プロフィール

上宮則幸

鹿児島県

プロフィール詳細

カレンダー

<< 2024/4 >>

1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30

検索

:

アーカイブ

アクセスカウンター

  • 今日のアクセス:414
  • 昨日のアクセス:595
  • 総アクセス数:3760196

QRコード

砂塩鱗 その魚を手に触れた

極力見ないようにしたが、その魚のシルエットが瞼の裏に焼き付いてしまった。
BlueBlueテスターの川端君によると、他にも数本のオオニベがヒットしたらしい。

しかし、この広い浜でもそうあちこちで竿は曲がらない。
やはりそのエリアには数人のアングラーが竿を出していて、岸から離れた堤防下にはまだ数人が見える。
遠目にも足元の何かを皆が見ている様が伺える。
再び上がった140オーバーなんだろうか?

落ち着かない気分で釣り座を決めて浜に降りる。
竿はプロトの106にリールはWM60。
ラインはPE4号に落とした。

真っ先にセレクトしたのはブルーブルーから発売されたばかりのトレイシー40g。
対オオニベ戦と磯平用にブルーブルーから大量に送ってもらった。
第1投目を放つ。
まだタックルバランスの確認段階のため、遠慮しながら放ったが、緩い横風の中でも全く回転する素振りも見せずにブッ飛ぶ!
重たいとは言え、さすがにトレイシーだ。
巻きもルアーのフォルムに対して、非常に軽い。
ぶっちゃけ、発売前に「シーバスタックルじゃ引けないだろ?」と危惧していたが、40gまでキッチリ振れる竿であれば、巻き重りなど全く問題無い。
ベンダバールでなら余裕だろう。
感心しながらフルキャスト。
トレイシー25gを大きく超える飛距離に驚く。
比較的浅いレンジも引ける点も好印象だ。

ただバイトはおろか、ベイトの当たりも無い。
居並ぶアングラー達の迷惑にならぬように気を付けながら浜をランガンして歩く。
沖に浅瀬があり白波が立つ場所の手前のブレイクで数回ベイトらしい反応を見つけたが、それもすぐに見失った。
声をかけてくれたアングラーさんによると、朝日が昇った少し後からグチらしい反応が目立ったが、もう今はダメだと言う。
その言葉を恨めしく思いつつも、さっきまで膨らんでいた期待が萎む筈はない。
絶対まだチャンスはある。

次第にそのポイントに近付く。
赤いジャケットが見える。
ヒガミ根性の性悪なおれは人様のトロフィーなど拝みたくない。
ただ、祝いの言葉は掛けたいし、感想は是非聞きたい。

ヒデさんスゲーな!またヤッツケたの?!
満面の笑みの彼と握手する。
今回のファイトはかなりプレッシャーを掛けた旨を聞いた。
一昨日のモンスター程は走られなかったが、それでも今回引き出されたラインの長さに再び驚かされる。
「手前の濁りから出たところだった」
そう聞いてから、またおれは釣りに戻った。



潮は既に下げきっていて、沖のブレイクの辺りの海面が波気立ってはいるが、朝方ほどのウネリも無い。
それがいいのか悪いのか良くわからないんだが、釣りに集中しやすい状況ではある。
さっきから気がついていたが、ラインを細くしたのは成功だった。
横風の中でもルアーの操作性が昨日までとはまるで違う。
多少の波気があっても底取りが楽だ。

そんな事を考えていると、立ち位置の右側の水面が騒がしくなる。
そう言えば、さっきから巻いているトレイシー25から伝わる抵抗が違う。
底潮が効き始めたか?
確認の為にルアーをシーライド60にチェンジ。
やはりボトム付近に違和感。

ゴツン!ゴンゴンゴン!
魚からの反応。
ベイトが来た。
ルアーが重いおれは沖のブレイクまで届いているが、反応があるのは沖だけ。
数投の間に群れが寄って来た!
ルアーを変える。
ブリットワークス140、100gの青物用シンペンだ。
釣るならこいつで!と決めていたルアーだ。
届く。
ルアーを沈める間にもグチがゴンゴン当たる。
にわかに周囲のアングラーも殺気立つのがわかる。
30cm程のベイトが水面付近まで急浮上してライズするのが見えた。
一回じゃない、何度も何度も。
シルエットはグチのようでもあり、鯵のようでもあるが、水中はパニックなのだろう。
ヤツらが確実にいる。

無心でブリットワークスをボトムで細かく上げ下げするが、本命らしい反応はなかなか来ない。
暫く濃かったベイトの密度がやや薄れた。
核心は左か?右か?いや、依然として目の前か?
右側には数人のアングラーがいて、左は空いている。
数歩左へ歩いて様子を窺うがベイト気は更に薄い
再び元の位置に戻ろうと踵を返した時に、距離にして50m、二人目のアングラーの竿が曲がった!
両手で支える竿がバットまで絞り込まれたと思うと激しく叩かれた。
オオニベだ!
隣のアングラーが駆け寄る。
堤防上で様子を見ていたアングラー達も注目する。
おれも駆け寄るが、誰かが投げろ投げろと言う。
数人のサポーターが居るのを見て、迷いながらもまた竿を振る。
振るが落ち着かない。
ファイトを見たい。
ヒデさんも堤防から降りて来て「チャンスが来たよ!」と声を掛ける。
おれは気もそぞろながらもブリットワークスを放り沈めシャクり沈め…



遂にオオニベが仕留められた。
おれは釣りに集中する。
ボトムの流れは中層まで撹拌して水面まで細波を立てる。
高まる焦燥に連れ、ルアーに触れるベイトは遠退く。
やがて反応が消え失せた。

トロフィーの記録を刻む写真の撮影は既に終わっていた。
その場におれも歩いた。
祝福の声を掛けた。
笑顔が弾けた。
「東京から来ました、なんだかんだで十ウン年かかってヤット獲りました!」
凄い!
凄いことだ!
そう思いながらもテトラの影にいるその魚から、おれは目を反らす。
やはり手前でのヒットだと言う。

緊張の緒が切れたまま再び浜に向かった。
ルアーに霊はこもらない。
10数年と言う彼の言葉を頭の中で反芻した。
投げるのを止めて彼の元にまた行く。
「悔しいけど、やっぱり魚を拝ませて下さいよ」
フッキングしていた場所も尋ねた。
メタルジグを丸飲みでリーダーがヤバかったらしい。
写真を撮り、魚体を触らせてもらう。

co2zpnzwedveb7yh9exn_518_920-c1f162fa.jpg

特に口の外と中。
感触を指先に刻む。

「超妬ましいっすわ!」
本心だ。







あぁ…おれの魚はまだ遠い…


3日のチャレンジを終えた。
この日がピークであったとおれは後に知ったが、ひょっとしたら、この日釣りしながらおれはそう感じていたかもしれない。
翌日からFS、業界のショーレースにおれも巻き込まれた。
横浜が終わり、大阪から帰り、その都度おれはこの浜にまた帰った。
その間に2度3度のシケを挟み、徐々に浜は形を変えた。
浜の地形だけではなく波の形、射す角度、そもそも水の色が違う。
接岸する魚種も僅かヒト月ちょっとで激変した。




最後の日

遅めに到着。
クルマは疎ら。
駐車場で来る度に顔をあわし、挨拶を交わすようになった散歩のオバチャンが、どこから来てるのかを尋ねるから鹿屋だと言うと、奇遇にもオバチャンもそうだと言う。
宮崎に嫁いで40数年だと。
「ニベ?もっと早い時季に来なさいよあなた」
おれは笑うしかなかった(笑)
毎日往復6時間かけてクルマで通ってたと言うと呆れられた。
結局、この浜に来たのは9日か…

浜へと歩く途中で昨日も話したアングラーと情報交換。
いつの間にか顔見知りが増えたもんだ。
いつもの場所で投げているとOさん登場。
暫くダベる。
そして、ちょっとだけ投げて終了。

9日を通して見たものは、ピークからの下り。
もちろん時季は遅かった。
だけど、得たものは大きい。
おれは既に出来上がっていたその【場所】が崩壊していく様をつぶさに見た。
その【場所】はもう2度とここには形成されないんだろう。
しかしまた来期かならずその【場所】はどこかに形成される。
そう言えばいつか、地元の手練れは言った、昨年はあっち、その前はそっち…

また時季が来たら、おれはこの宮崎の浜に立つんだ。
そして今季出来なかった事、その【場所】の形成を見守るのさ。
そしたらその【おれの場所】にはきっとおれの魚も居る。


付き合って一緒にあがってくれたOさんと来期の再会を約束し握手を交わして家路に着いた。




砂塩鱗
蜃気楼のように現れては消える【夢の場所】を求め、浜をさ迷う者達をおれは密かに心の中でそう呼んだのだ
そうだ、あんた達の事だ
そして来期、おれだってその仲間になるんだ



この物語は暫くお休み




夢は来期へと 

つづく









Android携帯からの投稿

コメントを見る