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金森 健太
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▼ 単独源流行〜在来個体群の渓へ
こんにちは。
今回も、源流釣行です。
渓流シーズンも残りわずかとなり、釣り納めと初秋の渓へ向かうアングラーさんも多いこの季節。
私も例外ではなく、今期最後の渓魚たちに逢いに行ってきました。
しかし
以前にも書いた通り現在、尿管結石という病に冒され、尿管ステント留置による副作用に苦しんでおります。
40℃に迫る高熱に3日間苦しみ、尿管からの多量の出血(血尿)、下腹部の痛みはこのログを書いている現在も続いている。
しかし
今月中にはもう一度手術が待っている。術後の経過によってはシーズン中の復帰はできないかもしれない。スケジュール的に、釣りに行けるのは1日しかない…
行くしかない。
だが、標高の高い閉ざされた源流でもしも体調に異変があれば…最悪の場合生命に関わる。例え健康な状態であっても、源流行は危険が伴う。かと言って、民家が近い里川でスレきった渓魚を相手にするのもストレスが溜まる。どうするか、、、
熟考の末、思いついたのはたまに行くヤマトイワナの渓。あそこなら最悪の場合救助が呼べる。迷わずその渓へと車を走らせた。
というわけで9月11日8時、とある未舗装の林道に到着。ここなら携帯電話も電波が届き、通話も可能だ。下山ルートもしっかりしていて、比較的安全に下山できる。
普段なら半日程度で詰められるような細流だが、ここには確かにヤマトイワナ、この水系の在来個体群が存在する。期待を胸に、いつものフライロッドを継ぎ、ベストのポケットに抗生剤、痛み止め、携帯食料を詰め込み渓へ降りた。
…渓へ降りた私は、その光景に愕然とした。
8月の豪雨で、大量の土砂が流れ込んだのであろう。連続する落ち込みと淵は全て、白い砂に埋もれていた。更に、夥しい数の杉の倒木が折り重なり、渓は今にも埋もれてしまいそうだった。
かつてはこのあたりでも林業が盛んだったのだろう。しかし…安価な輸入木材の普及で植えられた杉は需要を失い、林業従事者の高齢化と後継者不足で日本の林業は急速に衰退してしまった。結果、植えられた杉はそのまま放置され、現在の痩せて荒れ果てた山々を作り出してしまったのだろう。
杉のような針葉樹で構成された山は保水力を持たない。また杉の根は広葉樹に比べ浅いので、ひとたび雨が降るとその度に雨水は地表を一気に流れ落ち、表土を全て洗い流してしまう。結果、山の斜面は崩れ落ち、渓を埋めてしまうのだ。
シーバスや青物を追うソルトアングラーさんにとっても、これは他人事ではない。
豊かな山々に染み込んだ雨水は、やがて渓を伝い途方もない時間をかけて山々の栄養を海へ運ぶ。その水は海中の微生物を育て、その微生物はイワシなどのベイトフィッシュの糧となる。そのベイトはシーバスや青物、ヒラメや根魚などの肉食魚の糧となって…全ては繋がっているのだ。
しかし…もう取り返しのつかない状況にあることは、砂に埋もれた渓を見れば明らかだ。
話が逸れてしまったが、いよいよ実釣開始。夏の定番パターン、ピーコック・パラシュート13番をティペット(ハリス)の先に結び、砂に埋もれた落ち込みの僅かな深みにアプローチ。
…やはり、反応はない。
どうしようもない不安が、胸に渦巻く。
泥水に押され、死滅してしまったのだろうか…
しかし、その不安はすぐに消え去った。小さな岩の影から、1尾の魚影が飛び出したのだ。彼は足元の岩影から飛び出し、一目散に落ち込みの白泡の奥へと隠れていった。
良かった。
この渓の惨状を見るに、相当な増水だったのだろう。それでもしっかり生き残っているイワナたちに生命の逞しさを感じた。
それからしばらく遡行して、渦を巻くように流れ落ちる落ち込みが現れる。その渦の中にフライを浮かべると…1尾の魚影が元気よく水面を破った。
サイズは小さいが、心地よい躍動に心が躍る。
ランディングネットに横たわる魚体は、紛れもなくこの渓の在来イワナだ。
白い砂底に擬態しているのか白く透明感のある背中に、淡い朱点がなんとも美しい。
その美しい姿を写真に納め、優しく元いた流れにリリース。
ここから、少しずつ魚の姿が見え始める。しかし水面を破るのは…
こんなサイズ…。
釣れども釣れども、釣れるのはおチビちゃんばかり…。
時には、5cmほどしかない稚魚がフライに飛びつく。フックのサイズが13番と大きめのため掛かることはないが…さすがにこれには苦笑するしかなかった。
遡行していくと…相変わらず蜘蛛の巣に行手を阻まれるが、砂地には明らかな人間の足跡が残されている。
嫌な予感がした。
思い返せば数年前、この渓を遡行している時に小継ぎの渓流竿を拾ったことがある。嫌な予感…一部の餌釣り師、脳裏に浮かんだのは…漁協や釣具店のHPなどでよく見る、大量の渓魚をキープして、スポーツ新聞の上などに並べられた写真だ。エリアによっては、明らかに体長制限を下回るサイズや、その水系の在来個体群であろう魚まで無差別にキープされ、腑を抜いた状態で撮影された写真もよく見かける。
もしかしたらこの渓のヤマトイワナたちも、そういった心ない釣り人に抜かれているのかもしれない。
少なくとも今日は先行者はいないようだが、蜘蛛の巣の復元は意外と早い。足跡の感じから…もしかしたら前日にそういった釣り人が入ったのかもしれない。
しばらく遡行するが、相変わらず渓は大量の土砂と倒木で荒れ果てている。以前はまるで釣り人に気を使うかのように渓から離れて立っていた低木も、土砂に押されたのか渓に覆い被さるように倒れている。そのため度々フライを枝に引っかけてしまい、イライラが募る…。
気持ちを落ち着かせて丁寧に各ポケットを撃っていくと、ちらほらとちびヤマトたちがフライに飛びつく。
背中に広がる独特の斑紋、この渓のちびヤマトたちは、このような変わった斑紋を持つ個体が多い。この斑紋は成長と共に薄れて、やがて消失していくようだが、他の渓のヤマトイワナにはない特徴だ。機会があれば、この渓のヤマトイワナたちの遺伝子を解析してハプロタイプを特定したいのだが…私にはそのツテがない。
とはいえ貴重な在来個体群であることは間違いないので、いつまでもこのイワナたちが血を繋いでくれることを願ってやまない。
やがて、大きな落ち込みにたどり着く。予想はしていたが、やはりその流れを見るやひどく落胆した。
前回この渓を訪れた時は、ここは股下ほどの水深がある深い淵だった。その流れの中で、推定25cmほどの良型イワナが2〜3尾、優雅に泳いでいたのだ。その時はアプローチしたフライに真っ先におチビちゃんが飛びついたため、その良型イワナたちは一目散に隠れてしまったのだ。
しかし今回は…その時の光景は見る影もなく、股下ほどの深さだった淵は足首ほどの深さまで砂で埋まってしまっている。予想はしていたとはいえ、いざその光景を目の当たりにすると、落胆を隠せなかった。
しかし…写真左の白泡の切れ間に目線を向けると、そこには大きな魚体が揺らめくのが見える。尺…には届かないが、なかなかの良型である。
はやる気持ちを抑え、フライを何度か流してみるものの…水面の餌には興味がないのか、見向きもしない。ならば…フライを沈めて、目の前に流し込んでみたらどうだろう。早速、フライを自作のよくわからないニンフ14番に変え、更にティペットにG8のガン玉を打ってレンジを下げて流してみる。
慎重に奴の目の前にフライを流し込む…と、奴が大きく口を開けた。フッキングと同時に、奴が大きく身を捩る。やった…!
……バレたorz
フライを戻すついでにティペットを交換して、更に上流へ。
相変わらず反応はあまり良くないが、ちらほらとアベレージサイズが顔を出すようになってきた。
光の当たり方なのか、何故か黄色っぽい写真に(^^;;
やがて流れは更に細く、ボサも多くなってきた。時刻は15時、地形図アプリを見ると、その地図上では渓は無くなっていた。ということは、もう源頭が近いのだろう。ちょっと雰囲気の良い落ち込みにたどり着いたので、ここで終わりにすることに。砂地の開きには、1尾のイワナが悠々と泳いでいる。慎重に近付きフライをアプローチすると、彼は躊躇いなくフライを吸い込んだ。
これぞヤマトイワナ、といった色彩の1尾。この1尾に満足して、この日の釣りを終えた。
下山ルートに上がり、車を停めた林道を目指す。が
ステント留置による下半身(どことはあえて言わない)と下腹部の痛みがなかなかに辛い。ゆっくり、少しずつ歩いていくが、普段ならささっと下山できる道のりがかなり長く感じる。駐車スペースまで戻ってきた時には、空は夕闇に覆われようとしていた。
気持ちよく今シーズンを締めくくるつもりが、新たな不安をいくつも抱えることになってしまった今回の釣行。今の私には、このイワナたちが無事子孫を残し、次世代へ生命を繋ぐことを祈るしかできない。まさにこのイワナたちは「瀬戸際の渓魚たち」なのかもしれない。
長文になってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
次はシーバスのログ書けるといいなぁ…(^^;;
- 2022年9月12日
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