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▼ 連載第2回 『雷鳴~長い長いトンネルの出口で見えたもの~』
- ジャンル:日記/一般
- (小説)
第一章 恵美
2
ボクは、コーヒーの淹れ方ひとつとっても背伸びしたところがあるように、大人びた雰囲気のあるレストランやバーをいくつも知っていて、今まで色んな女の子とそういう店で食事を共にしていた。多くの女の子は、こうしたムードが好きらしく、食事の後にラブホテルに誘うのは造作もないことだった。
ボクは、そういうレストランに恵美を誘わなかった。普通の大学生が背伸びをしない範囲の店を選んだ。例えば、一品千円程度のスパゲティ店などだ。時にはファミレスを使うこともあった。ボクは、恵美と寝ることなど考えてもいなかったのだ。
食事を重ねるたび、恵美は次第に打ち解けてきて、会話の量も増えてきた。大人しすぎるという第一印象が嘘のように快活になってきた。
「私、高校からずっと女子校でしょ。男の子とは縁がなかったから、誰とも付き合ったことがないの」
ヴァージンだと言っているようなものだ。恵美は、こんなことまで打ち明けるようになっていた。
一方ボクは、なぜ特定の女性と付き合うことを避けてきたのかを、恵美に素直に話した。
「特定の女性と付き合うと、自分の生活が縛られるというか、自由度が制限されると思っているんだ。自分のやりたいことを、やりたいときに、やりたいというか。だから、君だから付き合わないとかそういうことではないんだよ」
恵美は、わずかに眉間に皺を寄せた。
「いいの。それでも構わないよ。こうして一緒に食事するだけでもとても楽しいから」
健気にボクのことを想ってくれる恵美の態度に、ボクの心は少しずつ動き始めた。
3
五度目の夕食のこと。ボクは、恵美と食事に行くようになってから、一度も他の女の子と食事にすら行ってないことを伝えた。恵美はにっこりと微笑んだ。
その日、ボクは、スヌーピーの携帯電話のストラップを恵美にプレゼントした。ボクは、ほんの些細な物でいいから、恵美に対するボクの好意を形で表現したかった。今どきの女の子には珍しく、恵美の携帯電話には何も付けられていなかった。そこで思いついたのがストラップというわけだ。
「どうしてスヌーピーが好きだって分かったの?」
「前に、スヌーピーのハンカチタオルを持っているのを見たことがあったんだよ」
「よく見てるね。ありがとう。子供っぽくてちょっと恥ずかしいけど、嬉しい。でも、私は何も用意していなくて…ごめんなさい」
「ボクがそうしたいだけなんだ。気にする必要はないよ」
恵美は早速ストラップを付けてくれ、顔をほころばせた。その後、恵美は、携帯電話の機種を変えても、そのストラップを外すことはなかった。
夕食の後、店を出てから、ボクは勇気を出して、そうっと恵美に口づけをした。恵美は少し顎を引いてためらったが、拒むことなく、少し震えながら、目を閉じて応じてくれた。重ねた唇を離した後、恵美は恥ずかしそうに顔を赤らめたが、駅までの帰り道、手を繋いできた。こんなに積極的な恵美は初めてだった。この日を境に、恵美はボクのことを苗字ではなく「勇輝」と呼ぶようになった。
第一章 4に続く
2
ボクは、コーヒーの淹れ方ひとつとっても背伸びしたところがあるように、大人びた雰囲気のあるレストランやバーをいくつも知っていて、今まで色んな女の子とそういう店で食事を共にしていた。多くの女の子は、こうしたムードが好きらしく、食事の後にラブホテルに誘うのは造作もないことだった。
ボクは、そういうレストランに恵美を誘わなかった。普通の大学生が背伸びをしない範囲の店を選んだ。例えば、一品千円程度のスパゲティ店などだ。時にはファミレスを使うこともあった。ボクは、恵美と寝ることなど考えてもいなかったのだ。
食事を重ねるたび、恵美は次第に打ち解けてきて、会話の量も増えてきた。大人しすぎるという第一印象が嘘のように快活になってきた。
「私、高校からずっと女子校でしょ。男の子とは縁がなかったから、誰とも付き合ったことがないの」
ヴァージンだと言っているようなものだ。恵美は、こんなことまで打ち明けるようになっていた。
一方ボクは、なぜ特定の女性と付き合うことを避けてきたのかを、恵美に素直に話した。
「特定の女性と付き合うと、自分の生活が縛られるというか、自由度が制限されると思っているんだ。自分のやりたいことを、やりたいときに、やりたいというか。だから、君だから付き合わないとかそういうことではないんだよ」
恵美は、わずかに眉間に皺を寄せた。
「いいの。それでも構わないよ。こうして一緒に食事するだけでもとても楽しいから」
健気にボクのことを想ってくれる恵美の態度に、ボクの心は少しずつ動き始めた。
3
五度目の夕食のこと。ボクは、恵美と食事に行くようになってから、一度も他の女の子と食事にすら行ってないことを伝えた。恵美はにっこりと微笑んだ。
その日、ボクは、スヌーピーの携帯電話のストラップを恵美にプレゼントした。ボクは、ほんの些細な物でいいから、恵美に対するボクの好意を形で表現したかった。今どきの女の子には珍しく、恵美の携帯電話には何も付けられていなかった。そこで思いついたのがストラップというわけだ。
「どうしてスヌーピーが好きだって分かったの?」
「前に、スヌーピーのハンカチタオルを持っているのを見たことがあったんだよ」
「よく見てるね。ありがとう。子供っぽくてちょっと恥ずかしいけど、嬉しい。でも、私は何も用意していなくて…ごめんなさい」
「ボクがそうしたいだけなんだ。気にする必要はないよ」
恵美は早速ストラップを付けてくれ、顔をほころばせた。その後、恵美は、携帯電話の機種を変えても、そのストラップを外すことはなかった。
夕食の後、店を出てから、ボクは勇気を出して、そうっと恵美に口づけをした。恵美は少し顎を引いてためらったが、拒むことなく、少し震えながら、目を閉じて応じてくれた。重ねた唇を離した後、恵美は恥ずかしそうに顔を赤らめたが、駅までの帰り道、手を繋いできた。こんなに積極的な恵美は初めてだった。この日を境に、恵美はボクのことを苗字ではなく「勇輝」と呼ぶようになった。
第一章 4に続く
- 2019年9月25日
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