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▼ 故郷の大河を再訪する
- ジャンル:日記/一般
- (嗚呼釣人生)
晩秋に大切な家族との別れがあり、この年3回目の帰郷をした。
ここ数年は3年に一度帰るか帰らないか・・というペースだったのでこれだけ頻繁に帰る事は稀だ。客先から、スーツのまま東京行きの新幹線に飛乗り、約6時間、そのまま東京駅から上野へ向かい上野発最終の高崎線に乗り1時間、日付が変わるころには実家に着くことが出来る。
これはこれで通いなれれば、九州~埼玉の道程は遠い様で近く感じるから不思議なものだ。
季節は初冬、実家の庭には霜柱が降りた。
九州と関東で温度差は僅か2℃ほどだが、地熱の低さは明確にあるように感じる、なぜなら住いのある筑後地方では、霜柱を見た記憶がないからだ。上州名物「空っ風」とは良く言ったもので、冬には冷たく乾いた赤城下ろしが吹き荒ぶ。
その気候からだろうか、この土地では食べ物も塩辛い味付けが好まれる。
帰郷した僕を待っていたのが、母が用意してくれた季節の食べ物。
糠漬、たくあん、白菜漬け、味噌汁、うどんなど、どれも懐かしい味だ、どれもこの土地を離れるまでそれが慣れ親しんだ味だったから、それがどれ程特徴的であるのかわからなかったのだけれど、今では九州での生活にすっかり馴染んでしまった僕でさえ、舌の記憶の奥底にその塩味は深く刻まれているものである。
人の感覚は不思議なもの、嗅覚や味覚は数十年過ぎてもなお鮮明な記憶を持ち、逆に視覚や聴覚の記憶というものはなぜか、余計な情報は削除されて行き、美化されてしまうような気がする。
僕にとって味覚の記憶、匂いの記憶は、何かを感じ遠く故郷を想うときに、何時でも取り出すことの出来る、一番手前の引き出しにそっと眠らせている。
実家のある場所は、埼玉県の中部。丁度、利根川と荒川に挟まれた場所に位置する。当然、その水辺で遊び釣りを学び今に至るのであるが、その原点を探るべく再訪の旅に出た。
此処が故郷の大河、利根大堰である。
今回、鮭の遡上期には一足遅かったから、その姿を見ることが出来なかったのが少し残念ではあるけれど、毎年秋になると、数百、数千の数がこの場所へ押し寄せる。
散々河原を歩き、その姿を一目見たいと探してはみたのだが、結局見付けたのは鳥か獣が食べ残した頭と皮だけであった。
鮭は約3~4年を海で過し故郷の川に帰ってくると言われている。嗅覚で故郷の水を嗅ぎ分けるのだと言う。それが僕自身の今の感覚に重なって思えてきた。
きっとこの鮭も子孫を残す為に故郷を求めて、その最期をこの河原で迎えた訳である。
当然であるが匂いも味も目には見えないもの。
目に見えるものだけが世界の全てと思えば、多くのことを見逃している事に成りかねない。
釣りもまったく同じで、目に見える釣果ばかりを追いかけても技術や精神は磨かれない。
目で見ることが出来ない水の中の世界を何処まで深く知ることが出来るかが重要であり、人間生活では使うことの無い様々な感覚を磨き、生き物として気配を肌で感じることが出来るようになると僕は信じている、それが備わることでより魚に近づく事が出来るものだと。
嘗てそんな感覚を覚えたのが此処、利根川である。
僕が記憶していた景色や地形や道とはだいぶ違うけれど、河原に身を置くことだけで満足できる時間だった。
僕が此処で釣り師を目指している頃は、そんな余裕は微塵も無かったけれど。
今は竿を握ること無く、ゆっくりとその情景を目に焼き付ける事に専念する。人生はいつ何時どうなるのかはわからない、もしかするとこれが最後の利根川になるかもしれない?仮にそうだとしても、僕は此処で釣りをする気にはなれない。
僕にとっての最高のシーズンはもう15年も前に終えたんだ。
そこには色々な仲間の笑顔があって、いい魚もたくさん釣れて、川はもっと生命感に満ちていて。
それは最高のシーズンだった。それ以上を今の僕はこの利根川に求めていない。
利根川、今昔、色々な事を確かめながら考えながら流れを見つめていたら、あっというまに時間は流れて、午後三時を過ぎていた。今回は嘗ての釣り仲間、それと今の利根川のアングラー数人とつり談義をする機会恵まれた。
夕方からは待ち合わせの時間になる。悪路の泥水で汚れてしまった実家の車をスタンドで急いで洗車すると、急ぎである場所へ向かう。
釣具屋である。
「買いたいものがあるから、顔を出します」と前もって電話を入れる。
買うといっても九州では手に入りにくいフライの小物を少し、それとタナゴの道具を少し。2人ほど釣り仲間が駆け付けてくれて、釣りにまつわる談笑は続く。
夜からは、fimoで繋がった利根川の仲間達と釣り談義、実家近くの居酒屋へ。サクラマスや鱸の話、川の話、釣り方の話、道の話、その話題は尽きる事無く深夜まで。
そうして楽しい時間はあっという間に過ぎて、翌日から九州へ移動。
こちらは帰りの新幹線で読んだ釣り雑誌。
年末大先輩が僕に送ってくれたもの。内容としてはこの時代にして良くぞ作ってくれましたっていう感じで楽しめた。
僕も四十を過ぎて哀しい事も多くなったけれど、その分、懐かしい者たちとの再会、新たな出会いや発見もある。
過去を忘れる事が出来ればどれだけ気楽になれるのか?とも考えるけれど、記憶を簡単に消し去る事など出来ないから、事実を受け入れて噛み砕き飲み込み、気持ちを整理して受け入れる事をしなければ、きっと僕等は前には進めない。
2015年は少し良い事が増えます様に願いを込めて。
※喪中につき新年の挨拶を控えさせて頂いております、何卒、ご了承願います。
- 2015年1月2日
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