釣り。
僕も仲間達もそこを趣味とは呼ばない。
釣道、そこは上手と下手がある世界。

釣りの世界への浸かり具合というのがある。それは足首までなのか？首まで・・頭まで浸かってるのか？という話になる。
釣りは自由であるべきだから、それぞれのスタイルでスタンスで釣りをすればいいのだけど、僕はどっぷりだった。
人生を懸けて釣りをしてきたのなら、その際限無き釣りの世界に、時に竿を置き、立ち尽くす事もある。

今はそんな答えも出ていて、日常の生活とこの道を両立させるのにはそもそも困難なものであると理解出来ている。

最終目標がプロになる事だったり、大会で優勝する事だったり、そんな明確なものであれば僕は悩む事無く釣りを止めていただろうと思う。
一時的に、点でのシチュエーションで人よりも上手くなったとしても、釣れない時が必ず来る事を知っているから、人との競い合いには興味が無い。
もう20年近く前、知人が大手釣具メーカーの看板を背負って、トーナメントへ参戦するプロになった。久々に会った時の彼が吐いた言葉が僕の胸の奥の方へにグサリと鋭利に突き刺さったのを覚えている。

その言葉は「プライベートで釣りしたくないね・・」というものだった。

僕はその瞬間、これから本気で挑むはずだったバストーナメント参戦を止める決心が付いた。僕はその彼以上になったとしても、救われないという事を知ってしまったのである。

他の釣り仲間と腕を競い合う事は楽しいものであると思うが、競技ともなると、腹の探り合い、裏のかき合いになり、楽しいものではなくなる。
誰だって誰にも負けたくは無いだろう、でも１位であり続ける事以外に道は無いのだとしたら、そんな釣りを僕はしたいと思えない。
少なくとも今はそう思っている。

そもそも釣が上手いって事はどういう事なのだろうか？
大物を数釣る人、ノットやキャスティングが上手い人、どんな条件でも結果を出せる人、釣れた後付の理論を説明できる人、準備が上手で荷物が少ない人。周囲の釣人に影響力がある人、魚の扱いが的確でリリースがスマートな人、釣行時間の短い人などなど、数えればキリが無い。

一番簡単なのは、数字を持って人に話せば誰でも納得してアンタは凄いって話になるだろうけど、本当に凄いのはフィールドだって事くらい誰でもわかるはずだ。

人が行かない釣り場で人が出せないサイズの魚を沢山釣る事で、少しだけ始めるタイミングが早ければそのフィールドの有名人には成れるだろうけど、ある日、斬新な釣り方でそんな記録は簡単に抜かれ、深い敗北を味わう事になる。

悔しくて眠れないくらい悔しくて、自分に腹が立って、真夜中にハンドルを握り、深夜フィールドに立ち込み釣れるまで竿を振り続ける事になるかもしれない。そこまでして守りたかったプライドや記録は、いったいどんな価値を持っているのだろうか。

今となっては、「若かったんだ。」としか思えない。

釣り場には色々な人が来る。
趣味での釣り、レジャーで釣り、仲間との遊びが釣り、それも釣り。そんな釣りでも魚達は趣味程度に遊んでくれて、遊び程度に釣れてくるだろう。そこに感謝などないから、マナーもモラルも要らないってゴミが捨てられ次元の低い話になる。人が多い釣り場ってのは、レジャー向けの釣り場だから、わざわざそこで竿を出して本気で釣る事も無い。本気になるのは、皆が帰った深夜、誰も居ない真昼間、シーズンオフと呼ばれてる時期。
そこで結果を出せるのが本物なのじゃないか？僕は思っている。

そこから、新しい釣が生まれ、斬新なアイデアも生まれ、試行錯誤繰り返しながら真直ぐな一筋のこの釣道を貫くのがカッコイイと思う。
最近思うのが、「絶対釣れる事も絶対釣れない事も無い」という事。やってみなければ答えは出ない。やっても答えが出ない事が常であるから、釣れないと苦しいかもしれないけれど、釣れないの先にしか、「釣れる時」は来ないのだから仕方無い。


僕は沢山釣ってきたけど、大物って大物は釣ってない。今から大物を釣りたいなんて欲もあまり無い。今の僕には大型を釣ってもあまり意味を持たないからである。そこそこのサイズでいいから遊んでくれればそれでいい。釣れそうも無い魚を釣りたいって浪漫的な釣行がメインで良いと思っている。

これから先は釣りと上手に関われる人に成りたい。