生物学の釣り2

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 生物学の釣り <反射と本能Ⅱ:反射食いの正体>
前回は「本能」について検証した。今回はいよいよ「反射食い」の正体について、あるいは反射という反応について、生物学の視点から考えてみたい。
 
「反射」とはどういう反応(行動)だろうか?




オリジナル・ルアー「Slide」のスライドアクションで♪
 
 
Slideはジャークを入れると名前の通り、水中を“ギュン!”とスライドする。ゆるいカーブを描きながら瞬間的に移動する。半拍の間をおいて次の瞬間移動。
 

シーバスが気づくが、見切られない間でイレギュラーなスライドを入れていくと、いきなり食ってくる。こういうのをいわゆる反射食いというだろう。
 

 
前回書いたように、「反射」は動物の5つの行動のうちの1つである。「本能」の本質については前回のブログを参考にしていただきたい。
 


 
さて、「反射」の特徴は、刺激に対して無意識に起こることである。反射の例としては「熱いものに触れて手をひっこめる」、「光による瞳孔の収縮」、「姿勢の維持」などなど。

 
これらの例を見れば、反射は多くの場合、危険を回避したり、基本的な生命活動を支えている反応だということが分かると思う。反射には動物の行動に対する合目的性がある。
 
 
もう一つの特徴として、その多くは体の「ある一部分」が反応するということ。
(今回も注釈をつけたいところは沢山ありますが、読みにくくなるのでざっくりと書きます)。
 
 
例えば次の二つを比較してみたい。

 
1.熱いヤカンに触れて、思わず手が引っ込んだ。
         
2.突然ボールが飛んできて、思わずキャッチした。
 
 
 
この二つはいわゆる日常用語ではどちらも「反射的にでた行動」と言えるかもしれない。しかし厳密に言えば両者は違うカテゴリーに属する行動である。
 
 
 
熱いヤカンに触って思わず手が引っ込んだとき、人は何も考えずに気づいたら手が引っ込んでいる。
 
 
このとき人は「ああ、熱いな、このままだと手が火傷しちゃうな・・・だから引っ込めよう」と考えてから手を引っ込めているわけではない。そんなことを考えているうちに手が焼き肉になってしまう。思考せずに行動が先に起こる。これが本当の「反射」である。
 
 
無意識のうちに、思考をせずに反応する。だから、刺激を受けてから反応するまでの時間が、思考を通すときよりも短い。
 

 
反射の多くは、「判断→命令」に要する時間を短縮することのできる反応であり、結果として危険回避になる生体反応なのだといえる。
 
 
「熱い!」「痛い!」などの情報が大脳に到達する以前に、脊髄や延髄、中脳が「目をつぶれ」「手を引っ込めろ」という命令を出すのが反射(反射中枢の機能)。強い光を受けると瞳孔が勝手に収縮するのも反射である。これらはすべて大脳を経由していないから思考していない。
 
「突然ルアーが泳いできて、思わずバイトした」というのは、決して熱いヤカンに触れたときのような、「危険回避のために体の一部が無意識に反応した」ということではないのだ。
 
 
 
 
一方で、
突然飛んできたボールを“思わず”キャッチした場合を考えてみたい。
 
 
このとき人は一瞬迷っている。一瞬「エっ!?ボール、捕る?捕らない?あ、あ・・・捕っちゃった」という感じだろう。思考・判断するに十分な時間があったとは言えないが、とりあえず大脳を経由して判断した状態。
 
 
そしてこの場合、彼はボールをキャッチしたわけだから、彼は「経験的」にボールの捕り方を知っているはずである。つまり子供の頃のキャッチボールの経験や、草野球の経験上、捕れること、捕り方を彼は知っていたのだ。
 
こうしたことから考えれば、2の「ボールを思わずキャッチ」の行動は、少々変化球ではあるが、いわば「学習行動(経験を積み重ねることで獲得する後天的な行動)」の範疇に入ると考えられるであろう。
 
 
 
ではいわゆる「反射食い」の場合はどうか。実は1の例とも2の例とも違うのではないかと僕は考えている。
 
 
 
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数年前に沖縄の美ら海水族館に行った時にこんなことがあった。
 
 
僕があの巨大水槽を見ていた時のこと。美ら海水族館を訪れたのは二度目だった。改めて「よくこんな大きな水槽を作ったものだ」と感動して見ていた。
 
その時、何匹かの新しい魚が運び込まれ、あの巨大水槽に放流された。水面から入れられる魚。僕の目線からははるか上。
 
 
放流されたのはおそらくカツオではなかったかと思う。しかし新参の魚たちはこの引っ越し作業で動揺していたのだろう。挙動がおかしかった。泳ぎが安定しない。
 
それに対して、元々水槽にいた魚たちは、引越しなどお構いなし。悠然と、平然とクルーズするように泳いでいる。
 
 
しばらく水槽を泳いでいた新参のカツオだったが、何かの拍子に、急に「ビビビビッ・・・」と急発進した。その瞬間、後方でゆっくりと泳いでいた古参のマグロが、カツオの挙動につられて瞬時に急発進し、ガツンとそのカツオの尾部に食らいついたのである。
 
 
飼われているマグロは普段充分にえさを与えられており、そう頻繁には他の魚を襲わない。例えばイワシの群れを飼う場合、水槽に一定以上の個体数がいれば、大型魚と一緒に入れても襲われにくくなることがよく知られている。
 
 
マグロは明らかにカツオの「逃げの挙動」という「特定の信号」に反応したのだ。つまり、急に逃げる対象という「信号刺激」が誘発した、それを襲うという行動。
 
 
いままでの言葉の使い方ではこれは「反射食い」だと言いたくなってしまうが、これまで書いてきた理論に沿ってみればこれは「本能行動」と言えるのではないかと思う。
 
 
水槽の中では多くの魚が平和に共存している。こんな平和な世界では、マグロは水槽に入ってからというもの、こうした「逃げの挙動」を目にする機会はあまりなかったであろう。
 
 
しかしひとたびその「信号」を目にしたとき、思わずそれを追尾せずにはいられなかったのだろう。
 
 
「遺伝子の刻印」を目にした思いだった。遺伝子に刻み込まれていた種の性が、特定の信号によって呼びさまされたに違いない。
 
 
その証拠に、カツオは痙攣しながらゆっくりと底に沈んでいったが、そのマグロは沈んでいくカツオを追って食べようとはしなかった。もし餌をとるための学習行動なのであれば、襲うだけでなく、食べるはずだ。
 
 
それなのにこのマグロは沈むカツオを無視し、何事もなかったかのように、悠々と回遊に戻ったのである。「逃げの挙動」を目にし、ただどうしようもなく攻撃しただけ。

 
 






 
だからX80SWはバイトを引きだすのである!
 




 
 
あのジャークした時のブルブル・アクションを伴った瞬間移動は、「逃げの挙動」にほかならない。ボトムからの巻き始め直後のバイブにバイトするのも同じ理由だと推測される。
 
 
タダ巻きでは食わないが、ジャークでは食う、スライドアクションで食わせる、急発進で食わせる、速めのリフトアンドフォールで食う、3Dダートでは食う、これらはまさにこのパターンだろう。
 
 
もちろん鍵刺激はいくつかに分類できる可能性があるし、それぞれの鍵刺激に対応したルアー・アクションの対応関係を導きだせば、より緻密な理論の構築に結びつくはずだ。どのアクションが、逃げる魚、逃げるエビ、カニの泳ぎなどに対応するのか。

 
 


たとえば、スーサンのようにダートしたあと水中を浮いたように漂うのは、エビが壁から跳ね逃げるときと同じ信号刺激だろうか?あるいはハゼの稚魚か?(ハゼの3~4cmの稚魚は海底べったりではなく、中層のストラクチャーの際に群れで浮いていることがよくある)。
 
 
またイワシの逃げる動き、ボラの逃げる動き、サッパの逃げる動きなどなど細分化できる可能性は十分ある。
 
 
これらも勝手に推測するのではなく、客観的に科学的に明晰にすることが重要。
 
 
一方でバチパターンやイワシパターンなど、ベイトパターンが成立するときは、シーバスがベイトを学習したことで成立しているはずだ。一つのベイトに執着していることが少なくないことはその証拠だと言えるのではないか。
 
 
バチパターンは例年5月初旬ぐらいに最盛期を迎えるが、バチ抜け自体はそれ以前も盛んに起こっている。にもかかわらず、5月初旬で爆発するというのは、バチをベイトとして学習するのに時間がかかるからにほかならない。
 

 
つまり、
 
シーバスのバイトは「本能的なバイト」と「学習行動を伴ったバイト」に大きく分けられるのだと考えられる。
 
 
(※餌をとること自体、本能行動なので、たとえ「学習行動を伴ったバイト」であってもその主体は本能行動ということになる。よって学習行動を伴ったという書き方をしているのだ。後者の信号刺激は流れなどがそれにあたるだろう。)
 

 
ということで、いわゆる反射食いは厳密には反射ではないというのが今回のBENsan理論です。

 
でも雑誌なんかで「反射食い」って言葉を使うのは、それはそれでいいかもしれないですね。釣り用語として市民権を得ていますし、学習行動による摂餌と区別する意味ではイメージが湧きやすいですしね。

 
でも「信号食い」とか「鍵刺激バイト」とか「キー・サイン・リアクション」とかいった方が(僕はネーミングセンスが相当ありませんが・・・)、特定のシグナルにシーバスが反応するという現象を正しくイメージできると思います。
 

「特定の刺激が不可欠である」ということが重要なのですから。その意味でリアクション・バイトという言葉も、何にリアクションするのかが欠けた表現です。
 
 
それから、本能のメカニズムはまだよく分かっていない部分が大きいのです。本能は走性や多数の反射の複雑な連鎖で成り立っていると考えられています。その意味では実質的には本能行動である「反射食い」にも、たしかに一定の反射的要素は含まれると言えるでしょう。
 
 
そこからつながる話として、いつか視力について考えてみたいと思います。「シーバスは目が悪い」これってホント?などなど。
 
 
結論、「半分本当ですが、半分ウソ。」
それはどういうことか。など。
 
他にも書きたいことがあるので、しばらく間を置きますが。

その他の話題でも、またよろしくお願いします。
 
 
 

<付記>
 
自然科学は哲学のように、命題があって最終的に「~である」と解決・結論できるものではない。客観的に見て「~と考えるのが妥当であろう」とか「~ということが高い確率で言えそうだ」というのが自然科学のスタンスである。
 
今回の話も同じ。先輩の研究者たちの築き上げてきた理論の延長で考えれば、このように考えることが自然ではないか、という主張である。「絶対にこうです」と言っているわけではない。むしろ様々な説が出た方が面白いし、多角的に見ることが可能になる。もちろん複数の理論が並立することも考えられる。
 
今回の話も、科学的に見ればおそらくは客観性があるし、一つの理論として成立するであろうし、もちろん私は正しい見方である可能性が高いと思っているが、みなさんにも「一つの考え方」として興味を持っていただけたなら嬉しく思います。
 
 

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