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上宮則幸

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鬱屈中年とキラキラカップル

  • ジャンル:日記/一般
昨夜のこと

おれは早い時間から酒を食らっていつの間にかソファーで寝落ちしちまったらしい。
それから目覚めたのは午前0時過ぎ。

急にコーラが飲みたくたり自宅近くのタバコ屋の自販機までふらふら湿っぽい空気の闇を歩いた。

おれの住むアパートは古びた住宅地の外れ。
だから道中は真っ暗だ。
急な坂道で道路脇の側溝の蓋はガタガタの段差だらけだ。
おまけに舗装はゴツゴツしたコンクリートで歩き難い。

今にも小雨がパラパラはじまりそう。なのに傘を持って来なかったのを後悔していると、アパート脇の森からフクロウがホーホー。

フクロウだぜ!珍しくない?

鳴き声の主がどの枝に留まっているのか?頭上が気になる。
足音を立てるとヤツが飛んで逃げちまうから極力静かに歩く。

そんな訳で、こっそり歩いていると若い男女のささやき声が。

おれが目指す自販機の青白い灯りの中に男女の姿が見えた。
ジャージにTシャツのまだ線が細い男性と、水色に白い水玉のパジャマ姿の小柄の女性は、たぶん高校生のカップルなんだろう。

昔散々聴いた覚えのあるカヒミ・カリィさんみたいな印象的な可愛い声の女の子と、まだ大人に成りきっていないような少し高い声で、喉が引っ掛かり小声が上手く出来ない男の子が、こっちが恥ずかしくなるような甘い会話を交わしている。
明日も会う約束をしているようだから、別れ際か?

今から帰るらしい男の子が自転車から身体を寄せてハグを交わしている。
女の子はもぅ~何度め~とか嬉しそうな。

おれは邪魔しちゃ悪いかと、闇の中で待つことにした。
しばらく甘いささやき声を聞くともなく彼らが去るのを待っていたが、二人が離れて自転車が走り出した。
やっとか…とおれが思ったら、15mほど先で自転車が停まって、女の子が駆け寄りまた抱き合う。
額どうしを合わせて何かまたささやき合う…

これは相当激しく極めてシュールな状況だ!
自販機のスポットライトの中の眩いばかりのキラキラした若年カップルを、フクロウの鳴く森をバックに荒んだホームレスチック中年が羨ましげに見ている。

おれは居たたまれなくなって速足で自販機へ。

おれが同じ年頃にはあんなこと無かったなぁ…とか思い返した。

まぁおれははっきり言ってモテた。
当時はまぁまぁの見た目でスポーツも勉強も出来たからか、体育祭とかのイベントで女子から一緒に写真撮ってくれとか靴箱に手紙をもらったりとか、放課後の駐輪場で告白を受けたりとか…そんな記憶がいくつかある。
(男子からの人気は全くなく友達さえほとんどいなかったが)
ただ、我ながらこの異常な性格のおれである。
それがハッピーな思い出には全く繋がってはいない。

何故なんだろう、おれは人から誉められたり期待されるのが嫌いだったが、それは今でもあまり変わらない。
当時はそれに若者特有のシャイさも相まって、おれに好意を持ってくれた人に対しては冷たく接したものだ。
相手の人達に不愉快な思いをさせて、今思えば申し訳なかったなぁ…

この、【アンチ被好意】的な感情は何なんだろう?
ようやく長年の自己分析の末にこの感情の根元と思わしきものが見えてきた。

それは母親との関係にあるように思われる。
幼少の頃、おれの母ちゃんは一緒にいる時におれのことを何でも誉めてくれた。
おれにはそれは凄く嬉しいことで、幼いながらも母ちゃんにもっと喜んで欲しくて勉強も家庭での手伝いも頑張ったもんだ。

でも成長するにしたがって、ご近所さんや親戚がそんなおれの様子を誉めると、母ちゃんはそれを必ず否定しているのに気がつくようになった。
全然役にも立たないけど教育のためにやらしているのだと言う旨のことを言っていたと思う。

もちろんそれは人様に対する謙遜だったのだが、それが凄く気に食わなかった。
だっておれ誉められたくて頑張ったんだもん。
だから次第におれは、お誉めの言葉ってのはウソなんだと思うようになった。
それが、自分への好意も疑い嫌がるようになって行った。

でも今は全く違うんだ。
我が子を持って、心から子を誉める今のおれのこの言葉が嘘や間違いである筈がないからだ。

おれの母親はおれの教育を間違ったとは思うが、おれが間違うわけにはいかない。




目の前のカップルの様子に、おれもマトモだったらあんな楽しい嬉しい思い出があったんだろうか?などと自らを少し残念に思いながらコーラのボタンを押すとガタン!と静寂を破る音。

女の子が驚いたのか、キャッ!と小さな悲鳴が背後から。
思わずおれが振り返ると怪訝な視線を向けていた二人が、いっせいに逃げだした。
女の子はフルダッシュで、男の子はアクセル全開。

いや、おれホームレスでも幽霊でもねーし!

急におれは不愉快な気分になり、胸の内で二人に罵詈雑言を浴びた。
早く別れろー早く別れろー…と呪いの言葉をリピートした。

自販機の灯りの中、おれはプシュッとプルタブを起こし、一気にコーラを食道に流しこんだ。
空いた缶をゴミ箱に乱暴に放り込み、道端に落ちていた石ころを手に取った。
憂さ晴らしに森に投石。
いつの間にフクロウは鳴き止んでいたが、そのかわりにバサバサと羽根音が遠ざかっていった。


そしてふと思った。
キラキラカップルも蹴散らしファンタジックフクロウも追い払ってやって、こんな鬱屈ホームレスチック中年が、今、この時、自販機スポットライトを浴びる主役になったんだ!

なんて爽やかな気分。


やっぱりおれは性悪だな…
唇の片方だけを吊り上げ、わざと悪い笑い顔をして、満足して踵を返し闇にまた帰った…


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