第三章 ~人妻 久仁子との再会~3

  • ジャンル:恋愛・結婚
 第三章 ~人妻 久仁子との再会~3

このログはフィクションであり、 登場する人物、団体は実在のものと一切関係ありません。



車を降りると、濡れたアスファルトから立ち昇るジメッとした生暖かい空気が二人を包む。
 
順平は車を降りた久仁子をエスコートし、和風庭園のエントランスを抜け、重厚な扉を開けるとギンガムチェックのベストに黒のスカーフを巻き、品の良さそうな女性店員が深々と頭を下げて二人を出迎えた。
 
「予約していた木下です」と順平が告げると、出迎えた女性店員が「木下様ですね お待ち下さい」と言い残しフロントカウンターへ向かった。
 
純和風の合掌造りの重厚な店構えで、店内に入るとくるぶしまで埋まりそうな毛足の長い絨毯。

独特な雰囲気の店内に久仁子は、順平のジャケットの袖を引っ張り「ちょっとちょっと・・・こんな高級そうなお店 大丈夫なの?」と耳元でささやいた。
 
順平は「うん 大丈夫 任せておいて」と軽く言い放つ。
 
再び女性店員が二人の下へ歩み寄ると「木下様 大変お待たせいたしました。 ご案内いたします」とテーブルに導いた。
 
新緑眩しく、足元の池には色鮮やかな錦鯉が泳ぐ立派な日本庭園を一望できる特等席に案内された二人は店員が引いた椅子に腰を降ろす。
 
店員が一旦引き払ったのを見計らい久仁子は「凄いお店だね 本当に大丈夫なの? こう言う雰囲気苦手かも」と笑ってみせるが、その笑顔は少し引きつってみえた。
 
順平は「せっかく再会できたんだから こういう雰囲気も良いんじゃない」と緊張する久仁子をリラックスさせようと軽いノリで言い放つと「ところで飲み物は? ビールにする? それともワイン?」と尋ねた。
 
久仁子は店内をキョロキョロと見渡しながら「任せる」と短い返事をすると「メニューはないのかな?」と心配げに尋ねてきた。
 
順平「うん もうメニューはオーダー済みだから 無いと思うよ  気になるならメニューもらおうか?」
 
久仁子「ふ~ん 相変わらず段取り良いんだね」
 

頃合を見計らい店員はテーブルに歩み寄ると順平にドリンクメニューを開けて見せた。

「赤ワインをボトルで 銘柄は・・・コレで」と指を指す。(1本6,800円)
 
店員が耳元で「例のものはいつに致しましょうか?」と小声で尋ねた。
 
順平は「デザートの時でお願いします」と答える。
 
その謎のやり取りを怪訝そうな表情で見つめる久仁子は、順平のやり取り見て「この店 よく来るの?」と尋ねてきた。
 
順平は「こんな高級なお店 来られる訳ないじゃん! ただバブルの頃、取引先との接待で使ったことが何回か来たことがあって、『美味しいお肉が良いって』言ったから、思い出して予約したんだ」
 
久仁子は順平の話しを聞いているのかいないのか、落ち着かない様子で天井を見渡し、天井に張られた、極太の梁を見渡してる。



サービスワゴンに乗って赤ワインが運ばれてきた。


 
ソムリエが「こちらでございます」とラベルを見せるが、順平には何が書いてあるのかさっぱりわからぬまま、「う、うん」とわかったフリをして頷いてみる。

ソムリエは馴れた手つきでキュキュっと抜取ると、コルクの香りを嗅がされるが、ワインの香りとだけしかわからない残念な順平。
 
久仁子は、ワイングラスに注がれる濃いルビー色をしたワインをジーッと見つめていた。
 
 
クラッシュアイスが詰め込まれたワインクーラーにワインボトルがシャリシャリと音を立て置かれる
 

ソムリエの華麗な振る舞いに見とれていた二人は「では、ごゆっくりと」とテーブルを離れるソムリエの言葉で我に返った。
 
 
久仁子「ふぅ~ なんか緊張しちゃうね」

順平「じゃぁ 乾杯しようか」

久仁子「何に 乾杯?」

 順平「二人の再会 と クニちゃんのこれからの活躍を願って・・・乾杯!」
 


グラスを合わせると カチーン!とかん高い音色が響く
 


一口飲んだ久仁子は「美味しいぃ~ こんな美味しいワイン初めて飲んだ」と目を丸くしながら、続けざまにグラスに口を着けた。
 

こうして、ディナーは始まり、工夫を凝らしたオードブルから始まったコースメニューは、素材の風味を生かしたスープに続き、旬の季節野菜を彩りよく盛り付けたサラダ、高級魚キンキのホワイトソースのなんたら(笑)と次から次へとテーブルに運ばれ、楽しい会話を交わしながら、二人の舌を唸らせ続けた。

 
この頃になるとボトルも半分ほどになり、久仁子はホロ酔い加減になっていた。
 
いよいよメインであるA5ランクの黒毛和牛ステーキの登場。 

これぞ食の贅を尽くした1品が目の前でジュージューと音を弾かせている。
 
久仁子「ぶ厚っ!」とナイフとフォークを握り締める。
 
上質な肉は、スーッとなぞるようにナイフを通すだけでカットできる。 まるで包丁で豆腐を切るような感覚。
 

久仁子「柔らかっ!」
 
久仁子「いただきま~す」
 
久仁子「うんまっ!」
 
久仁子「幸せーーーーっ!」
 
久仁子「こんな美味しいステーキを食べたの初めて」
 
順平「あはは 喜んでもらえて嬉しいね」


順平は、久仁子の満面な笑みと、飾らない素直な言葉に喜びを感じていると、久仁子の左手小指にはまる指輪が目に止まった。


前回会った時、指輪はしないようなことを言っていたはずだけど・・・しかも、左薬指ではなく、左小指に? 
何故、ピンキーリングをする? 何か意味が込められているはず・・・なんだろう 確か女性週刊誌で左小指に指輪をする意味が書いてあったが・・・なんだったっけなぁ・・・
 
 
そんな事を考えながら、残り少なくなったワインを久仁子のグラスに注いだ。
 
すっかり酔いの回った久仁子は、良く喋り、良く笑った。
 
自分でくだらない駄洒落を言っては自分で笑いこけている  
 

順平のステーキ皿の脇に添えられ食べ残したクレソンを指し「そのクレソン私にくれソン アハハハっ」・・・

 
完全にオヤジ化しているが、その美しい顔立ちとざっくばらんな振る舞いのギャップは順平にとって新鮮であり男心をくすぐった。 
 

グラスに残ったワインを名残惜しそうに飲み干す久仁子
 
順平のグラスには、まだワインが1/3ほど残っている。
 
ワイングラスをジーッと見つめていたかと思うと「飲酒運転になっちゃうから私が飲んであげる!」と手を伸ばすと一気に飲み干した。
 
久仁子は「ふぅ~っ」と深く溜め息をつくと「美味しかった」と手を合わせ、「ごちそうさま」の合掌をする。
 

順平「まだ デザートが残っているからね」
 
久仁子「もぉ 食べられないよ これ以上食べたらトレーナーから叱られるぅ」と言いながらお腹をさすってみせた。
 

順平は「ホタルの時は哀しい顔しか見られなかったけど、今日は笑顔がたくさん見られたから嬉しいよ」とサプライズの実行に向けて話しを切り替えた。
 
 
順平は久仁子に話を続け「ところで今日は何の日か知っている?」

久仁子「今日が?  ん・・・?」

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