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▼ 夢追五夜 第三夜
第三夜
自分の会社はどうにでもなる。
仕事入れるのも適当に暇を作るのもだ。
おれも久しぶりの肝属カワヌベ探しをガッツリやりたかったから、この5日だけはスケジュールを空けておいた。
まぁ、繁忙期を乗りきり余裕もあったんだ。
ところが、友人を迎える一日前に高校の後輩から電話が。
彼も小規模であれこれ土木絡みの仕事を生業にしている。
急な仕事でダンプの運転手が必要になって加勢してくれと。
重労働じゃないだろうな?
いや、かんさんは運転手だから…
同じ小規模経営で助け合っていこうな!と手を握った相手だから二つ返事で受けた。
ところがだ!重労働だった(笑)
日当弾むから!と言われても日中30℃近くになる中で久しぶりの人力破砕。
身体に堪えない訳がない。
なんで . 2をリースしねーの?
ごめん!請けた金額的にリースしたら合わないから…
おれも自分の仕事で急な無茶を振られ泣かされる身だからわからなくもない…
まだ陽が高いうちになんとか仕事を終わらす。
釣りするのは夜遅くからだとしても、どうにか疲労感を少しでも抜きたい。
友人に温泉に浸かってから釣りしようと提案して快諾してもらう。
温泉は釣り場まで15分のところにある。
入湯料は310円と格安。
温泉と水風呂を交互に出入りして手足をマッサージすると疲労物質も流れるように感じる。
湯からあがり休憩室で横になりのんびり。
離れたところでビールを飲むおっさん達が究極に羨ましい。
だが、もちろん飲むわけにいかない。
なんとなく疲れもほぐれた気になって釣り場に向かう。
今夜は先ずは下流側に入り、干潮を迎えたタイミングに上流側に移る予定。
駐車スペースから下流側を見ると、浸かりが一人、陸っぱりが二人。
陸っぱりの二人まで浸かっているようなら厳しいが、浸かってないからスペース的に問題は無いだろうと判断して入水ポイントに向かう。
しかしなんと、予想以上に海からのウネリが高い。
まぁ、釣りにならない事も無いから入水してみたが…
釣り始めて分かったのだが、陸っぱりでやっていた二人も、本当は浸かってやりたいようなんだが、入水できる場所が良くわからなくて立ち往生していたような素振り。
そう、ちょっと前までの入水ポイントは深く掘れてしまって使えなくなってしまっていた。
おれ達は前夜の釣りでそれは掴んでいて、他の場所を見付けていた。
あ、これは遠慮すべきだなと判断してすぐに水からあがる。
もちろん、入水ポイントを知ってるおれ達にアドバンテージはあるんだろうが、わざわざ早くから来てあれこれ悩んでいる先行者を尻目に釣りするのは気が引ける。
サッサと上流側に移動。
まぁしかし、下流側、岸際にベイトが居た。
後ろ髪を引かれる…
そんな事がありつつ上流側に改めて浸かる。
しかし、やはりこのポイントは全く流れを感じない。
ベイトは居なくもない。
いや、むしろ多い印象があるが…
タラ~ンとした水に様々なルアーを通すも何も無し。
タイドグラフ的には干潮を迎えた。
が、上げが込む頃になれば岸際に下げる向きの流れが起きる事は元々掴んでいた。
このエリアは上げの流れが左岸側に向けて斜めに指してくる。
その反転流が右岸に発生するわけだ。
このポイントでの過去のカワヌベ釣果は上げっ端に集中している。
今から暫くがチャンスタイム。
と、言うタイミングでおれは身体が言う事を効かなくなった。
やはり過労だ。
ロッドを掴む右手が痙攣し、頭もボーッとしてきた。
友人に、ヒットしたら大声で呼ぶように言葉を掛けて一人川岸に上がった。
ちょっと体調が良くなったらまた入水するつもりだったが良くはならない。
そのクセ、様子が気になってゆっくり休めない。
新月の闇に彼のシルエットがボンヤリ見える。
ライトが灯りやしないか、補食音が響きやしないか、彼のヒットコールが聞こえやしないか…
朧気にシルエットが近付いてくる。
立ち止まり撃ち、少し歩いてはまた立ち止まり撃ち…
歩く方向は一方向。
上流だ。
呻くような声を挙げておれは立ち上がりまた入水。
彼の元へ行く。
おれを見付けて彼から溜め息が漏れる。
何も無い…
ダメだね…
油のように静かに、たゆたゆと揺れる水面が急激に嵩を上げ今夜の諦めの時を迎えた…
- 2018年6月16日
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