OXFORD LIFE 1

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村岡さんがアイガーについて書いていた。そしてやりたいことをやって生きろと。


それを簡単にできる人はなかなかいないかもしれない。でも海外ではそういう人に比較的多く会う。




昨日からオックスフォードの生活がいよいよ始まった。十二時間のフライトと一時間ちょいのドライビングの末、2年ぶりにオックスフォードへ。オックスフォード大学の中の、ひとつのコレッジの寮に入った。



久々の英語生活。久々の英国料理。久々の知人との再会。特に学校のスタッフとの再会は懐かしかった。みなパワフル。



久々に歩くオックスフォードの町。

 
 

これは先日紹介したハリーポッターのホグワーツ魔法学校の食堂があるクライストチャーチというコレッジ。



こちらはオックスフォード名物のパンティング。




オックスフォードの学生は、プロポーズにこれを使う。
彼はバスケットにワインとグラスをつめて、婚約指輪を持ち、パントの上でプロポーズをするのだ。



いまは各国から集まった留学生たちの遊び道具になっている。


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さて、今回は哲学・倫理学の研究。

 

「自分たちの周りにある問題のほとんどは小さなこと」
と村岡さんのログにはあった。これを哲学的にある方向へぐっと極端に偏らせていくと、



「全てのことには意味がない」



ということになる。ニーチェのニヒリズムである。



実は哲学の世界で「価値」というものを否定する考え方というのは珍しくない。ウィトゲンシュタインは非常に分かりやすい形でそれをあらわした。





                「論理哲学論考」





ウィトゲンシュタインは「思考可能な領域」と「思考不可能な領域」に明確に境界をひいた。



そしていった言葉。








     「語りえぬことには沈黙しなければならない」







価値は語りえぬ領域(思考不可能な領域)に存在するものである。彼は思考不可能な領域の概念に言及することを厳に禁止したのだ。



論理哲学論考には間違いがあるため、これを安易に退ける人は少なくない。僕も最近はもっぱら後期哲学の言語ゲームを使っているが、


しかし、「価値」とは何かを考えるにおいて論理哲学論考は非常に分かりやすいテキストである。



たとえば「お年寄りに席を譲る」という行為。だれもが「良いこと」と考える道徳的な行為だ。しかし論理哲学論考に純粋に従えば、お年寄りに席を譲るという行為は、「良い」とか「悪い」とか一切言えない。



それは、「良い」とか「悪い」というのは、この世界で成立している事実ではないからだ。彼はニーチェのように価値はどこも存在しないと考えたのではなく、価値は世界には存在しないと言ったのだ。



(この「事実」とか「世界」と言う言葉も分析哲学ではちょっと特殊な意味合いで使っているので、これだけ見てもよく分からないかもしれません。興味のある方は「ウィトゲンシュタイン「論理哲学論考」を読む 野矢茂樹著 筑摩書房」 が参考書として分かりやすいと思います)



しかしウィトゲンシュタインはだからと言って、そうした価値をくだらない哲学的誤謬として排除しようとしたわけではない。むしろその逆だ。



つまり、論理的に語れることなど、たいしたことではないのだと。むしろ思考不可能なものに言及することを禁止することによって、語りえぬ概念こそ重要なものであることを浮き彫りにした、そういう考え方がある。



そして私がやろうとしていることは、その語りえないことの重要性をよりはっきりさせると言うこと。


「お年寄りに席を譲ること」は我々がとるべき行為として、「間違っていない」ことだと胸を張っていえるようにするということである。




村岡さんの話にからむところに戻ろう。

 

 

やりたいことをやる。たしかに人生は短いのだから。



しかし本気になって努力すれば、80余年の人生の中に、100年分、120年分の経験をすることはできるかもしれない、と僕はよく思う。そしてそうしたいと思っている。



しかし同時に、海外で様々な人を見ていると、やりたいことをやるだけでなく、道徳や文化、思いやりなどの「語りえぬこと」を大切にするということが、本当に大切なことなのだとつくづく感じるのだ。



海外ではエネルギッシュなだけの、ちょっと偏った人もよく見かける。これは車の両輪だと思うのだ。



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・・・ついつい哲学のことを書いてしまった。しばらくは魚を追うことができないので、イギリス生活について書いていくつもりです。


秋以降、また魚を登場させる予定なので、しばらく魚とはちょっと遠い記事ですが、旅行をしたつもりでお付き合いいただければ幸いです。


 

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