最終章 ~人妻 久仁子との余韻~

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最終章 ~人妻 久仁子との余韻~
 
 このログはフィクションであり、 登場する人物、団体は実在のものと一切関係ありません。


果てた久仁子は、ぐったりと横たわっていた・・・


明るい照明に照らされた久仁子の美しい裸体を眺めていると、長年バレーボールの現役選手として君臨し続けている証が、身体の至るところにある傷が物語っていた。

力なく折曲がった指先を広げてみると、恐らく何度も突き指をしたのだろう、指の関節は膨れ上がり、特に利き腕である右手の中3本の指は真っ直ぐではなく変形している。 爪の生え方も歪になっている。 右膝には靭帯か半月版を痛めたのだろう・・・手術の縫合痕が残っている。 肘や膝には床で擦れた際の摩擦熱で火傷したと思われる痕が数箇所。


幾多の試練と苦労の時があり、それらを乗り越えるため正に血の滲む努力を重ねてきたに違いない。


こうした痛々しい傷痕を見ていると、いたたまれない気持ちになり、傲慢な考えだが久仁子を支え守ってやりたい」そんな想いが込み上げてきた。

 
時計を見ると午前3時40分


今日の出社時間も早いし、そろそろ帰らなきゃと久仁子を揺り動かしてみるが、スヤスヤと寝息を立てている。


せっかく気持ち良く寝ているところを起こして申し訳ないと思いながら「久仁子 帰るよ!」と耳元で告げた。


ビクッ!と身体を反応させると「えっ・・・帰っちゃうの? もう少しいいじゃん 側に居てよ」と順平の腕を掴むとグイッとベッドに引寄せ「もう少しこうしていたい」と抱き締めてきた。


先ほど感じた、いたたまれない気持ちもあり、少しだけ久仁子の甘えに応じてやろうかと、添い寝をし直すと久仁子は再び順平の腕を枕に寝息を立て始めた。
 

いつしか順平も久仁子の身体の温もりと寝息に誘われ一緒に眠ってしまった。 ZZZzz・・・











 

「順平、順平! そろそろ起きないと・・・」久仁子の声で飛び起き時計を見ると5時を指していた。


 
「ご、ごめん 寝ちゃったみたいで・・・」と散らかった服を慌しく着ていると「朝食べる時間ないでしょ? オニギリ握ったから食べながら帰って」とビニール袋を差し出した。


「あ、ありがとう」


いつしか眠り込んでしまった順平が気付かぬ内に起きて、わざわざオニギリを握ってくれた久仁子が健気に思えてならず「ありがとう」と言いながら強く抱きしめた。


久仁子は「御礼を言うのは私の方だよ たくさん美味しいものを食べさせてもらったし、誕生日もお祝いしてもらえたしね」と微笑んだ。

 
「うん・・・一緒に誕生日のお祝いができて嬉しかった うん それじゃあ また連絡するよ」と玄関へ向かい靴を履こうと背を向けると「ちょっと待って・・・1つ聞きたい事があるんだけど・・・」と順平を足止めさせた。


「なに?」と振り向き直ると「あのね、私の気持ちなんだけど私は順平のことが好き これからも一緒にいたい大切な人。 順平は私のことをどう思っているのか聞かせて」と手を握りながら想いを尋ねてきた。

 
久仁子の問い掛けは突然のようにも思えるが、確かに順平は、出会ってから今に至るまで、久仁子に対する気持ちを言葉にして出してはいなかった。


順平の態度や行動を見れば好意的であり「言わなくてもわかるだろ」の論法は男の身勝手な考え。

 
はっきりと順平の気持ちを言葉に表して欲しいと思う久仁子の気持ちは至極当然である。
 

どう答えるべきか、瞬時に色々な言葉が順平の頭の中を駆け巡った。

 
「俺は家庭のある身だから 好きとか愛しているという恋愛感情あってもそれを言葉にすることはできない。だからその分、行動で示してきた。卑怯だと言われても仕方が無いと思う。 ただ俺の気持ちは久仁子と同じで大切な人であり、これからも支え続けていたい。としか言えない」と久仁子の目を見て答えた。
 

少し間を置いた久仁子は「うん わかった ありがとう」と言うと「ハグして」と両手を広げた。


ただ、その「ハグして」と言う言葉の間には、何か儀式的・・・その場を取り繕うためのような感じがした。
 
 
順平は、力強く久仁子を抱き締めた。
 

順平が抱き締めていた腕の力を緩めると「はい じゃあ気をつけてね また連絡するから」と身体を離すとニコッと微笑んだ。
 

ゆっくりと閉まりゆくドアの隙間から手を振り続ける久仁子。やがてバタム!とドアは閉じられた。

 
エレベーターを待つ間「ふぅーっ」と深くため息をつく順平。
 

久仁子が期待した言葉を掛けてやれなかった事で、もしかしたら連絡も会うことも二度と無いのかも・・・「別れの予感」を感じ取った。


あの場で「好きだ!愛している!」と彼女が求める言葉を言うことは簡単だが、その先の未来を見ることを許されない関係である以上、無責任な言葉は言えない。これが俺の流儀であり、これが大人の恋愛の宿命なのだと自分に言い聞かせた。
 

ブルーな気分になり肩を落としながら、マンションのエントランスを抜け、白ばみ始めた街を路駐した車に向かい歩いていた。




ふと、何かに惹きつけられるように、久仁子の部屋を見上げるとベランダから久仁子が手を振っている。
 


 
胸がグッと締め付けられた。
 

 
順平は立ち止まると肩が抜けるくらい両手で大きく手を振り続けた。

 
再び歩き出すと久仁子の姿が見えなくなるまで力いっぱい手を振り続けた。
 

車に乗り込み会社に向かっていると、久仁子からメールが届いた。
 


もしかしたらもうメールは無いかもと覚悟していただけに、少し安心した気持ちにはなったが、メールの内容によってもしかしたら・・・という「別れの予感」は拭いきれないまま、受信フォルダを開けた。

 

「気付かないだろうと思い手を振り続けていました。順平さんが私に気付き手を振ってくれた瞬間、私の想いが届き、同じ気持ちとなんだと思いました。 私の好きという気持ちに変わりはないです。 側に居て欲しいし、側に居たい。」
 

 
どうしてオマエはそんなに健気なんだ・・・
 

 
順平は「俺も久仁子と同じ気持ちです」と打ち返すと、オニギリを頬張りながら車を走らせた。
 
 


そして、その日の午後。逢瀬の時の余韻に浸る間もなく仕事をしていると、久仁子からメールが届いた。



文章欄には何も書かれておらず、写真の添付マークが付いている。


 
添付ファイルを開けてみると、男の顔が写っている。


誰だ! 男の寝顔? コイツは誰だ? ん?俺か? エッ!俺だよな・・・


どうやら俺が眠っている間に撮ったんだな・・・
 
 
続けざまに久仁子からメールが来た。「また順平の寝顔が見たいな」
 
 
そしてもう1枚写真が添付されていた。
 
 
ゲゲッ! ケツをさらけ出し、素っ裸のまま、ベッドに横たわる俺の写真
うつ伏せに寝ていたことが幸い
 
 
久仁子の想いが伝わってきて「あははっ」と笑いニヤついてしまった。・・・・・・が、しかし、見方変えると・・・・・

かなりヤバイ女に手を出しちゃったのかも(大汗)
 

* * * END * * *



 
あとがき
 
くだらない大人の恋愛ログにお付き合い頂きありがとうございました。 また、たくさんのコメントを頂きまして本当にありがとうございました。

とりあえず、大きな段落として区切りを付けさせてもらいました。

これで終了ではないので、時期を見て、また再会できるよう書き上げてみます。 読者様から多くの反応があった「田中くん」についてもね(笑)

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