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村岡昌憲
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▼ Tracy開発ストーリー
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- (elegy-つぶやき-)
おかげさまで発売以来、全国的に使ってもらえるようになったTracy。
特に初夏になると自分の周囲やネット上でもTracyの釣果がズラリと轟いてくる。
本日、開発ルアーのボックス整理をしていたら、Tracyのプロトがスネコンと同じくらいたくさんあって、その紆余曲折ぶりが面白かったので開発ストーリーとして残しておこうと思ったので紹介したい。
開発の理由と戦略
BlueBlueが鉄板バイブを出そうと決めたのは創業3年目の2013年の夏のこと。
発売が会議で決まり、どういう手法で開発をしようかと考えた。
今までに開発してきたルアーってのは、自分の釣りの中でのひらめきが主であり、多くの場合は過去に無いタイプのルアーなので、自分が満足するように作ればOKという物が多かった。
何かにインスパイアされた場合でも、自分なりの使いやすいようにチューニングしていく形は難しいようだけど、自分の中に明確なイメージがあるので簡単。
ところが鉄板バイブは、その釣り自体がそもそも自分の中に存在しない釣りだった。
だから、どんな鉄板バイブが良いのか、という判断基準がない。
その年に自分のサポートメーカーの邪道から冷音が発売され、それを使って初めて鉄板バイブの釣りについては理解しつつあったタイミング。
そこで、開発手法として、まずは徹底的に鉄板バイブの釣りを覚えること、自分の釣りに取り込むこと、その上で他社と差別化できる鉄板バイブを出そうという形を取ることにした。
その差別化する部分が見えなければ止めようという話も会議では良くしていた。
鉄板バイブが流行っているからと各メーカーがどんどんと発売していた頃でもあり、だけど、そのほとんどが使ってみてヒットルアーの真似ッコか、とても使いにくいものであったことから、本物を作らないと絶対にユーザーに支持されることはないだろうと。
まず、市場に出ている鉄板バイブを片っ端から買い集めた。
30アイテム近く揃ったような記憶がある。
そして、それを数十投ずつ投げ込んだ。炎天下の隅田川テラスで丸々一日投げ込んだ。
その後は釣り場所は普段の自分が行かないような所ばかり行った。
大黒や本牧の海釣り施設は鉄板バイブが強いので良く通った。
テストをやっていくうちに、気にくわないもので市場でそんなに売れていないという評判のアイテムはどんどんとテストから外して、気に入った物を残していく。
すると、いくつかのアイテムが必然的に残った。
邪道の冷音、コアマン社のIP、ラパラ社のテツジン、エバーグリーンのアイアンマービーの4種類。
使い勝手が良く、波動も強い。
自分が釣れると思うリトリーブスピードで最適な波動を出している。
実際によく釣れたし、お客さんにも支持されていて、マーケティング的にはど真ん中。
じゃあ、そこから後発のBlueBlueとして、こういうのがあったらいいね、というズレた部分を見つけ出せるかどうか。
4社の製品を300投ずつ投げ込んだのが、梅雨明けの頃。
3日間集中して鉄板バイブだけを投げ続けた。
間違いなく、3日間でこんだけ鉄板バイブを投げた人間はいないはず。
おかげで右手首と右肘が故障したが、投げ込んでこそ見えてきた、いわゆる欲しいところ。
それが、「軽くて浮かない」というコンセプトだった。
1200投の投げ込みは最後はストレスとの戦いだった。
特に最後の巻き上げ抵抗はかなりもので、ロッドを持つ手もけっこうきつい。
これを改善しよう。(そんな投げるやつはいねーよ!と今でこそ思うが)
それに、俺の喰わせの理論である、リトリーブ中の水平姿勢。
どの製品も前下がり姿勢で、もう一つ水平感が欲しい。
よく釣れてるので関係ないのかもしれないけど、俺のこだわりとして。
そして、鉄板バイブ共通の問題である絡んでしまうという問題。
これも極力改善しよう。
軽い
浮き上がりにくい
水平姿勢
絡まない
この4つを突き詰めた製品が欲しいと思うようになった。
この製品なら市場で他のヒットルアーと棲み分けられるルアーになれると考えた。
で、ひたすら絵を描くのである。
俺はシェイピングもできないし、3DCAMも操作できないので、未だに脳みその中でひたすら絵を描いて、最後にアウトプットしている。
お盆過ぎにできあがってきたのはこいつ。
今のTracyには似ても似つかないが、4つのコンセプトを狙った俺の理論の最初はこの形。
こいつをテストした結果、引き心地の軽さと浮き上がりの良さは文句なし。
水平姿勢は出てないのだけど、円に近い形をしているので最後にデザインで水平姿勢にできるかな、と考えていた。
予想外だったのは絡まりにくさ。
死ぬほど絡まりまくるのである。
当然、このまま市場出したらダメなのは明白なのでもう一度考え込む。
次はテールを少し伸ばしてみて、という形。
かわいい・・・。
こいつも絡まりやすさは変わらなかった。
そこで思ったのは、なぜ鉄板バイブは絡まるのか?という疑問。
そこで、fimo動画班を館山の海に呼んで、市販の鉄板バイブが絡む瞬間をスローモーションで撮りまくった。(水着美女と一緒に泳ぐと嘘をついたので、家から海パンを履いてきてくれた。)
そこでわかった真実はノウハウなのでここには書かないが、はっきりとした理由がわかった。
避けようのないケースもあるけど、ほとんどのケースについては、設計で絡みを回避できる算段ができた。
ちなみにここで気付いたノウハウが、ナレージ50の超絶な絡みにくさを産み出すのである。
方向として重心をいじる必要があり、一番絵を描いたのがこの時期。
どう描いても、やりたいことをやろうとすると、すでに出ているルアーに何となく似ていってしまう。
苦しんだ末に辿り着いたのが、ボディ全体を鉛で覆うという形。
これが2013年9月頃。
これはこれで凄い有りだったが、水平姿勢が出ないのと、引き抵抗が重くなってきてしまう欠点が。
テールフックのスプリットリングの動きをコントロールしようと、テールのアイの位置や形が様々に変わったけど、最終的にこの案は止めることにした。
俺がアピア社と作ったBit-Vとルアーのゾーンが似てるからである。
もう世に出てるものをこしらえてもつまんないからね。
BlueBlueらしさが無い、というテスターの評価もあった。
BlueBlueらしさ?
ワクワクする感じ?
そこで、また考えに考え、完全に迷走する。
別の意味でワクワクするぜ!
テールの形はいったい何がしたかったのかも、今では覚えていない。
絡まないための試行錯誤と、なんだろう?やっぱりわかんね。(笑)
唯一の魚を一匹も釣っていないモデル。
少し頭を冷やした。
頭を冷やしたいときは、釣りから離れないといけない。
銀座や錦糸町の酒と美女が俺の頭からTracyを消し去った。
2週間後、携帯を持たずに会議室にこもり、久々のTracyについて考える。
低重心、テールフックの動きのコントロール、水平姿勢、波動、色々と考えながら、ふっと頭に浮かんだのがドルフィンシルエット。
テストの結果、このモデルは引き抵抗は重いのだけど、他のやりたかったことを完全にクリアした。
製品版よりドルフィンがきつい。
で、波動は設計でどうにでもなるので、煮詰めていく作業と、デザインを親しみ持てる形に作っていく作業。
波動についてはウォブリングではなくて、ローリングで出すことにした。その方が引き抵抗が軽く、スローからファーストまでコントロールがしやすかった。
邪道の冷音もややドルフィン形状だったが、あちらはウォブリング、Tracyがローリング。状況によって使い分けできそうなことも良かった。
こうして今のTracyにかなり近い形ができあがる。
書いてある数字は鉄板の厚さ。
多くの鉄板バイブは鉄板に真鍮を使っている。原価が安いからである。
だけど、Tracyはステンレス板を使っている。理由は強度が強いから。
鉄板の軽さは非常に大事で、少しでも軽くしたい。
だけど、軽くするために薄くすると強度は落ちて、ぶつけた時に曲がってしまうということがおきる。
テストした結果、0.8mmのステンレス板は他社がよく使っていた1.0mmの真鍮板より軽くて強かった。
0.7だとより動きも軽快なのだけど、強度が弱かった。
そこで0.8mmで決めた。
値段はあまり高くできない。
原価が高くなったので悩んだところだけど、あらゆるメーカーが鉄板バイブを出す中で、妥協したところを見せたらダメな気がして勝負することにした。
このあたりでようやくBlueBlueのテスターに最終テストを委託。
テスターから上がってくる様々な意見を反映させていく。
例えば、テスターからの意見で市販のスナップが入れやすいように、リング交換がしやすいように、という意見があったので微調整。
テールアイの位置など、その上のプロトと少し違うのが解る?
これがユーザーをイライラさせない、使いやすい、と言ってもらえるために必要なこと。
こういうのは開発者一人でやることでなく、人海戦術が最も効率が良い。色々なシチュエーションで起こる様々な問題点やイラッとする部分を拾っていくことで、良い商品になっていく。
こうして、2014年春にTracy25gが発売、夏に15gが発売。
軽い、浮かない、絡まない、という使いやすい鉄板バイブができた経緯でした。
- 2015年7月20日
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