第三章 ~人妻 久仁子との再会~4

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第三章 ~人妻 久仁子との再会~4
 
このログはフィクションであり、 登場する人物、団体は実在のものと一切関係ありません。



順平は久仁子に話を続けた。「ところで今日は何の日か知っている?」

久仁子「今日?   ん・・・?」
 

自分の誕生日を忘れてしまっているのか? それとも順平が久仁子の誕生日を知っているはずがないと思っているのか? 久仁子の口からは「今日が自分の31回目の誕生日だ」とは出てこない。
 

順平「わからないんだぁ ちょっとお手洗いに行ってくるから その間 考えておいて」と言い席を立った。
 

順平はトイレに行くと見せかけ実はフロントに行き、予約の時、お店側にお願いしていたあることを頼みに立ち寄った。 合せて帰りがスマートになるよう清算も済ませた。
 
 
席に戻った順平は「わかったかな?」と問い掛けるが、久仁子はキョトンと首を傾げるだけ
 
 
久仁子の背後から近付いてくるウェーターが視界に入ると順平は「まぁ デザートを食べれば思い出すよ」と言い、席を深く座りなおした。
 
サービスワゴンを押したウェーターがテーブルの横に着きデザートとのケーキをテーブルの上に置くと、ケーキを見た久仁子の動きが止まった。
 
久仁子の目の前にスペシャルデザートのバースデーケーキが置かれた。

Happy Birthday To Kunikoとあしらわれたチョコレートプレートにゆらゆらとロウソクの炎が揺らいでいた。
 
 
順平は予め用意してお店に預けてあったバラの花束を取り出すと「お誕生日 おめでとう」と久仁子に差し出した。
 
 


キョトンとした顔つきの久仁子


 
しかし、時間の経過とともに現実を認識し始めたのか、その頬が少しずつ緩んでいった。
 

 
久仁子は込みあげてくる喜びを押し殺すかのように、ゆっくりと「あ、あ、ありがとう・・・」

 
周りをキョロキョロと見渡すだけで、状況がいま一つの見込めないのか言葉がなかなか出てこない。

 
久仁子「あの・・・いつ準備していたの? それより何で私の誕生日を知っているの?」
 
順平は久仁子の質問に1つ1つ答えていった。
 
順平「久仁子の誕生日は、最初に出会った翌日、オフィシャルサイトのプロフィールを見て知ってさ、偶然にも再会日と誕生日が重なったから、何かお祝いしてあげようと3日前にコチラのお店に来てお願いしたんだ。」
 
久仁子「そうだったんだぁ~ 私自身すっかり忘れていてさ 順平に今日は何の日?って言われて思い出したけど、まさか・・・ねぇ~」
 
順平は、ジャケットの胸ポケットから小さな紙包みを取り出すと「はい プレゼント」と久仁子に差し出した。
 
久仁子「えぇ~ なに? もうたくさんお祝いしてもらったのにぃ」と言いながら紙包みをほどくと、なにやら小さい巾着袋のような物が包まっていた。
銀色の巾着袋を手に取り、書かれた文字を見ると「勝負袋」と刺繍されている。
 
順平「それはね 勝袋と言って、御守の1つで神社で願掛けしてもらってきたもの。 これからも頑張ると決めた久仁子さんの御守になれば良いと思ってね」と言葉を添えた。
 

久仁子は順平の言葉に耳を傾けながら、じーっと御守を見つめていた。

 
御守をうな垂れ見たまま、顔を上げようとしない久仁子・・・
 

沈黙が続き、ふと冷静になって考えてみると、出会って2週間足らずの女性に対して、初めて贈る誕生日プレゼントが「御守」って、どう考えてもドン引きだよな・・・

 
久仁子の心にインパクトを与えようと奇をてらったのが裏目に出てしまったのか・・・
 
しばらくすると久仁子は、無言のままポーチからハンカチを取り出し、涙を拭うと顔を上げた。
 
久仁子の目には涙が溢れており、御守を手のひらで擦りながら「ぐすっ! ありがとう・・・ こんな気持ちのこもったプレゼント貰ったのは初めてかも」とつぶやいた。
 
順平「勝負事は、実力だけじゃなく、運も神様も見方につけないといけないからね」
 
久仁子「ありがとうね これからは肌身離さず身に付けておくね」
 
順平「疫病神にならないことを祈っているよ。 しかし久仁子は泣き虫だね 2回しか会っていないのに、2回とも泣いてさ」と笑ってみせた。
 
久仁子「歳を重ねると涙腺が弱くなるからしょうがないんだよ」と瞼に溜まった涙を拭うと、「涙流したら喉が渇いちゃった もう1杯 ワインもらっていいかな?」と空になったワイングラスを差し出した。
 
 
順平はコーヒーを飲みながら、久仁子はスパークリング・ワインを飲みながら、誕生日にまつわるエピソードで盛り上がっていた。
 

久仁子が所属するチーム事務所に誕生日になると、ファンからプレゼントが贈られてくるらしい・・・

誕生日カードや花束といったスタンダードなものから、所属チームのキャラクターをモデルにした手製のヌイグルミや似顔絵なんかも贈られてくるらしい。 男女の比率でいうと、圧倒的に女性が多く、特にバレーボールをやっている女子高校生が半分を占めている。
 
久仁子「毎年ね プレゼントを貰うと、いつまでも高校生の憧れでいられるようなプレーをし続けなきゃって思うよ ファンの期待が一番のエネルギーだね」と語気を強めた。
 
順平が個人的に気になる「男性のファンは?」と尋ねてみると・・・やっぱりと言うべきか当然、熱狂的なファンが3人いるらしい
 
1人は、田中さんという四十代の方で、個人的応援ブログを立ち上げていて、自称「久仁子のファンクラブ代表」らしいが、独身の方でストーカー気味のファンでクラブチームから何度も警告を受けている。
※後に順平はこの田中と会うことになり騒動となる。その話しは機会があれば紹介します。
 
1人は、三十代半ばの近藤さん。 飲食店を数店経営する実業家で、ホームだろうが遠征試合だろうが毎試合 応援しに来てくれる。
この方が誕生日プレゼントで毎年贈ってきてくれる「夕張メロン」が最高に美味しいらしい
 
最後の1人は沖田さん。 同じ会社に勤務する社員の方で、チーム応援団の副団長をやっている。とにかく熱血スポーツマンで、試合でミスしたりするとスタンドから激が飛んでくるし、会社でも公開練習の時には仕事そっちのけで見に来ている。 話しぶりからすると久仁子の苦手なタイプらしい
 
そんな熱烈なファンの話しを聞いて、こうして久仁子とテーブルで向かい合わせで食事をしている事に妙な優越感に浸る順平であった。
 
「さぁ お腹も膨れたことだし、満足して頂けましたか? そろそろ出ましょうか」と順平が切り出す。
 
 
話しの尽きない二人だが、店を出ると、ムシッとした湿気が二人を包む。


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