隠さずに、スッと出す

 今回は過去に私が経験した苦い思い出の話をさせていただこうと思う。

 

 先に言っておくと、本文中、乱暴な表現や悪口と捉えられる表現があるが、特定の人や組織を誹謗したり馬鹿にしたりする気はさらさらない。そして長文になることをご了承いただきたい。

 

 話は数年前に遡る。その日はホームグランドとしている国分川を離れ、プチ遠征気分で須崎市を訪れていた。ナイトゲームでアジかイカか、もしくは港湾周りでシーバスかと、曖昧なプランニングであったため車の中はタックルやルアー、クーラーボックスにエサ釣りの仕掛けまでぎっしりと詰まっていた。

 ぎっしりと釣り道具が詰まった車のなかにさらにぎっしりと物が詰まったバッカンがある。その中に美味しい魚が釣れた時に血抜きしたり〆たりするためのナイフが忍ばせてあった。そのナイフがことの発端で、私のプチ遠征釣行は台無しになる。

 

 自宅から小一時間ほど車を走らせて須崎市に入り、湾奥の漁港や流入河川の河口あたりを見て回っているうちにすっかり日が暮れていた。目当てのポイントに入れなかったのかイメージと違ったのか魚の気配がなかったのか、とにかくウロウロと徘徊していた記憶がある。当時は土地勘もほとんどなかった。

 漁港からまた近くの漁港へと車を走らせていたところ、ヘッドライトを点灯せずに走っている後続車がいることに気がついた。付かず離れずの距離感で目的地の漁港まで着いてきた。漁港の常夜灯のおかげでようやく後続車がパトカーだったことに気がついた。

 シートベルト、してる!

 携帯、ポッケの中!

 スピード、遅すぎるくらい!

 信号、一時停止、バッチリ!多分!

 停車させ車から降りてこちらから近づいていくとパトカーから制服姿の警察官が2人降りて来た。

 

警察官の第一声。

「こんばんわ。ずっと後ろ着いていってたんですけど気づいてました?」

 

なんじゃその質問!?気づいとるわ!

なぬ?キモ!

 

心の声を押し殺し、

私「ずっと気づいてましたけど何か用ですか?」

 

警官A「ちょっと車の中拝見させていただけますか。」

警官B「何もなければすぐに終わります。」

   「免許証も確認させて下さい。」

 

絶対嫌。これ噂に聞く職質やん。まじ邪魔。俺の釣りの時間を何やと思うてるん。

 

私「どうぞ。そこで釣りしてるので好きなだけ見て下さい。」

 

やましい事は何もない自信があった。そしてSNSの動画で「これって任意ですよね?」とか言って職質を切り抜けようと駄々をこねる輩の動画を見てダッサと思っていたため表面上快く引き受けた。

 

警官A「では、失礼します。」

 

失礼すな!

 

車と2人の警官が視界に入る距離で竿を振るが当然ながら全く集中はできない。

そして程なくして私は警官2人に呼び戻された。

警官B「ご協力ありがとうございました。」

 

私「いえいえ、ご苦労様です。」

 

警官A「刃物とか、凶器になるようなもの持ってないですか?」

 

バカなんコイツ。刃物とか凶器になるような物を凶器として使おうとして隠し持ってる人が「はい、持ってます!」て言うと思うたん!?もしくは「持ってないです」て言うた時の表情とか仕草から見抜こうとしてる?あんたにそれができるとも思えませんが。ほんで一回終わった感じ出したやん!

 

私「魚を血抜きするためのナイフならありますよ。」

 

警官A「見せて下さい。」

 

私は知っていた。刃物を正当な理由があって所持していた場合は銃刀法違反にはならない。こと釣りやキャンプともなればよほどの殺傷能力を備えた明らかにアウトドア向けではない物を所持していない限りセーフのはずだ。

 

 私はナイフを忍ばせてあるバッカンをトランクから引っ張り出し、フタを開け、ガサゴソと中身をあさり、バッカンの底の方に潜り込んだナイフを取り出し、警官に渡した。

2人はひとしきり私のナイフを見つめたりつついたり、長さを測ったり写真を撮ったりした後、私に言った。

 

「署までご同行いただけますか」

 

何でやねん!

 

声に出てしまった。

 

 

 警官Aはパトカーに乗り込み赤色灯を回す。警官Bは私の車の助手席に乗り、パトカーに着いて行くよう指示をした。

その車内

警官B「兄さん、野球してますよね。〇〇(チーム名)で。見た事ありますよ。僕もKPでやってるんですよ。」

 

KPとは高知県警察の人間で組織された軟式野球のチームなのだが、

今!?それ今!?気づいたとして言うかね!?

 

私「そうなんや。ちょい前に対戦しましたね。どこで出てたんですか?」

 

B「いや、その日仕事で行ってないんですよ。」

 

かなりムカつきながらも話を繋ごうとしてやったのに失敗。

「今度試合で見かけたら声かけて下さいね。」なんて思ってもいないことを口走っていると須崎署に到着した。

 

Bに案内され人生初の取調室に入る。少々お待ちくださいと。

ドアがある以外は石膏ボードの壁になっていて、質素な部屋。マジックミラーの類はないようだ。

数分遅れて先程の警官2人に加えてCを新メンバーに加え、3人が入室してきた。Cは記録係だと紹介された。

3人ともの自己紹介があって名前も聞いたはずなのだが今は全くもって覚えていない。ごめん。

人生初の取り調べが始まる。

 

 細かいところまでは覚えてないが

A「なぜナイフを釣り道具の中に紛らせ     て隠し持っていたのですか。」

私「隠していたのではなく、あの箱に収納していました。」

A「ではなぜ箱の底の方に隠すように入れていたのですか。

私「たまたまです。」

A「あの箱はいつ車に積みましたか。」

私「今日釣りに出かける直前です。」

 

というやり取りを5回以上は繰り返した。

「だから〜、」とは言わずに同じトーンで同じ返事を繰り返す。

 

 

そして取り調べ中、今でもたまに夢で見るほど腹が立ったシーンがこちら。

 

Aが突然取調室を出る。と、部屋のすぐ外でAの声が聞こえた。

 

A「あいつ絶対言ってることおかしいですよ!」

 

上司に相談しているのだろうか。相手の声は小さく低く聞き取れないが、私に対しては落ち着いたトーンで取り調べを行っていたAが部屋の外では別人のように声を荒げている。

取調室に私と一緒に残されたBは取り調べ中ほとんど声を発することはなかったのだがここで口を開く。

 

B「すみませんねぇ。あの人、刑事目指してるんですよ。」

 「多分事件性とかもないんで、もうすぐ帰れると思いますよ。」

 

は?

 

声に出てしまった。

 

俺は今あいつの刑事ごっこに付き合わされているのか。ふざけんなよ。田舎の警察は暇なんか。お前も事件性ないと思うんなら横からなんか言えや!俺の釣りの時間を何やと思うとんねん!

 

取り戻したのか装っているのか分からないが落ち着いた様子でAが取調室に戻ってきて、「なぜナイフを隠していたのか」のくだりをもう2回程繰り返した後、最終的には上司らしき人が部屋に入りABCを退室させ、説明をしてくれた。

 

要は刃物持ってないか聞かれて見せてって言われて出すのにモタついたのがマズかったということ。スッと出せていれば何の問題もなかったということ。人目につかないように持ち運んでいた場合、正当な目的で保持していたとしても銃刀法違反や軽犯罪法違反に該当する場合があるということ。

 

なんじゃそりゃ!?

 

 ありがたいことにその日は逮捕されることはなく夜中の2時過ぎに解放されたのだが、もちろんその後釣りをする気力もなく帰宅し、貴重な釣りの日が終わった。

一応、署内で会議にかけられて対応を検討するとのことだった。ご苦労なことだ。

 

 2週間後、私は須崎署に呼び出された。前回と同じ取調室に通され、2週間前、最後に話をした上司らしき人と対面した。

 その時話した内容は、事件性はないと判断されたという報告と、ナイフを持ち運ぶ際の注意だった。

 押収されていたナイフを、返却しますといわれたが、「ここを出たところで職質にあったら厄介なので処分してください」と言って突き返した。

 駐車場で車に乗り込もうとしたところ、Bが駆け寄ってきた。「ご協力ありがとうございました」だったか「ご足労かけました」だったかそんな声をかけてきた。野球の話題ですこしキャッチボールをした後、私はなんの気なしに「Aさんは?」と尋ねた。

 

B「そういえば、Aさん、刑事の試験受かったみたいですよ!」

 

高知県の未来がとても心配になった。

 

 

これを書いていたらこの日の事を思い出してまた腹が立ってきた。

 

皆さん、釣行中、職質にあったら

 

隠さずに、スッと出す

 

以上を守って、良い釣りを。

 

 

サムネがないのは寂しいのでちょっと前に釣ったアカメの写真を貼っておきます。

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