♯14 ルアー開発9(特許への道3の4)

前回のお話は、特許取得にあたって文献調査を行い、代行業務の依頼先を探したという話でした。実際には数カ月掛けてコツコツ頑張って文献調査を行い、何も知らない特許の世界へ飛び込むにあたってサポートしてくれそうな会社を選んだ。
 
今回の話は、将来特許を取りたいという方々の参考となるように、自分の経験や弁理士の方々から教わった注意点やお勧めをまとめる。釣りとは全く関係が無いので、興味のない方はすっ飛ばしていただいて、また興味もある方も内容を保証できないため参考程度に読んで欲しい。お世話になった特許事務所に迷惑を掛けないよう、ここでは具体的な費用についての言及は避け、書かれている金額はウェブで調べたら出てくる一般的なものである。
 
基本的に多くの特許事務所のウェブサイトでは特許取得費用が30万から40万程度となっているが、それはあくまで最低金額であって全ての作業が1回で済んだ場合に限る。小生が頼んだ事務所でも、実際にはそのように最低金額で済むケースは極めて稀とのことで、こういった表記を行っている事務所に関して追加費用がどの程度発生するのか注意が必要である。なぜなら、そのようなウェブサイトの中には「審査後、最初は拒絶されるのはよくあることです。」のような書き方がされている一方で、これを修正し再審査にかけるにも別途かなりの費用が発生することは書かれていないケースが多いためである。
 
特許取得にあたっては、その権利範囲をなるべく広く抑えたいというのは依頼する側の心理だと思うが、事務所側もそれを叶えようとすると申請するための説明文が長くなる。ここにも大きな落とし穴がある。それは、士業の皆様が依頼者に課金する理由は、手続き代行や法定費用の支払いを除けば、その大半が文書作成・修正費用となる。つまり、文章の長さ(請求項の数)に対して課金が発生し、ほぼ確実に発生する修正作業にも文章の長さに応じた費用が発生するのである。つまり、士業の皆様にとっては依頼者を支えようとするほどに費用が発生し、依頼者にとってはそれが心からのアドバイスなのか儲けるためなのかの判断が難しい。更に、文章が長くなるほど審査官の突っ込みどころが増えるため、拒絶理由を生み出しやすいという盲点もある。
 
また、士業の皆様にとってはより短い時間で多くの案件をこなすことが売り上げにつながるため、取り扱っている案件が多いほど1つ1つの作業がーチン化する傾向にあると感じる。皆様の中にも経験がある人がいると思うが、1カ月前に書いた長文を修正しようと思うと、また1から読み直して記憶を掘り起こす必要がある。しかし、担当者があまりにも多くの案件を扱っている場合、1つの案件に割くことのできる時間は必然的に短くなり、余程その案件に思い入れや理解がなければ議論の内容を忘れがちになるだろう。
 
これらのことから、将来特許を取りたいと考えておられる皆様には以下の点に注意されるのが良いだろう。

1.30-40万では取得できない可能性が高い。  
 a. これは単に審査を通すことが難しいことに加え、人が審査する以上は解釈にブレが生まれるため。特に、その分野に精通していない方々が申請内容を理解できていない場合、明細書の内容が不明瞭になる可能性や特許庁の審査官に正しく理解されない可能性がある。
 b. 特許事務所は営利企業のため、当然営業成績なども評価されるであろうから、拒絶回数を増やして修正費用を加算することも正しい行動となる(何が何でも一度の申請で特許化するぞ、とは考えない)。

2.投げっ放しでは済まない。
 a. 相手が勝手知ったる仲であれば話は別だが、小生のように全くの門外漢の方が依頼するのであれば、なるべく特許を取得したい分野に精通した弁護士や弁理士の方を探す方が良いだろう。そうでなければ、毎回仕上がってくる書類全てに目を通して1つ1つ間違いを正す必要があるが、非常に独特で難解な文章表現が用いられることから、内容の理解に莫大な時間が掛かる上に過ちや抜け落ちを見落とす可能性がある。
 b. セカンドオピニオンを求めた弁理士の方のアドバイスは、残念ながら特許事務所からの提案は鵜呑みにしてはいけないし、特許事務所がいつも寄り添ってくれるとは限らないというものだった。請求項の増加を伴う提案は費用の増加に直結するため精査が必要だし、酷い事務所の場合には明らかに拒絶されるような内容でも敢えて残すことで案件の延命を謀るといったこともあるという。また、大半の特許事務所では、何らかの行動を取る前に必ず依頼者に承諾を取ることで責任が逃れられるようにマニュアル化されており、結局のところは自分で自分を守るしかないとのことだった。

もし、相手が悪意を持って言葉巧みに誘導してきた場合、敵は難関国家資格を取得した百戦錬磨の弁理士となりますが準備は整っていますか?


最後に、小生が時系列に沿ってお勧めする特許取得への道ということで、以下駄文が続きます。

1.時間が掛かっても信頼できる弁理士を見付けよう。
同じ事務所でも担当者が変われば全く異なる結果になるかもしれませんので、なるべく申請内容に精通している方を見付けるのが良いと思います。「先願」の原則で、先に出願した方の特許が優先はされるのですが、100年以上のスポーツフィッシングの歴史の中で未だに特許化されていない技術なのであれば、取り立てて急ぐこともないでしょう。

2.外注するなら最低でも50万。ギリギリを攻めていくなら100万は欲しい。出願前に引き際を決めておくことも重要。
 a. 内容的に特許取得が厳しいかどうかの判断も難しいようであれば、事前調査も外注しましょう。その時点で全く可能性が無いことが分かれば、損失は10万以内で済みます。
 b. 独自の調査や特許事務所の調査で大丈夫と自信を持っていても、審査官の調査能力を侮ってはいけません。何十年も前の海外特許であっても、審査官は探し出してきます。全く同じ技術が紹介さていれば敗北確定です。この時点で撤退すれば、着手金と申請・審査費用等で20-30万程度の損失で済みます。
 c. 拒絶理由に対抗する場合、例えば拒絶理由に対して明らかにここが違うと主張していく場合、その部分に「新規性」と「進歩性」を持つかどうかの勝負です。拒絶理由には何がどうして悪いのか、ここは特許化できそうなどとコンメトが付いてきます。残念な特許事務所は、原案に拒絶理由を仕込んでおいて、ここの修正(10―20万)で稼ごうとするそうです。もし、修正が軽微で、ほぼ特許査定(特許として認められること)であるといったコメントであれば、素直に修正して応答しても良いかもしれません。しかし、まだまだ揉めそうな予感がするのであれば、むやみに修正応答せずに、なるべく早く「審査官面接」に持ち込みましょう。審査官面接は、特許庁の審査官に拒絶理由に対して弁明したり、逆に特許化のためのアドバイスを受けたりすることができます。この時点で全く落としどころが見付からない場合は、特許化は難しいでしょう。これまでの費用である20-30万程度に、「審査官面接」費用の1-5万を加えた金額の損失が発生します。もし、「審査官面接」までに修正応答を行ってしまうと、特許事務所の修正費用が別途発生しているでしょう。
 d. 「審査官面接」で解決策が提示された場合、いずれにしても書類の修正が必要でしょうから修正費用が発生します。軽微なものであれば良いですが、大がかりな修正になれば費用の増加は避けられないでしょう。しかし、ここで安心はできません。「審査官面接」後の応答結果が必ずしも特許査定とはならないことに注意が必要です。審査官は改めて修正案を調べますが、元々拒絶されているものをどの程度修正するかによっては、ぎりぎりを攻めすぎて再び拒絶される可能性は十分にあります。そうなると、修正案の作成費用が更に嵩んでいきます。
 e. 無事に特許査定が下りました。あとは特許費用を収めれば終了、とはなりません。特許事務所に、結構な額の成功報酬を支払う必要があります。途中、どれだけ修正に時間とお金を掛けていたとしても、特許査定が下りれば別途追加で支払わなければならない契約になっています。

ここまで読めば、冒頭にご説明したウェブサイトで見られる特許取得代行費用の30-40万が如何に非現実的な金額かが想像できるかと思います。

3.金銭的な余裕がある場合、敢えて拒絶理由を貰いに行くことで特許の範囲を決めるという手段があります。
 a. 発明に関する内容をかなり広めにとって幾つかの請求項として申請する。
 b. そうすると、審査官がコレとコレはダメだけど、コレは大丈夫そうといった特許査定の可能性について根拠とコメントが入った拒絶理由を送ってくれます。ダメと判断された根拠を調べると、どの程度の内容であれば特許化できそうかが見えてきます。
 c. 注意しないといけないのは、1つの特許申請には1つの発明だけが含まれなければならないという事です。例えば、ルアーを赤く塗ることで釣果を伸ばすといった発明だとすると、「頭だけ」赤くするとか「お尻だけ」赤くするというのは同一発明に含まれる可能性があります。これに対して、頭だけ塗ったルアーは既にあるからダメだけど、「お尻だけ」のは特許化できそうといった拒絶理由が届きます。では、「お尻だけ」を柱に修正しようとなります。しかしここに、ルアー断面を四角にして釣果を伸ばすという請求項を入れても、これは別の発明と考えられますので審査自体をして貰えません。つまり、発明が2つ入っているので原則から外れていますという注意書きは貰えますが、断面が四角のルアーについて特許査定の可能性は調査されないということです。


ということで、かなりマニアックな内容になりました。とても需要があるとは思えませんw。釣り業界はYouTube全盛という中でここまで読んでいる貴方は、余程の変人か自ら特許と取りたいと真剣に悩まれている知財部門がない零細企業や門外漢の個人でしょう。そういった皆様にとって、個人的見解を多分に含み内容が保証されない本稿が少しでも参考になれば幸いです。また、より良いアプローチやお勧めの弁理士さんをご存知でしたらご一報ください。
 

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