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上宮則幸

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「小指がモゲそうになって血みどろだ」

男の言うことは大袈裟なものだ。
それは異性を相手にしている場合と、怪我や病気を語る場合においてはその度合いが増す。
今回はその両方が重なり、「モゲそう」と言う誇張表現になった。

そう言った本人はさっきまで呑気にジェイソンの破天荒を観ながら寝てしまおうと思っていたのに、脳裏にトラウトマン大佐がお出ましになられた事で、ついうっかり妻にLINEしたわけだ。
だから「明日キズを見てほしい」と書いた。

別に今夜今からでなくてもオレは全然オッケーと言う痩せ我慢を汲んでもらうのだ。
ちょっとすぐにも消毒する必要はあるだろうから、そう、結構傷は深いけどおれは偉丈夫だから病院は明日でいいと言う余裕がある様を妻に見せようとしたのだ、もちろん内実傷の炎症が恐い事を隠して。

とりあえず妻に帰宅してもらい、傷を見て、消毒液や包帯を買いにドラッグストアに連れて行ってもらえたら満足だ。

果たして妻の反応はわたしの目論見通りであった。
「ヤバいんだよね!今から向かうから、すぐに出られる用意をしておいて!」


夫婦と言うものは神秘的なものである。
おそらくは、わたしの胸中を妻は悟ったのであろう「このバカは私が連れて行かないと薬局にも病院にも行かないな」と。
そして、そう思ってもらえるようなメッセージをわたしはLINEしたのである。

駆け引きはとりあえず一段落である。
ジェイソンの破天荒や金髪美女の嬌声とは一時お別れだ。
わたしは小指がモゲそうなのも忘れて跳ね起き、さっき躓いた階段を掛け下った。

おそらくその様は負傷を思わせない程に俊敏だったろう。
階下の居間をまだ取り乱したままだったから片付ける必要がある。
あれを見られたら傷の心配そっち退けでキレられかねない。

止血に使ったティッシュペーパーや床板を拭いたワイパーシートが血糊べったりなまま居間の床に散乱しているのだ。

更には、大量のブロックチョコの包装のビニール包みがテーブルの上を埋め尽くしている。
大きな傷と大量の出血の不安から、妻のお菓子の買い置きにわたしが思わず手を付けたのだ。

不安や怒りや悲しみ等のネガティブな感情に支配されそうな時には、美味しいものを食べてネガティブマインドから脱却する、それがわたしの信条なのだ。

そそくさとティッシュやビニールやらをゴミ箱に詰め込み体裁を整えたところで、もう一度二階の寝室に戻った。
そして布団をかぶった。
怪我が不安な素振りなど妻に見せてなるものか!

「もうすぐ着くからね」妻からLINEが入る。
薬局に行くための服装を、あれとあれを着て…などとイメージをしておく。



バタン!と玄関のドアが開くのを聞いてから起き上がった。
階下から「大丈夫?」と妻の声が聞こえてきた。
「う~ん、どうかなぁ?ちょっと待ってて」
努めて平静な声で返事をした後で、衣装部屋に赴き、さっきイメージした衣服を手に取り、わざと鷹揚に階下に降りた。

心配気な妻の顔を見てわたしは多少誇らしい気分だ。
今から右足小指の勲章を開陳して更なる優越に浸れるかと思うと胸が踊る。

「うん、まぁ結構小指が裂けたし大量に出血したけど大丈夫だよ。さっきまでねー、おまえの足元なんか血の海でさー、ベッチョベッチョで大変だったんだよ。でも綺麗に掃除しておいたよ!」

妻は「ふーん」と言う顔をしている。
そう言えばそうだ、この人には全くハッタリは利かない。
いや、この傷を見せれば、この裂けた小指を見せさえすれば!

おもむろにソックスと止血のティッシュペーパーを剥ぎ取り、妻に傷を見るように促す。

妻が血で汚れたわたしの小指を開いて傷を見ようとするが、痛い!
「ヒッ!」と言ってわたしは足を引っ込めてしまった。
何たる不覚か!
今度は自分で傷を開き深さを見るよう妻に促した。

「う~ん、よくわからないね。とりあえず夜間救急に行こうか。」

期待はずれの冷静な声が反ってきた。
そう言えばそうだ、保育士の妻は職場で毎日のように緊急事態を捌いている。

慣れているのだ。

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