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不思議な出来事

 普段は所有しているルアーの写真1枚と適当な思い出話だけの当ブログですが、今回はルアー釣りに転向して30年ほどたった自分がこれまでにない不思議な体験をしたので、思い切ってその時の様子をちょっと書き残しておきたいと思います。
 私は、自宅のすぐ前が海ということもあって、基本的にはちょこっと時間をひねり出して近所の行ける範囲で竿を出すという釣りスタイルです。情報を頼りに好調な釣り場に出かけたり、ロマンを求めて遠征することはあまりありません。
 この日も夕マズメのタイミングに時間が少しできたので、自宅近所にある海水浴場の石積み堤防に出かけました。ガシラとあわよくばアコウが釣れたらいいな、とロッドはヤリエのシェーラザード・テクニカルBC、リールはスコーピオンBFSの組み合わせ、世間体に言えばベイトフィネスタックルです。もっとも、テクニカルBCは10年ほど前に私がヤリエさんと企画した7フィート3インチ、スローテーパーの対象魚問わずコンセプトのロッドです。
 PE0.8号に8ポンドフロロカーボンリーダーにジカリグのセッティング。5gのシンカーに2インチのヤリエのクローワーム「チヌバル」を組み合わせて、石積みの一番下から順に探っていきます。
 狙い通りにガシラ、さらにアコウもしっかり釣れて満足したので、あと1回キャストしてから終了しようと思っていました。キャストしてそのままスプールをフリーにしてシンカーが着底した感触が伝わる代わりに「カツン!!」と小さいがハッキリとしたアタリ。アワセるといきなりドラグ音がカリカリカリ!!と激しく鳴り、ラインがどんどん吐き出されていきます。ロッドは4軸カーボンで補強されたバット部分より上は「つ」の字になって暴力的な引きに耐えています。最初は40cmを超えるアコウか!?と色めき立ったのですが、アコウなら根に向かって突っ込むか横走りするのが普通。ところが、相手はひたすら沖へまっすぐに走ります。重量感もこれまでに経験したことのないものです。走りが止まるとリールを巻いて寄せにかかりますが、すぐに走り出してじわじわと距離を離されます。このロッドでよいサイズのチヌは何度か釣っていますが、チヌはこんなに引きません。スズキは跳ねますし、ヒラメなら水面でバタつきます。完全に暗くなっているので青物の可能性も低いです。つまり、ピンと張りつめたラインの向こうに何が掛かっているのか全く見当もつきません。
 それでも、相手は根に向かおうとせず沖を目指すだけの行動を取るようなので、どんなに引きが強くても、粘り抜いて相手がバテるまで耐えれば勝機はありそうな感じです。ただし、フックは6番の細軸オフセットなのでこちらが先に限界を超える可能性も高いです。
 少しずつリールを巻き取ることで距離が近づいてきた感じもしてきたので、とにかく掛かっている魚を確認しようと、ヘッドライトをオンにしました。が、つの字のままのロッドの先から伸びる0.8号は、まだまだ沖をめがけて遠くに突き刺さっています。リールが小さいので、ラインは60m程しか入っていませんが、まだ半分以上はロッドより向こう側です。メジロクラス以上のサイズの青物ならおそらくラインを一発で全部持っていかれると思うので、やはり青物ではなさそう。
 ヘッドライトをつけたまま引き続き持久戦。そのうちドラグが作動する時間も短くなってきたので、相手の動きが止まった時に思い切ってリールのハンドルを回します。ようやく距離が詰まってきました。ライトで照らした海面の下に相手がゆっくりと浮かび上がってきます。やけに白っぽく、そして頭が大きくて丸い。あ、タイや。
 とはいえ、ここから見えている魚は遠めからでも相当なサイズです。なぜ、このような浅い海水浴場にいたのか全く意味不明なのですが、とにかくこの魚は何としても獲りたい。もちろん、陸からの釣りでマダイが釣れるなんてそうそうあるわけでもなく、またなぜここにいたのかも知りたい。
 視認できる距離まで寄せましたが、このサイズを素手でハンドランディングは危険です。20mほど離れた砂浜まで魚を誘導しながら移動することにしました。魚の頭を砂浜方向へ向けさせ、少しテンションを緩めて石積みを横に移動しながら誘導していきます。ズリ上げる時が一番針が外れやすく、また少しでも暴れられたら張りつめたラインがプツンと切れてしまうかもしれません。ひたすらゆっくりゆっくりと波打ち際へ誘導します。波打ち際に横たわり、波が引いて頭が出た瞬間を見計らって、普段は根魚やアジなんかを掴んでいるガーグリップを口の中にねじ込み、渾身の力を込めて波打ち際から引っ張り上げました。
 手にしてみると、思ったよりさらに大きい。ただの魚ばさみであるガーグリップでは思い切り握らないと重さで落としてしまいそうです。大暴れされると大変そうですが、すでに体力を使い果たしてほとんど動きません。メジャーを当てるとちょうど80cmもありました。
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 こぶしが入りそうなほどの口の中には多くの歯が並んでいますが、摩耗している部分も多く、この魚が老成魚であることを示しています。体表もゴツゴツと荒れています。手早く撮影した後は敬意を表してリリースしようと水に戻して蘇生を試みましたが、何度姿勢を立ててやってもすぐに横倒しになります。
 これは蘇生不可能と判断し、そのまま車まで急いで持ち運び、大判のポリ袋に入れてすぐに近所の魚屋さんに持ち込んで切り分けてもらうことにしました。ところが、解体してもらったところ、ほとんど瘦せていて大きさの割にはあまり身が取れなかったのです。かなりの年齢の魚だろうということで、取れた部分は後日刺身と味噌漬けで焼いて食べました。(さすがにタイなので美味しくないということはなかったのですが)
 ここまでで分かったことは、この魚は相当な年齢であったことですが、ではなぜ海水浴場のような浅い場所にいたのかが分かりません。そこでチャットGPTに尋ねてみることにしました。AIなのでどこまで信頼できるかは未知数ですが、それとなく推察は可能だと思います。
 釣れた日、時間、潮回り、釣れた場所などの情報がほしいとのことなので、必要事項を打ち込むと、AIの知識では上げ潮でマズメが重なって魚の活性が高くなっていた可能性が高い、みたいな答えでした。さらに、普通は沖合で釣れるような大型のマダイがこのような場所にいたのか、その可能性を問うと回答はこんな感じでした。マダイの老成魚は、群れを離れて単独生活をする傾向がある。この個体もおそらく単独行動で餌を求めて深海から浅場に移動してきたのだろうと。体が大きいので、当然ながらたくさんの餌を食べないと自らを維持できませんから餌が豊富な場所を求めるのは当然のことです。
 AIの回答をもとに私が思うには、歳を取ってかつて住んでいた深海では餌を追う体力もなくなり、大型であるがために目立つリスクを背負いながらも捕食しやすい餌が豊富にある浅場にたどり着いたのでしょう。実際釣りあげた時の状況は、2インチのクローワームを石の上に落とした瞬間で、無防備なカニかエビだと思って食いついてきた、と考えれば納得できます。
 釣りあげた瞬間の画像を送信すると、AIの回答は、体色・ヒレ・眼球の様子から、これは相当な年数を生きてきた個体であるとのこと。すでに長時間に渡るファイトで体力を使い果たしており、蘇生はかなり厳しいため持ち帰って食した判断は正しいと回答してきました。
 もう一つ、この魚はほぼ寿命が尽きかけていた時にたまたま私が釣りあげたのかと尋ねると、その可能性は高い。しかし、そういう瞬間に立ち会えたのはある意味奇跡であり、素晴らしい経験をしたのではないか、と回答してきました。過去、私はボロボロになったスズキやチヌの老成魚は何度か釣っていますが、彼らはいつも通りの居場所でいつも通りにルアーに食ってきたにすぎません。よくよく考えると、20年以上は厳しい自然で生き抜いてきた魚が終の棲家を見つけ、そこで私に釣りあげられた、という特別なストーリーがあるように感じてしまうのです。
 まあ、所詮AIの回答ですし妄想の範疇でしかありません。しかし、自宅近所の海水浴場の堤防で巨大なマダイが釣れたのはまぎれもない事実です。ついでに言えば、使っていた竿が、私が10年ほど前にヤリエさんのところで本気で監修したライトゲーム専用のベイトロッド「シェーラザード・テクニカルBC」とワームも同社のチヌバル、スナップも同じく同社のEZスナップというのも、巡り合わせを感じます。
 ここ10年、環境の変化や釣り場を取り巻く諸問題で、私に釣れてくれる魚もずいぶんと減り、またサイズも小さくなりました。しかし、目の前の身近な海は世界中の海につながっている、だからこそ想定外な出来事も起こりうるのだと思いました。

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