今でも

鮮明に

思い出す

魚が居る


釣り上げた

魚じゃ

ないけれど


その

魚の姿は

今でも

脳裏に

あるのです


ある日の

お昼

私は

釣竿片手に

釣り場へと


いつもの

テトラへと

登り

水際に

出た瞬間

私の眼に

あいつは

映った


メーター級の

スズキが

目の前で

悠々と

鎮座

していたのです


あいつは

一瞬だけ

身体を

よじらせ

私を

確認して

何事も

無いかの様に

鎮座し続けた


私は

あいつの

銀色の鱗

揺らめく尾

微かに動く鰭

その総てに

眼を奪われ

何も

出来なかった


私を見た

大きな目

少し鈍い

黒銀に光る魚体に

畏怖の念すら

感じて

いたのかも

知れない


力強く

傷一つ無い

尾に

気持ちを

吸い寄せられた

その時

私は

我に還り


もう

こいつの

邪魔を

してはいけないと


竿を

振る事無く

帰途に

着いたのでした


あれから

幾日が

過ぎようとも

あの

鈍く

光る魚体が

私の

ココロに

焼き着き

離れないのです・・・