神津島遠征釣行記 ~敗北の価値は~【前篇】

刺激が足りない。一言で言えばそういうことなのかも知れない

モンスターとの遭遇を夢見て釣りへ行くのだが、ホームとしているフィールドでは出会う確率が低い

いつモンスターが喰ってきても獲れるようなタックルと心構えをしているが、そいつは僕のルアーを喰ってはくれなかった

今までの釣行を思い起こせば、なす術なく翻弄され、散々遊ばれた挙句敗北するような経験は長らくしていなかった

ラインをブチ切って行くような奴に逢いたい

そんな気持ちが芽生えだした頃に釣友のよし君から連絡があった

「今度神津島へ遠征に行きませんか?」

忘れかけていた心の高鳴りが僕の体を駆け巡った



今回の遠征の目的はただ一つ

ラインをブチ切る奴に逢いに行くことだ

極端な話、獲れなくていい。むしろそのほうがいい

どうしようもなく遊ばれて、ラインを、そして僕の心を切り裂いてくれ

何度叩きのめされても挑戦する熱き魂をもう一度思い出させてくれ



竹芝桟橋を出港してから約10時間後、舞台である神津島へ上陸した

今回は僕とよし君以外に3人の方が一緒に同行することになった

ちなみに僕以外の4人は3日間神津島へ滞在するが、僕は仕事の関係上2日間の釣行となる

島にいる間はなるべく長く釣りがしたい僕は、今回お世話になった民宿のよねきさんに荷物を置き、すぐに海へ向かったのだった


千葉の海とはまた違った美しい景色を横目に、ポイントへ向かった

着いた先はとあるサーフ

所々にゴロタが点在し、あるゲームフィッシュが生息するエリアだ

ラッシュガードに海パンでのスタイルで、浜から少し先のゴロタまで泳いで広範囲を探る

遠浅な地形なのでシャロータイプのミノーを使ってみる

すると足元で何かが飛び出し、ルアーに喰いついた

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釣れたのはエソ

神津島でのファーストヒットに喜ぶ

その後もエソが釣れる釣れる

足元にルアーを通せばすぐにアタックしてくる

しまいにはピックアップしたルアーに、まるでボラのようにジャンプして喰ってくる始末

そんなアグレッシブなエソをよし君と共に狙いかなりの数を釣るが、目的の魚からの反応はなく、見切りをつけ堤防へ行ってみることに

堤防ではエサ釣りでムロアジやシマアジ、ルアーで30cmほどのカンパチが釣れていたが、人が多いのとモンスターの気配がなく、様子を伺うだけに留めた

ここで、別行動を取っていた3人の方に連絡を取ると、別の堤防でスマガツオが入れ食いとの情報をキャッチ。すぐさま現場へ急行した

しかし、現場に到着するも群れは過ぎ去ったようで、静かな時間のみが流れていた

それでも他に行くあてもなく、釣り座もあったのでとりあえず釣ってみることに

ライトタックルに持ち替え、軽めのジグをしゃくってみる

するとよし君がソウダガツオ、さらにイトヒキアジをキャッチ

ちゃんと魚がいることが分かり、一層真剣にキャストを繰り返す

するとフォール中にラインが走り、何かがヒット

引きはそれほどでもないが、ようやくのヒットなので慎重にファイト

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釣れたのはイトヒキアジ

ヒレが長く、あまり早く泳げそうにないが、しっかりとジグにヒットしてきた

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千葉でも見られる魚だが、釣ったことはなく、しばしその魚体に見惚れる

この日はフォールにバイトが多く、さらに工事で海に泥水を流したそうで、水が濁っていたため、ピンクの目立つカラーに反応が良かった

パターンを掴み、すぐにヒット

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今度は少し手ごたえが良く、楽しみながらファイト

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上がったのは30cmほどのサバ

すぐに釣りを再開するとまたすぐにヒット

今度は今までの魚とは引きが違い、より強烈なファイトをしてくれる

足元まで寄ってくると、強烈な突っ込みで堤防にラインが擦れそうになる

なんとかかわして一気に抜き上げる

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正体は35cmほどのカンパチ

これくらいのサイズになるとライトタックルでは不安になるほど

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その後もカンパチやカマスなどポツポツと釣れてくれた

そして夕暮れを迎え、合流していた3人が先に民宿に戻ることに

民宿で夕飯が待っているので釣りが出来るのはあと30分ほど

よし君がこの30分をどうするか尋ねてきた

正直満足した気持ちもある

それに日が暮れたのでもう釣れないかもという思いもあった

それでも島に居れる間は釣りをしていたいから「もうちょっとやろうか」と告げた



辺りは闇に包まれ、常夜灯も点きだした

暗い海でも魚が発見できるようにスローに探ってみる

何を狙っているわけでもなく、ただ釣りという行為そのものが楽しくなっていた

そんな時、ふいにロッドから衝撃が伝わってきた

その途端スプールからラインが引き出され、辺りにドラグ音が響いた

ついにモンスターがヒット

異変に気付いたよし君が駆け寄る

そのよし君に僕がかけた言葉はあまりにも頼りない言葉だった



「これは無理だよ~」



今使っているタックルはあくまでライトタックル

ラインはPE1号。あまりにも弱いタックルだ

本気タックルで切られるならまだしも、このタックルで切られるのは話が別だ

正直この時点では獲ろうという気は全くなく、ただなるべく長い間この魚をバラさないようにしようと考えていた

そう思ってしまうくらいのドラグの唸り方であった

その状況を悟ったのか、よし君はファイト中の決定的瞬間を写真に収めようとカメラを向けるが、どうしたことかシャッターがきれない

嗚呼、こうやってこのファイトも記録に残らないまま終わるのか。とあきらめかけた

するとラインがとまり、少しづつではあるが魚が寄ってきた

そのまま5mほど巻きとれたので「もしかしたら・・・」という思いもでてきた

とはいえ、時折激しい抵抗を見せる

それでも最初の走りに比べたらそれほどでもなく、ゆっくりと、慎重にラインを巻き取る

どれほど経っただろうか、魚まであと10mほどというところまで寄せた

まだカメラと格闘しているよし君にタモを借りて来てもらい、ランディングの体勢に入る

リーダーが見え、ついに魚が浮いてきた

水面に浮いてもなお魚は抵抗を続ける

借りたタモは45cm枠。掬えるギリギリのサイズだろう

ランディングのタイミングが悪ければフックがタモに絡み、バラしてしまうだろう

何度かよし君とタイミングを取り、ランディングを試みるがその度に魚は暴れてしまう

ランディングを自分で行おうとも考えた

この魚を掛けたのは自分であり、よし君が責任を負うことはないのだ

もしそれでランディング失敗したとしても、自分が悪いだけになる

それでも、僕はよし君にランディングを任せた

それはこれまでの釣行で、よし君はやってくれる男だと信じたからだ

そっと「落ち着いて、次で決める」と告げる

それはよし君にも、なにより自分自身に言い聞かせるために言葉だった

そして、次のトライでついにランディングに成功。よし君が完璧なタイミングでタモを入れてくれた

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タモ入れが決まり、よし君とガッチリ握手しお互いを称え合った

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まわりに人がいるので控えめに喜ぶが、本当はメチャメチャ嬉しかった

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サイズは63cm

記録級の大物ではないが、ライトタックルで獲れたことがなにより喜びを増幅させた

この一匹に大満足し、晴れ晴れとした気持ちで民宿へ帰った

しかし、これで僕の釣りが終わったわけではない

次の物語がまだ待っていたのだ


後編へ続く・・・

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