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連載第15回 『雷鳴~長い長いトンネルの出口で見えたもの~』

  • ジャンル:日記/一般
  • (小説)
第八章  終焉

ボクが清夏に社内メールを送り始めてから一週間が経ったある朝のことだった。出社すると、すぐに清水課長に呼ばれた。課長の困惑した表情を見て、何かが起きていることを感じた。
プリントアウトされた一通のメールを見せられた。ボクに宛てたメールだったが、他の課員全員にもCCで送られていた。
「谷山様 職場のメールを使って、仕事以外のことを一週間にもわたって何度も送ってこられることに本当に困っています。仕事に支障が出るほど迷惑しています。私には、いま真剣にお付き合いすることを考えている人がいますので、どうか自重なさってください。木元」
ご丁寧に、この一週間、ボクが清夏に送り続けたメールの文面まで貼り付けられていた。ボクの身体は大きな衝撃に揺さぶられ、耳には轟音が響いた。
清水課長が「心配するな。誤解はいつか解ける」と庇ってくれたが、ボクの耳には届かなかった。
しばらくした後、松澤さんがボクのデスクの前に立っていた。手には例のメールを持っていた。松澤さんの存在にすぐには気づかないほど、ボクは茫然自失の状態だった。
「谷山君、これはどういうことなの?本当なの?恵美を傷つけるようなことをしたの?」
松澤さんの問いに何も答えられないでいると、松澤さんは、ボクの沈黙をイエスと受け取ったのだろう、いきなりボクの頬を打った。
「恵美を泣かせたら許さない」
もしかしたら、松澤さんは、会社でこういうことを躊躇なくしでかす清夏の気質を始めから見抜いていたのかもしれない。
これで、細心の注意を払って保ってきた職場でのボクの立ち位置は崩壊した。清夏の方を見ると、彼女はやはり、不自然なほど自然だった。
このメールは、ボクが仕事にかまけて、清夏の気持ちを全部受け止めなかったことへの意趣返しなのか。
清夏の気持ちをぶつけた「何か」とは、ボクの会社の中での立ち位置にまで向けられていたのか。
初めて清夏と結ばれた夜、清夏の恋愛観に対して抱いた「重さ」とは、きっとこういうことだったのだ。
「とりあえず、今日のところは帰った方がいい」
ボクは、清水課長に勧められるまま、仕事をすることなく早退した。家に帰るわけにもいかず、カフェで時間を潰した。ボクは、今日会社で起きたことを、未だに受け止められないでいた。
ボクには、清夏のように、自分の気持ちをぶつけられる「何か」があるわけではなかった。ボクはただ、蜜月期の清夏とのLINEのやり取りをぼんやりと眺めていた。
 

ボクは、夜の七時に帰宅した。
恵美が、パソコンを前にして、眉間に深い皺を刻んでボクを睨んでいた。ボクが口座を持っている証券会社のサイトにログインして、出入金管理の画面を表示していた。恵美に内緒で株を売却したことがバレてしまった。
悪いことは重なるものだ。
恵美はボクに詰め寄り、株を売却した理由を問い質した。
「なぜ私に黙って株を売ったのですか」
まさか、清夏との贅沢な逢瀬のためにお金を使っていたなどとは、口が裂けても言えるわけがない。ボクは、あらかじめ準備しておいた嘘をついた。
「大学の同期と京都に旅行に行く前に、友人の一人から金を貸してくれと頼まれた。理由は聞かないでくれと言われた。ボクは、学生時代に金が無くて困った時に何度も彼に助けられた。今度はボクが助ける番だと思い、準備したお金を京都で渡した。無利子、無期限で貸した。返ってこなければ、彼との仲はそれまでだ」
恵美は、その友人の名前をしつこく聞いてきたが、ボクは彼の名誉のためだと言い張って、決して口を割らなかった。当たり前だ、言えるはずがない。そもそも架空の話なのだから。
このことが、ボクと恵美の生活を崩壊させる引き金になったことを悟るのに、ほとんど時間はかからなかった。
 
そんな夜に、簡単に眠れるわけがない。仕事が忙しかったときに処方された睡眠導入剤を飲んでベッドに横たわった。しばらくしてようやく睡魔がやって来て、次第に深い眠りに落ちていった。
翌朝、目を覚まして着替えようとしていたら、恵美がボクの前に立ちはだかった。眉間には、やはり深い皺が刻まれていた。恵美の右手にはボクのスマートフォンが握られていた。画面には清夏とのLINEのやり取りが表示されていた。
やはり、悪いことは重なるものだ。
ボクのスマートフォンは、指紋認証ロックを設定してある。おそらく恵美は、ボクが睡眠導入剤の力で眠っている間に、一本一本指を当ててみたに違いない。
株売却の一件で、ボクのあらゆる行動に不信感を抱いたのだろう。いや、何度も朝まで帰らない日が続いていた頃から、ボクに対して疑念を抱いていたはずだ。スマートフォンをチェックしようと思うのも無理からぬことだ。
清夏とのことを恵美に全て知られてしまった。清夏とのLINEのやり取りを消していなかったのは、決して不注意などではない。清夏との蜜月期の思い出に浸るためだった。
恵美の口調は恐ろしいほど静かで、信じられないほど丁寧に話し始めた。
「全てが嘘だったということですか。仕事で朝帰りしていたというのも、結婚記念日も、京都の旅行も、株の売却も、全てが嘘だったということなんですね。この清夏さんという人とはいつからですか。LINEでは十二月初め頃からのようですね。私に隠れてコソコソと会っていたようですが、私と離婚する覚悟があってこの人と付き合っていたのですか。もしその覚悟がなかったのなら、それは私に対する大きな侮辱だし、裏切りです。私の人生の中で、これほど侮辱されたのは初めてです。私は、しばらく実家に身を寄せます。あなたは、自分のやったことを冷静に考えてください」
恵美が実家に帰る準備をしている間に、ボクは家を出た。会社に行っても何もすることはないのに。
 

オフィスにいるのは針の筵に座らされるのと同じだった。清水課長は、相変わらず庇ってくれたが、部下がボクを見る目は冷たく、仕事の相談を持ちかけてくる課員は誰もいなくなった。
釈明することは簡単だった。しかし、それをすることは、ボクと清夏の関係をつまびらかにすることを意味するし、少なからず、清夏を傷つけることになる。愛した女性を傷つけることなど、ボクには考えられなかった。この期に及んでも、まだ清夏に未練があったのだ。
その夜帰宅すると、テーブルの上に、恵美が署名押印した離婚届とスヌーピーの携帯ストラップが置かれていた。「松澤さんから話は聞きました」というメモが添えられていた。ボクは、離婚届に署名押印した後、ストラップをゴミ箱に投げ入れた。

終章 雷鳴 に続く

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