハチマル開発時にさんざんやった釣りだけに僕がハチマルを使う際に最も得意とする釣り方でもある。
船をもっと沖側に付けて、岸際5mにキャスト。魚はブレイクではない、水深2~4m前後に沈んでいるトウフ石の影側に付いている。岸側から日があたるので石の深場側に付いているだろうシーバスを絶妙なフラッシングを醸し出すリトリーブスピードで誘い続ける。スローにかつ悩ましく。そしてそのスピードが最も脱軌道アクションを頻発するスピードだ。レンジは1~1.5m。
10投ほどした時だった。いよいよ体が覚えている夜の釣りが真っ昼間のシャローで再現された瞬間。コンコンと吸い込むようなバイト。一回竿先を送りこんで吸い込ませてから最初スイープに途中から力強くアワセを叩き込む。
乗った!
強烈にロクテンをぶち曲げトウフ石の間に逃げ込もうとするシーバスをロッドパワーで上に浮かせる。同時に船の後進を強めて魚をシャローから引きずり出す。深場まで連れ出してから今度は潜らせてファイトさせる。
「タモ網ですくいましょうか?」
「いい、自分で捕るからタモ取ってくれますか。」
そうカメラマンと会話した瞬間だった。
「タモ網ありませんよ。」
何ぃ!?無い!タモ網が無い!ハンドルのすったもんだの際にいつの間にか船から落ちたのか。
なんてこった。絶望しつつも何が何でも魚は捕らなくてはいけない。
そこでぶち抜きを試みる。まず魚のフッキング状況を確認する。こういう時はまずい状況が重なる。なんとテールフックがたった一本かかっているだけ。魚は70センチ近い。そこで海が荒れていることを良いことに船の後ろから波とタイミング合わせてぶち抜く。船の後ろが沈んだ瞬間に魚を頭半分出してテンションを掛ける。魚がエラ洗いした瞬間に一気にテンションを掛けて魚にジャンプさせる。魚から岸の上に上がってもらうあのゴロタ場ランディングだ。普段、ロクテンで葛西や辰巳のゴロタ場でさんざんやっていたおかげで助かった。
どどんと1本目。サイズも計らずにイケスに放り込む。
パターンが見えてきた。その次のヒットまで3投しかからなかった。フラッシング&脱軌道で誘い続ける。ルアーが3mぐらいのブレイクを抜ける瞬間だ。またもや吸い込むようなバイト。一回送って一転叩き込む。まさに夜の明暗部のアワセ。体がなんのためらいもなくアワセを決めた。
バッドからねじ曲がるロクテンがさっきと同サイズであることを告げている。船を沖側に離しながら、また抜きあげランディングを試みる。今度もまたテールフック一本。しかし、フッキングが薄すぎた。頭半分出たところでフックが外れてしまった。魚は水面で横になっている。迷わず手を突っ込んで魚をつかむ。魚も我に返っていきなり泳ぎだした。背中から細くなっているボディを滑らせるようにして魚は僕の手をすり抜けていった。残ったのはざっくりと切れて出血した僕の左手だけだった。
痛恨のバラシ。
カメラマンも絶句。嫌なムードが充満したが、「まだ出る。」と、自分に言い聞かせるように釣りを再開。
フッキングがテール一本なのはおそらくまだリトリーブが早すぎるからだ。
更にスローリトリーブに切り替える。すでに昼のシャローの釣りではなくなった。ハチマルがフラッシングを起こす最も遅いスピードでリトリーブする。
喰う場所はもう判っていた。欲しいのは余裕。心なしか右手が武者震いで震えている。妙に力が入らない。カメラマンにそんなことを話しつつも、バラシからわずか2投目。また同じようにバイト。
全く迷いのないアワセから50センチをランディング。
そして次はたったの1投だった。トウフ石からぬっと出てきて、「待て」と喰う。そのタイミング。竿を送ってルアーをしっかりと食わせてからアワセを叩き込む。硬いロクテンにPEライン。神経が完全にフックまで到達し始めた。アワセた瞬間にフッキングの状況までもが脳裏に浮かぶほどに感覚が研ぎ澄まされる。口の中からがっちりかかっているはず。そんなシーバスを抜き上げるのに必要な事は迷い無き心だ。速攻で寄せて豪快にぶっこ抜く。
叉長で71センチ。
これでリミットが揃った。風もいよいよ強くなってきた。沖で白波が立ち始めている。ファイト中の間に一通りシャローを流してしまったので、もう一流しするか、それともウェイイン場所に戻るか考えた。ここは袖ヶ浦、向かい風では僕の船でも2時間はかかるだろう。今回の船は更に小さいし、何しろ慣れない船だけに帰りの時間は読めない。時間は11時40分。
「10分だけやろう。それでダメならあきらめよう。」
そう決めてもう一流しすることにした。そして流すこと3分後、前の魚同様スローリトリーブにコンコンとバイト。スーッと送り込んでアワセを叩き込む。豪快にバッドからロクテンを曲げていくサイズも先ほどと同様っぽい。これを捕れば勝てる。そう思って必死にファイト。アワセは完璧だったはず。多少強引に寄せてフッキングの状況を確認する。一瞬浮いたシーバスを見るとルアーを飲まれてしまったようだ。かろうじてリップが見えるけどあまり長引くファイトは危険だ。寄せて一気に抜き上げた。幸いエラにはフッキングしていなかったので蘇生成功。
叉長で67センチぐらい。
入れ替え成功で60UP2本、70UP1本が揃った。
「さあ、帰るぞ。」
ますます強くなる北西風に帰りを急ぐ。
風を突っ切って走り始めるが全くスピードが出せない。そろそろ給油もしないといけないだろうし、ということで、一度幕張方面に向かってかっ飛ばす。横波横風を受け波しぶきでビシャビシャになりながら60分で幕張へ。
この船はイケスが貧弱なので滑走するとイケスの水が全部出てしまう。走っている間はイケスにふたをして走り、20分おきに止まってバケツで水を入れ替える作業。海はいよいよ大荒れ。魚を殺すわけにはいかない。走ると水がイケスから出ていく。そんなジレンマをなんとかこらえながら帰る。
そして途中、とうとうバケツまで飛んでいった。激しく叩き付けられる船体にしがみつくのが精一杯でバケツなんか見ていられなかった。時間的にも間に合うかどうかギリギリだ。もうここまでトラブルが来ると、何がなんでも帰ってやる。ひとりで海に怒鳴りながら船を走らせる。
水の入れ替えもできなくなったから、今度は微速前進で進みながら水を循環させて、また蓋をして10分間かっ飛ぶ。この繰り返し。時間ばかりが無情に過ぎていく。間に合ってくれと何度も口にするほど、向かい風は強かった。
幕張からは風裏でまだ水面が荒れていない岸際をかっ飛ばす。最後、砂町水門の直前。いきなりエンジンストップ。見るとガスがない。予備タンクからガソリンを補給して再度走り出す。
そしてウェイン締切10分前にやっと到着。結局、帰りは予想通り2時間近くかかった。時間も精神もギリギリの勝負だった。あと10分向こうを出るのが遅かったら・・・。そう思ったとき、背中に寒気が走った。
そしてウェイイン。昨年悪夢を繰り返したデッドフィッシュ判定も無く、202センチ。
表彰台は堅いと思って後を待つ。みんな予想通り苦戦したようだ。
そして優勝。みんながおめでとうと声を掛けてくれた。本当にありがとう。
今回の優勝で得たものがあった。最後まであきらめないこと。今回は次から次へとトラブルが襲いかかった。それを全て克服しての勝利だった。そして支えてくれた多くの友人たちに感謝したい。船を貸してくれたトーハツ、アングラーズスタッフにも最高の結果で恩返しができた。
「ひとりで出たい。」
昨年から叫び続けたこの言葉が現実になり、最高の結果をもたらしてくれた。
こんな僕でも優勝できる力があるということはようやく、しかもたった1回だけど証明された。しかし、次の船のメドは立っていない。粘り強く探し続けて行くが、もしかしたら第2戦の参加はできないかもしれない。それでも僕は誰かと同船して出ることはもう無いと思う。僕は普段から船を操船しながら釣りをする。それ以外の方法ではもう自分の釣りはできないのだ。
海の安全を考えると一人の航海は危険だから慎むべきだとの声もあるが、今のルールでキャプテンと選手以外に人を乗せることはできない。
今後、また出る機会が得られる時はきっと多くの人の協力で成り立つのだろう。その時はまた全力を持って挑みたいと思う。
応援ありがとうございました。
勝利に浮かれての執筆ということで、文中に失礼な文面・表現がたくさんあったかと思いますが、多大なご理解とご寛容のほどよろしくお願いいたします。
そして焼き肉。道中、重量にして3キログラム近い塩を浴びせて白人のようになったカメラマン氏にお礼とお祝いを兼ねて一緒に焼き肉を食いまくった。
やがて、仲間が結果を聞いて集まり始めた。夢中でトーナメントの話をし、段々と話は釣りの話へ。
バチ抜けを知らないという一人に最高のバチ抜け見せてやるよ。と、隅田川へ。
予想通り、ウン億いるのではというバチ抜けが佃島では起きていた。静かにそして尊くバチは川を流れていく。
塩だらけのまま陸っぱり。
0時を過ぎた頃、家に帰る。
もうクタクタだ。体温計を見つけてちょっと計ってみる。38.1℃。
う~ん。
僕は気絶するように布団に倒れ込んだ。
- 2001年2月25日
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