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▼ 連載第12回 『雷鳴~長い長いトンネルの出口で見えたもの』
- ジャンル:日記/一般
- (小説)
第七章 事端
1
三月初め、ボクは清水課長に呼ばれた。
「カフェに行こう」
執務時間中にカフェに呼ばれるのは、人事と相場が決まっている。
課長は静かな調子で話を切り出した。
「四月一日付けで、君を課長代理に昇進させるとの内示があった。受けられるか?」
青天の霹靂だった。しかし、ボクは、自分の仕事ぶりが認められ、清水課長の言ったとおり、休職を理由として人事で冷遇されなかったことを素直に喜んだ。
一方で、ボクは清夏のことを考えた。課長代理になれば、課全体のマネジメントがその職務になる。それは、清夏と苦楽を共にして同じプロジェクトに取り組む機会を失うことを意味していた。それでもなお、社内でのボクの立ち位置を考慮すれば、このオファーを断る理由などどこにもなかった。
昇進の件を恵美に話すと、とても喜んでくれた。後日、ボクの好きなダンヒルのネクタイを贈ってくれた。シンプルなネイビーブルーの無地のネクタイだった。恵美は、喜んでくれると同時に、ボクの心と身体を心配してくれた。ボクが倒れた時の、心身が擦り切れた状態に最も身近で接し、献身的に看病してくれたのは、他ならぬ恵美なのだ。恵美を裏切り続けていることに、深い罪悪感と後ろめたさを抱いた。
清夏にも昇進の話をした。一瞬複雑な表情を浮かべたが、すぐに口元を緩めた。
清夏は後日、彼女の好きな明石町のレストランLにボクを招き、ご馳走してくれた。ボク達は、東京中の夜景を独占して、シャンパンで乾杯した。清夏が選んでくれた料理はどれも素晴らしいものだった。真鯛と鮃のカルパッチョ、フォアグラとポルチーニのリゾット、伊勢海老のポワレ、尾崎牛のグリルと続いた。白と赤のワインを一本ずつ開けた。清夏がボクを祝ってくれる強い想いがひしひしと伝わってきた。
ティラミスを食べながらエスプレッソを飲んでいると、清夏が小奇麗な包装紙に包まれた箱を取り出した。ボクの昇進祝いのプレゼントだった。
「開けていい?」
ボクの好きなダンヒルのネクタイを贈ってくれた。シンプルなワインレッドの無地のネクタイだった。ボクがプレゼントしたブックカバーの色を意識したのだろう。
「ありがとう。とても嬉しいよ」
ボクは、内心少し狼狽していたので、悟られないように少し大げさに喜んだ。そのわざとらしさは清夏には見抜かれたかもしれない。それでもボクは、心を込めてお礼を言った。
ボクはお手洗いに立ち、清夏がプレゼントしてくれたネクタイを身に付けてみた。テーブルに戻ったボクを見た清夏は、顔をほころばせていた。
「良かった。ともてよく似合ってる。どの色にしようかすごく迷ったんだけど、それにして良かった。会社にも着けてきてね」
ボクの頭の中は、清夏にもらったネクタイのことでいっぱいになった。これが、以前清夏が言っていた「勇輝さんにはなんでもしてあげたいし、その気持ちを全部受け止めてもらいたい」ということなのだろうか。
恵美以外の女性からもらったネクタイを家に持ち帰るわけにはいかない。そもそも清夏は、「ボクの家庭を壊すようなことをするつもりはない」と言っていたではないか。いまさらブックカバーのお礼でもあるまい。かといって、清夏の前でネクタイを着けないわけにはいかないし、清夏の素直なお祝いの気持ちは大切にしたい。
しかし、ネクタイのことを恵美に知られてはいけない。針の穴ほどの綻びが、恵美との生活の崩壊に繋がりかねない。いっそ、恵美がくれたネクタイと同じ色だったらよかったのに。ボクには、恵美との結婚生活を投げ出す覚悟はなかった。
その夜、清夏は、ボクの昇進を祝うかのように、いつもより長く、激しく、そして強く愛撫してくれたが、ボクが奮い起つことはなかった。
家に着いたら、いったん車の中にネクタイを隠した。出勤するときに車から出し、パッケージを駅のゴミ箱に捨て、駅のトイレでネクタイを着け替えた。
これなら誰も傷つくことはない。
嘘に嘘を重ねる罪悪感が次第に薄れていった。
第七章 2 に続く
1
三月初め、ボクは清水課長に呼ばれた。
「カフェに行こう」
執務時間中にカフェに呼ばれるのは、人事と相場が決まっている。
課長は静かな調子で話を切り出した。
「四月一日付けで、君を課長代理に昇進させるとの内示があった。受けられるか?」
青天の霹靂だった。しかし、ボクは、自分の仕事ぶりが認められ、清水課長の言ったとおり、休職を理由として人事で冷遇されなかったことを素直に喜んだ。
一方で、ボクは清夏のことを考えた。課長代理になれば、課全体のマネジメントがその職務になる。それは、清夏と苦楽を共にして同じプロジェクトに取り組む機会を失うことを意味していた。それでもなお、社内でのボクの立ち位置を考慮すれば、このオファーを断る理由などどこにもなかった。
昇進の件を恵美に話すと、とても喜んでくれた。後日、ボクの好きなダンヒルのネクタイを贈ってくれた。シンプルなネイビーブルーの無地のネクタイだった。恵美は、喜んでくれると同時に、ボクの心と身体を心配してくれた。ボクが倒れた時の、心身が擦り切れた状態に最も身近で接し、献身的に看病してくれたのは、他ならぬ恵美なのだ。恵美を裏切り続けていることに、深い罪悪感と後ろめたさを抱いた。
清夏にも昇進の話をした。一瞬複雑な表情を浮かべたが、すぐに口元を緩めた。
清夏は後日、彼女の好きな明石町のレストランLにボクを招き、ご馳走してくれた。ボク達は、東京中の夜景を独占して、シャンパンで乾杯した。清夏が選んでくれた料理はどれも素晴らしいものだった。真鯛と鮃のカルパッチョ、フォアグラとポルチーニのリゾット、伊勢海老のポワレ、尾崎牛のグリルと続いた。白と赤のワインを一本ずつ開けた。清夏がボクを祝ってくれる強い想いがひしひしと伝わってきた。
ティラミスを食べながらエスプレッソを飲んでいると、清夏が小奇麗な包装紙に包まれた箱を取り出した。ボクの昇進祝いのプレゼントだった。
「開けていい?」
ボクの好きなダンヒルのネクタイを贈ってくれた。シンプルなワインレッドの無地のネクタイだった。ボクがプレゼントしたブックカバーの色を意識したのだろう。
「ありがとう。とても嬉しいよ」
ボクは、内心少し狼狽していたので、悟られないように少し大げさに喜んだ。そのわざとらしさは清夏には見抜かれたかもしれない。それでもボクは、心を込めてお礼を言った。
ボクはお手洗いに立ち、清夏がプレゼントしてくれたネクタイを身に付けてみた。テーブルに戻ったボクを見た清夏は、顔をほころばせていた。
「良かった。ともてよく似合ってる。どの色にしようかすごく迷ったんだけど、それにして良かった。会社にも着けてきてね」
ボクの頭の中は、清夏にもらったネクタイのことでいっぱいになった。これが、以前清夏が言っていた「勇輝さんにはなんでもしてあげたいし、その気持ちを全部受け止めてもらいたい」ということなのだろうか。
恵美以外の女性からもらったネクタイを家に持ち帰るわけにはいかない。そもそも清夏は、「ボクの家庭を壊すようなことをするつもりはない」と言っていたではないか。いまさらブックカバーのお礼でもあるまい。かといって、清夏の前でネクタイを着けないわけにはいかないし、清夏の素直なお祝いの気持ちは大切にしたい。
しかし、ネクタイのことを恵美に知られてはいけない。針の穴ほどの綻びが、恵美との生活の崩壊に繋がりかねない。いっそ、恵美がくれたネクタイと同じ色だったらよかったのに。ボクには、恵美との結婚生活を投げ出す覚悟はなかった。
その夜、清夏は、ボクの昇進を祝うかのように、いつもより長く、激しく、そして強く愛撫してくれたが、ボクが奮い起つことはなかった。
家に着いたら、いったん車の中にネクタイを隠した。出勤するときに車から出し、パッケージを駅のゴミ箱に捨て、駅のトイレでネクタイを着け替えた。
これなら誰も傷つくことはない。
嘘に嘘を重ねる罪悪感が次第に薄れていった。
第七章 2 に続く
- 2019年10月9日
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