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上宮則幸

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昔ばなし 5

  • ジャンル:日記/一般
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↑前回 昔ばなし 4


おれは後頭部が熱くなるのを感じたが、それは秋の夕陽の為ではない。
後ろから感じる視線には熱い怒気が溢れていたからだ。
「何?この生意気なガキ!」と低い声が。
仲のいいお兄ちゃんがすぐに「いや、いつもコイツに魚釣り教えてもらってるんだよ!」。
不穏な空気におれも恐くて言葉が出ない。
「チッ」と舌打ちが聞こえる。
「○○君しばいちゃえば?」「やっちゃう?」、後ろから更に言葉が投げ掛けられた。

おれは誰とも目が合わないようにその場から離れようとした。
お兄ちゃんの「ゴメン」の小声が聞こえたが、複数の良からぬ感情の視線に怯えながら立ち去った。

近くに置いた道具を抱えて、おれは帰ろうと思った。
逃げるのだ。
先日弟が見知らぬ高校生にカツアゲされたばかりだ。
暴力を振るわれないとも限らないし、今はその恐れが強い。

荷物を抱えた時それが起こった。
高校生達の座る近くに干された牧草がパチパチと音をあげ燃え始めた!
近所のおばちゃんが家畜の牛の餌にするために刈り干していた牧草だ。
おばちゃんはいつもおれ達が通りやすいようにと、池の堤の入り口や通り道から草を刈ってくれていた。
恐らく、高校生の彼等が吸うタバコの吸殻から火が燃え移ったのだろう、その干し草が勢いを増しバチバチと大きく燃え拡がりはじめた!

おれは手に持った荷物を放り投げた。
消さなきゃ!火を!
高校生達も慌てて消火にかかる。
ある者は靴で踏み付けたり、ある者は尻に敷いていたレジャーマットで押さえ付けたり、またある者はジュースの缶に池の水を汲んできて炎にふりかけたり…
しかし、どれもこれも炎の拡がりを食い止められない。

「あちっ!」
「無理だよ!」
「逃げようぜ!」
泣きそうな声で彼等が叫ぶ。
そして恐ろしくすばしっこく道具を抱えて彼等はバイクに向かって逃走する。
おれはそれを見る暇も心の余裕も無い。
消さなきゃ!

暫くして、堤の斜面で草を刈っていたおばちゃんが叫びながら駆け付けて来た。
「何て事してくれたのよ!」
おれはゴメンゴメン、多分タバコの火が…としか言えず、ただ燃える干し草を踏みつけて炎と戦うしか無かった。
おばちゃんは着けていたエプロンを池の水に浸し、炎を抑える。
もう一人、近くで農作業をしていたおじちゃんが駆け付けた。
そして、まだ燃えてない干し草を炎から遠ざけろ!と怒鳴るようにして言った。
炎を消すのを止めて指示に従った。

程なくして火は収まった。
「よー頑張った!」
おじちゃんが褒めてくれた
おばちゃんは怒り心頭なのが見てとれる。
苦労して刈った牧草が燃えたんだから、その怒りは理解できる。
右手に火傷を負っているようだ。
大丈夫?と声を掛けたが、それには答えず目まも合わさず
「大変な事だよこれは、大変な事だよ…」
呟きながら帰ってしまった。

残り火が不安なおれとおじちゃんは暫く残ったが、暗くなる頃おじちゃんがまだ茜色が微かに残る西の空を指差して、夜から雨だから、このままで大丈夫だと言った。
おれはやっと安心して帰宅した。

食卓で両親にその事件を報告した。
もう池には行くなと言う母ちゃんを制して父ちゃんがその高校生達の身元がわからないか?と聞いてきた。
仲のいい高校生二人の名前を知っていたから答えると、住んでる場所は?と。
たまたまそれも知っていた。
父ちゃんはそれをメモして、何か考えがあるようで
「おれが良いと言うまで暫く池は止めて川に行け」
と言った。
その時は、独りで池に行った事を叱られなくてホッとしたが、この言い付けはちゃんと守ろうと心に誓った?

風呂の途中に窓の外に雨音が聞こえた。
おじちゃんの予報通り。
完全に安心だ。

雨は翌朝も続いたが、登校すると予想外の事が待っていた。
非定例の全校集会だった。



つづく




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