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上宮則幸

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糸鳴きと軋みと 7 最終話

月齢12.6
大潮初日
東北東の風
強風吹き荒ぶ
冷たい月光が降り注ぐ有明橋
権現山の麓を抉るようにこの川は流れる

肝属





遠方から訪れた釣友が既に待っていた。




出掛けにひと悶着。
相方は今日は帰りが遅く、おれと息子のみなもで留守番してた。
風呂上がりにみなもを遊ばせながら洗濯物を干す。
しかし、みなもが今日は特に言うことを聞かない。
とある大切な物に、触るな!と言って聞かせるのに、それでも触る。
こちらが都合が悪いのを見透かしたように何度も何度も。
おでこをパチンと平手で打った。
みなもが予想外の仕打ちに一瞬表情を止めた後、大粒の涙と共に号泣した。
抱っこしたらすぐに泣き止むと思ったが、泣き止まない。
洗濯物干すのもそこそこに抱き締めて落ち着かせようとする。
ヒクヒク言いながらみなもがおれの胸に顔を埋めた後、悲しい瞳でおれを見上げる。
そのまま寝室に行き二人で毛布にくるまり暫く一緒に寝た。
チクリと胸が痛んだ。

相方が帰るとその事を報告した。
相方はニコリと笑って「可愛いよね!」と答えた。
こんな返しをする相方が好きなんだと思った。
なんだかホッとしながら川に向かった。



先に到着していた釣友のメールで風の強さは知らされていたが、予報通りなら日付を跨ぐ頃には風は和らぐはず。
気圧計に目をやり、水温計を水に浸けた。
21℃だと?!
前日18℃だったと言うのに、、、

うねりがあの場所の上に僅かに白波を作るのが見える。
おれが遅れたので、久しぶりの挨拶もそこそこに川原を歩いた。

妖気漂う。
月光に照らされ妖しさも一際だ。


迷う事無く

定点


強風を切り裂いてそこに届かすには手持ちのルアーでも数個のみ。
初っぱなからピース100を撃ち込んだ。
そして、それが起こるまでそう何投も要しはしなかった。


ピースが引ったくられた!!


対カワヌベファイト動画





そのブロンズ色に輝く美しい魚が遂に目の前の水面に横たわった。

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荒唐無稽な夢から始まった今年の春の挑戦は、ひとまずこれで終わりにしようか。
この強風は大雨の兆しだ。
雨粒は肝属の流域である大隅半島を濡らし、流程短いこの川を足早に走り抜け、きっと『定点』を幻にしてしまうだろう。
だけど、このブロンズの甲冑を纏ったカワヌベと言う美しい魚は、きっとこの川の流れに悠々舞い戻ってくる。
そしたらまた語ろうじゃないか。

ヤツの声は糸鳴き
おれの言葉はガイドの軋み

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おまえがまたおれを虜にしてしまうまで、おれは家族を、う~んと愛して暮らしているさ。




『糸鳴きと軋みと』


おしまい




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