白銀の女王

  • ジャンル:釣行記

釣りを始めた頃から、ずっと憧れていた魚がいる。



初めて釣った魚は、英国のレインボー。

それから2年ほどして、日本でフライフィッシングを始めた。

とは言え、「フライやってます」とは恥ずかしくて口に出来ないほどで、
まぁものの見事に釣れなかった。

魚よりも木やボサと仲良くなるのに飽きて、ミノーイングに転向。

それでも、まぁ、やっぱり見事に釣れなかった。

年に数回程の釣行で、入渓の仕方もろくに分からないような
ビギナー中のビギナーっぶりだったのだから
数匹でも釣れていたことがむしろ奇跡かもしれない。


そんな頃から、憧れていた魚。

本流の女王とも呼ばれる魚。

エキスパートアングラーでも本当に苦労させられる魚。

本当に雲の上の存在だけれど、
「いつかお目にかかれたらな」
そう思っていた。


思えば、あらゆる釣りの師匠となってくれた浅川和治さんと
偶然お近づきになったのも、その魚がきっかけだった。

釣り人の集まるもんじゃ屋・五平さんでたまたま遭遇して、
「シーバスのプロ」として名の通った方だとは知らなかった私は
憧れの魚を釣ったことのある浅川さんを
「どこで?」「どんな風に?」「どんな引き?」
と質問攻めにしたのだった。

シーバスについては殆ど尋ねない私を面白がってくれたことが
その後の色々なご縁にも繋がっていった。

縁は異なもの、である。


色々なソルトの釣りを楽しむようになり、トラウトも再開できた。

でも、やはりトラウトの女王には、まだまだ手が届かない。

雲の上の存在で、挑戦することさえおこがましいと感じてしまう。

そんな魚だけれど、やはり心の片隅には、
「いつか・・・」
という思いがずっと住み続けていた。



2012年春。

夢への扉が開かれた。

新潟県・荒川。

初日は吹雪だった。
寒いというより痛い。
指先にも足先にも突き刺すような痛み。
我慢して我慢して投げ続ける。
堪えきれなくなると水から上がって一瞬息をつき、また流れの中に立つ。

川の状況と日々睨めっこして、状況が許す限り週末ごとに通い、
とにかく投げ続けた。

 

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寒さが緩んで、桜が咲いても、出会いは訪れなかった。
 

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次はいつ挑戦できるのだろう、そう思いながら、荒川に別れを告げた。
 

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2013年春。

非常に人気が高く、プラチナチケットとも呼ばれる
富山県・神通川の遊漁権。

釣り運のない私らしく、落選。

見事手にした師匠・浅川さんは400km超の道のりを物ともせずに通い続け、
昨シーズンの雪辱を果たした。

 

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と言っても、簡単だった訳ではない。
一ヶ月以上通い続け、解禁期間も後半となって、ようやく手にした魚だった。



そして2014年春。


再び、新潟へ。

初挑戦した荒川に程近い胎内川。

今年が初の解禁となる川。

 

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荒川よりも小規模で、キャストの飛距離がハンデになりにくいだろう、
と大先輩が薦めて下さった。

狙うのもおこがましい魚を私が手にすることが出来るようにと、
本当に沢山の方が応援して下さっている。

技術も体力も精神力も、まだまだ足りないけれど。

それでも釣りの女神の気まぐれを祈って、精一杯投げ続けよう。


 

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胎内を訪れた初日、胎内のマスコット、やらにゃんに出会った。

土地の言葉で
やらないの?やるんでしょ?」
を意味する「やらにゃん」。

とにかく投げ続けるしかない私にぴったりのキャラクター。
やるんだ。
釣るんだ。

師匠、先輩方、友達、地元のアングラーさんから
いっぱいパワーを貰って、川に立つ。

 

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薄明から、夕焼けまで。
歩いて歩いて、投げて投げて。

それでもやはり、出会いは訪れない。

3回目の釣行初日、ようやく釣れたのは、小さな小さなヤマメ。

・・・いや、よく見ると、鰭が黒い。
まだか弱いけれど、未来の女王。
源流域のヤマメを思わせる小さな体で、7cmのミノーにアタックする逞しさ。
きっと素晴らしい女王になるはず。

そして師匠には良型の戻りヤマメが。

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夢の後姿を拝んで、明日こそは、と眠りにつく。

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2014/4/13 7:30AM

見るからに一級!と言う感はないシャローエリア。

でも地元アングラーさんのお勧めポイント。

朝一が不発に終わったことだし、折角のアドバイスを生かしたく
丁寧に流してみることに。

濁りが消え、かなりクリアになった流れを見て、
よりナチュラルなヤマメカラーにミノーを付け替える。

碧い水流れの中で、きらめくミノーが見える。

既に師匠が流した後だし、活性が高いとも思われないので
移動距離の少ない弱めのトゥイッチで、ゆっくり流し落としていく。

落ち込みの少し手前、ミノーが方向を変えようとした時、
何か白いものが視界に飛び込んできた。


直後、手元に伝わる衝撃。


ドラグが鳴り、流れの中で躍る魚体。

足場は水面から2m近い高さにあり、枝がいくつも水面へと
鋭く腕を伸ばしている。

巻かれたら一瞬で切れる。

枝をかわしながら、少し開けた場所へと動いて叫んだ。
「浅川さん!!」

地元のアングラーと歓談していた師匠は、その声に振り向き、
私のロッドが曲がっているのを見るや、疾風のように駆けつけ、
一瞬でざれ場を降り、ネットを片手に水面に立っていた。

「落ち着いて!ゆっくり!」
と声をかけられて、深呼吸する。

さらにシャローとなる下流に走らせないように、頭を上流に向かせ、
慎重に、慎重に寄せる。


顔が、目が見える。

鼓動がさらに高鳴る。


浅川さんが腕を伸ばし、白銀の魚体がネットにおさまった。


 

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前日の戻りヤマメが脳裏にあったから、
「本当に?本当に!?」
と幾度も浅川さんに尋ねてしまう。

「本物だよ。」


夢の魚。

憧れの魚。

本流の女王、サクラマス。


前日からぐっと気温が上がり、桜が一気にほころび始めた朝だった。

桜の頃に、白銀の鱗をまとい、海から帰ってくるサクラマス。

鱗の下に、小ぶりな顔に、いくらかヤマメの面影は見られるけれど、
眼光鋭く、威風堂々。


 

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サクラマスとしては小型ながら、風格はやはり女王のそれ。

鱗がどんどん剥がれていくところを見ると、海から遡上したての
フレッシュな鱒。

ふわふわとした、現実感のない夢に放り込まれたような心持ちから、
じわじわと実感が、喜びがこみ上げてきて、水面にへたり込んだ。

通りかかったアングラーさんが、漁協の方が
それぞれに祝いの言葉を投げかけて下さる。

涙が溢れそうで
「ありがとうございます。本当に嬉しいです。」
としか言えない。

言葉は時に雄弁で、時に役立たずだ。


 

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綺麗だね。
カッコイイね。
どんな誉め言葉も女王の前では陳腐に聞こえる。

だから、一番口にしたいのは
「ありがとう」

 

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釣れてくれて、ありがとう。

釣らせてくれて、ありがとう。

胎内を紹介して下さった先輩。
胎内を案内して下さった地元のアングラーさん。
サクラマス、頑張ってね、と応援してくれた友達。
この日に至るまで、あらゆる釣りを教えてくれた仲間、師匠。

小さなトラウトたちから

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シイラに

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アイナメに

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カワハギに

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メバルに

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もちろんシーバスも

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全て一人では辿り着けなかった魚。

そしてその魚、一匹一匹が、全てこの日に繋がっている。

これだけ恵まれた環境にいて、これだけ釣行を重ねていたら、
きっと普通はもっともっと上達しているはず。

本当に遅々とした歩みに呆れながらも、厳しくも温かく導いてくれた師匠に
心からの感謝を伝えたい。


釣りに、皆に出会えて良かった。

これからもどうか私の傍に。


そして、皆さんも憧れの一匹に、出会えますように。

 

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