ASPIRATION -ついに、この手に-

  • ジャンル:釣行記
憧れ、熱望し、獲りたいと願った魚がいた。









先輩に初めて地磯に連れて行ってもらったとき、装備もタックルも何1つそろっていなかった。そこで見たショアから青物を狙うという釣りに、魅せられた。躍動する肉体。撓る竿。唸る波濤。

いつか、自分も立ちたい。磯で、戦ってみたい。












それから今日までに、いったい幾ら磯を歩いてきたのだろうか。親しくして下さっていた先輩が大学を卒業され、移動手段が原チャに限られた私は、アパートとの距離やタックルの持ち運びを考慮して、はじめは、ポイント探しから行った。大学図書館で、山陰の釣りポイントの記された航空写真の書籍を引っ張りだし、鳥取東部で青物の釣果の期待できるポイントとルートを、グーグルマップに記録させていく。

ある程度絞れたら、竿を持たずにまずはそこに行ってみる。(※1,※2)

竿を持っていたら先に進めない場合も多く困難も少なくない。

色々歩いて、原チャ移動、駐車場からの道程、タックル所持移動、時間的制約等の妥協点の中から、良さそうなポイントを2箇所ほど決める。

天気と予定を見ながらその磯たちを回って見る日がしばし続いた。

もちろん、はじめは、バイトすらなかった。
今年の夏、やっとの思いで何か得体のしれない魚が磯でヒットした。親戚に磯マル狙いを教えてもらった後だったので、再度磯マルを狙いに来ていたところだった。ドラグが止まらず一瞬で根に切られてしまい、呆然とした。何だったんだろう...。後で聞くと、ヒラマサだったんじゃないか?と、言われ、そこからいよいよこの魚をとる道が見えてきた。

短期バイトでなんとか中古青物ロッド購入までこじつけた。不注意もあり一度そのロッドを折ってしまった。予算的にすぐ修理できそうにないので、そこから3ヶ月。また財布と相談してようやく修理。いよいよ、この秋が勝負と思った。












釣りにのめり込んでいると、生活の中で、ある分岐点を乗り越えたときや、何かいい事が起こった後には、メモリアルな魚、嬉しい魚に出会える事がよく起こったりする。逆の場合もまた然り。良くないときには釣りに出ても何かしらのトラブルが起こったり、釣りに集中できないものである。機運やリズム。不可抗力とも思える流れの中で、今回はまさに「いい流れ」が確かにそこにあった。

ちょうど、その前日は、自分の中で抱えていたモヤモヤがスパッと晴れたような日だった。

今日ならいけるんじゃないか。

何かが自分にそう語りかけてきた。















未明。準備を済ませアパートを出る。ガソリンが少し足りないのに気付いたが、行きの分くらいはある。最悪帰りは最寄りスタンドまで引いて帰ればいい。行きの流れだけはとにかく邪魔されたくない。今、立ち止まってはいけない気がしてならなかった。

何ヶ所かあるうちのポイントのうち、なぜこの場所だったのだろう。出発前に既にここに入ると決めていて、何かに導かれるように、この磯にやって来た。

夜明け前に、20分程波を観察し、立つ場所を決めた。

上からプラグ、ジグとテンポよく探っていき、反応がないので少し休憩。後行のアングラーさんが青物をかけるも、バラし。すこし話をしたら、トップで出たとのこと。

朝の時間と雨が降り出す時間を考慮すると、残り立てる時間は半時間ほどだろう。










海を見る。少しずつ潮目がショアラインに寄っている。やることを絞る。魚はまだ上を意識している。瀬回りをテンポよくミノーで攻める。

右の瀬。不発。
前の瀬。不発。
奥の瀬。不発。
左の瀬。不発。

そうして順番に瀬を撃っていると、にわかに切れ藻が引っかかる回数が増えた。更に潮目が寄って、沈み瀬のラインに重なった。さっきまでと、何か違う。

正面の瀬に目を向ける。海面から瀬の頭が出てきたり波に飲まれたりしている。波が瀬の頭を覆い、サラシができ、瀬の頭が見える時、サラシもスーっと消える。

次の波が来た。

波の奥にキャストする。
波に乗せてジャークしながら瀬の頭を超える。
波はサラシに変わる。
サラシにのせてなおジャークする。
ルアーの奥に瀬の頭が見えた。
サラシがスーっと引く。
ルアーを止める。





次の瞬間、とうとう海面に、その英名、すなわちYellowtail amberjack に相応しい稲妻が走った。今まで十分に惹き付けられて来たはずのソイツに、この一瞬で、更に心を奪われてしまった。刹那、構えた竿に重厚な衝撃が伝わる。3度追い合わせを入れる。これは夢か。何度も何度もこのファイトをイメージしてきたはずなのにな。ハハハ、笑っちまう。陳腐なファイトイメージなんか意識の彼方にぶっ飛んでしまい、何m先の魚と、力と力でぶつかり合うだけだった。無我夢中...頭の中が真っ白になりながら、強烈な引きと闘った。途中は、よく覚えていない。ずり上げに手こずり、2度ほど波に還してしまったが、3度目くらいでようやく上がってきた。スプールをフリーにした。立ち位置から一瞬で駆け下り、その尾の付け根を掴んだ!







獲った。あ~、獲った獲った獲った!







獲れた...もう立っているのが不思議なくらいだ。またこの感覚だ。絶頂だ。手足は震え、痺れ、それでいて身体は緩みきって言うことを聞かない。自分が自分でないようで、自分本来の自分のようでもある。溢れてくる気持ちがどこに行ったら良いのか分からない。ふとその視線が足元のヒラマサに向いた。この魚だけは!今の自分を、この狂気にも似た絶頂を許容してしまった!言葉にならない。呻きなのか喘ぎなのか、笑いなのか!とにかくこみ上げてくる何かを、絶頂の最中、思い切り叫んだ。














上がってきたのは夢にまでみたヒラマサだった。先輩の背中を追いかけて、憧れに突き動かされて、ここまできた。シーバスの経験、沖縄の船に乗せてもらった経験(※3)、もちろん運も...。1人で釣ったとは到底思えない。

この魚は、今の自分の後ろにあるもの全てを映し出してしまったようである。恐ろしい。

帰り道、やっとの思いで遊歩道に戻ってからすこし腰を下ろした。疲労感、安堵感、達成感、恐怖心。胸の内にあった様々な思いから解放されて、脇の藪の中に少し嘔吐いた。

やったんだ。もっとやれる。ありがとう。

右手に確かに感じる重みだけが、駐車場までの脚を前へ前へと運んでくれた。




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