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上宮則幸
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▼ 昔ばなし 6
- ジャンル:日記/一般
駐輪場の屋根の下で脱いだ雨具を自転車に干し、雨に濡れないように校舎に駆け込む。
おれはいつも遅めに登校するのが常だったから、教室内には既に殆どのクラスメイトが揃っていた。
おれはクラスでは地味な存在だし、小さな小さな小学校から中学に進学して妙に萎縮してしまい、上手く馴染めないままだ。
目立つ事は大嫌いだし、学校には1秒も居たくない。
比較的真面目な生徒ではあるが、そんなに勉強は出来るほうでもない。
友達と言えるクラスメイトは…いないと言っても差し支えない程。
かろうじて数人が遊びに誘ってくれる昼休みや放課後のサッカーや何やらにもなるべく加わりたくない。
親の手伝いの農作業のお陰で身体は頗る頑強だが、体育の授業で激しくプレーしてクラスメイトに怪我を負わした事が一回や二回どころではない。
いつも遠慮しないといけないから、楽しく遊べないのだ。
それよりは、図書室に籠って読書をするのを好んだ。
小さく「お早う」と、伏し目がちに誰にともなく挨拶をして自分の席に着く。
おれは夕べ観たテレビや漫画の話しを誰かとするでもなく、カバンの中の教科書やノートを机の中に時間割の通りに並べて仕舞い込んだら、視線を取り出した文庫本に落とした。
朝のホームルームが始まるまで、ずっと読書をしている積もりでいたが、ガヤガヤする教室の中に担任が突然お早うの挨拶とともに入って来た。
おれは気付いたが、予想もしない事だったので担任が来た事に気付かない生徒達がまだ大声でフザケていた。
担任の「ちょっと聞きなさい!」の大声に、漸く静寂が訪れた。
「今朝は急遽、全校集会があります。雨の日はいつもは体育館でやりますが、今日は予定にない集会なので、なるべく早く終わるために、一階の下駄箱のある土間で行いますので、今すぐに移動してください!はい、行動開始!!」
担任の引率で一階まで階段を降りる。
他のクラスの連中も合わさり、ガヤガヤうるさい。
おれも、何事が起こっているのか良くわからないが、ひょっとして…昨日のあの野池での一件が関係しているのではないか?と言う考えが頭をよぎる。
そうだとしたら、誉められるのかもしれないと思った。
あのボヤを必死で鎮火したのは、おれと草刈りのおばちゃんと後から駆け付けたおじちゃんの3人。
おばちゃんは手をちょっとだけ火傷してすぐに帰ってしまったが、おれとおじちゃんはその後も居残り、遅くまで燻っていそうな怪しい所に池の水を汲み消火をした。
おじちゃんはどうして火が着いたかを尋ねたが、高校生達のタバコの吸い殻の不始末で火が着いたことを説明した。
おじちゃんは、高校生達が逃亡するところを見ていたが、慌て方が尋常じゃなかったぞと、笑っていた。
おれは、彼らもわざと火を着けたわけではなく、事故だった事を強調して庇おうとした。
おじちゃんは、お前は偉いなぁ!と誉めてくれた。
そんな事を思い出しながら、全校生徒の前で誉められるのはかなり恥ずかしいからちょっとイヤだなぁと苦笑いしながら、列に並んだ。
生徒達の前に体育教師が運んで来た踏み台が置かれた。
痩せぎすで、登頂部まで禿げ上がった校長が上った。
台の上の校長の顔は、日頃の厳しさに輪を掛けて厳しい。
彼はその表情のまま、皆の顔を数秒見回した。
何やらいつもと様子が違う。
お早うございますの挨拶も無いまま彼の口から出た言葉は「残念なお知らせがあります。」
厳しい顔はそのままだが、声は信実残念さが滲んでいる。
彼は続けた。
「昨日、わたしがこの学校にやって来てから、一番悲しい事が起こりました。皆さんの中に、校区の野池でボヤ騒ぎを起こした者がいます。今この場でそれがどのような事件で、誰がやった事なのかは、皆さんに詳しく報告する事はしませんが、ある人から、事件の全てを聞いています…」
その後の彼の言葉は、それが如何に残念な出来事で重大な事件であるかが滔々と語られた。
その時間は恐らく数分の事だったに違い無いが、おれにはとても長い時間に感じられた。
頭をよぎるのは何で?何で?何で?…違う違う違う…
校長の言葉はおそらくおれに投げ掛けられているのだろう。
ただ、話しが全く違う。
他にボヤ騒ぎがあったのか?いや、きっとそうではないだろう。
彼は野池と言った。
野池は校区に2ヶ所しかないし、もう1ヵ所の野池も昨日の現場から見える範囲にあるほど近いが、そんなボヤなど無かった筈だ。
目の前が真っ暗になる程に狼狽した。
本当におれは身体がグラグラしていた事だろう。
何が起こっているのか?
何でそうなってしまったのか?
「………この後、自分の事だわかっている者は校長室に来なさい。」
校長の言葉は終わった。
おれは担任に目を向けた。
50代女性の彼女の鋭い視線がおれの顔に突き刺さった。
おれは頭を強烈に打たれるような感覚に襲われた。
おれは犯人にされたんだ
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おれはいつも遅めに登校するのが常だったから、教室内には既に殆どのクラスメイトが揃っていた。
おれはクラスでは地味な存在だし、小さな小さな小学校から中学に進学して妙に萎縮してしまい、上手く馴染めないままだ。
目立つ事は大嫌いだし、学校には1秒も居たくない。
比較的真面目な生徒ではあるが、そんなに勉強は出来るほうでもない。
友達と言えるクラスメイトは…いないと言っても差し支えない程。
かろうじて数人が遊びに誘ってくれる昼休みや放課後のサッカーや何やらにもなるべく加わりたくない。
親の手伝いの農作業のお陰で身体は頗る頑強だが、体育の授業で激しくプレーしてクラスメイトに怪我を負わした事が一回や二回どころではない。
いつも遠慮しないといけないから、楽しく遊べないのだ。
それよりは、図書室に籠って読書をするのを好んだ。
小さく「お早う」と、伏し目がちに誰にともなく挨拶をして自分の席に着く。
おれは夕べ観たテレビや漫画の話しを誰かとするでもなく、カバンの中の教科書やノートを机の中に時間割の通りに並べて仕舞い込んだら、視線を取り出した文庫本に落とした。
朝のホームルームが始まるまで、ずっと読書をしている積もりでいたが、ガヤガヤする教室の中に担任が突然お早うの挨拶とともに入って来た。
おれは気付いたが、予想もしない事だったので担任が来た事に気付かない生徒達がまだ大声でフザケていた。
担任の「ちょっと聞きなさい!」の大声に、漸く静寂が訪れた。
「今朝は急遽、全校集会があります。雨の日はいつもは体育館でやりますが、今日は予定にない集会なので、なるべく早く終わるために、一階の下駄箱のある土間で行いますので、今すぐに移動してください!はい、行動開始!!」
担任の引率で一階まで階段を降りる。
他のクラスの連中も合わさり、ガヤガヤうるさい。
おれも、何事が起こっているのか良くわからないが、ひょっとして…昨日のあの野池での一件が関係しているのではないか?と言う考えが頭をよぎる。
そうだとしたら、誉められるのかもしれないと思った。
あのボヤを必死で鎮火したのは、おれと草刈りのおばちゃんと後から駆け付けたおじちゃんの3人。
おばちゃんは手をちょっとだけ火傷してすぐに帰ってしまったが、おれとおじちゃんはその後も居残り、遅くまで燻っていそうな怪しい所に池の水を汲み消火をした。
おじちゃんはどうして火が着いたかを尋ねたが、高校生達のタバコの吸い殻の不始末で火が着いたことを説明した。
おじちゃんは、高校生達が逃亡するところを見ていたが、慌て方が尋常じゃなかったぞと、笑っていた。
おれは、彼らもわざと火を着けたわけではなく、事故だった事を強調して庇おうとした。
おじちゃんは、お前は偉いなぁ!と誉めてくれた。
そんな事を思い出しながら、全校生徒の前で誉められるのはかなり恥ずかしいからちょっとイヤだなぁと苦笑いしながら、列に並んだ。
生徒達の前に体育教師が運んで来た踏み台が置かれた。
痩せぎすで、登頂部まで禿げ上がった校長が上った。
台の上の校長の顔は、日頃の厳しさに輪を掛けて厳しい。
彼はその表情のまま、皆の顔を数秒見回した。
何やらいつもと様子が違う。
お早うございますの挨拶も無いまま彼の口から出た言葉は「残念なお知らせがあります。」
厳しい顔はそのままだが、声は信実残念さが滲んでいる。
彼は続けた。
「昨日、わたしがこの学校にやって来てから、一番悲しい事が起こりました。皆さんの中に、校区の野池でボヤ騒ぎを起こした者がいます。今この場でそれがどのような事件で、誰がやった事なのかは、皆さんに詳しく報告する事はしませんが、ある人から、事件の全てを聞いています…」
その後の彼の言葉は、それが如何に残念な出来事で重大な事件であるかが滔々と語られた。
その時間は恐らく数分の事だったに違い無いが、おれにはとても長い時間に感じられた。
頭をよぎるのは何で?何で?何で?…違う違う違う…
校長の言葉はおそらくおれに投げ掛けられているのだろう。
ただ、話しが全く違う。
他にボヤ騒ぎがあったのか?いや、きっとそうではないだろう。
彼は野池と言った。
野池は校区に2ヶ所しかないし、もう1ヵ所の野池も昨日の現場から見える範囲にあるほど近いが、そんなボヤなど無かった筈だ。
目の前が真っ暗になる程に狼狽した。
本当におれは身体がグラグラしていた事だろう。
何が起こっているのか?
何でそうなってしまったのか?
「………この後、自分の事だわかっている者は校長室に来なさい。」
校長の言葉は終わった。
おれは担任に目を向けた。
50代女性の彼女の鋭い視線がおれの顔に突き刺さった。
おれは頭を強烈に打たれるような感覚に襲われた。
おれは犯人にされたんだ
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- 2016年12月26日
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