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Sato Yuma
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▼ "ある夏"の記憶 (後編)
- ジャンル:日記/一般
- (flame frame)
8月某日の夜。私は大分県内のとある駅に降り立った。
1年前は車の免許を持っておらず、電車を利用して向かったのである。駅までの電車内は途中で乗ってくる人が1人もなく、いやに静かでひんやりとした空気をだったのをよく覚えている。
1週間前にこのフィールドをあらかじめ訪れて偵察をしていたので、自分の中で設定した24時間ルールでは残り18時間といったところ。その偵察の中で十分ポイントが絞れてきていたのであらかじめ予約しておいたホテルのチェックインを済ませた後、第一のポイントへすぐに向かった。
ーーポイントに着くと、既にその場所で釣りをされている方が居た。一足遅かったらしい。
しかしながら、そこで私と同じく大分アカメを狙ってやってきた1人の釣り人(以降お兄さんと呼びます)に出会い、お願いをして一緒に釣りをさせてもらうことに。普段の釣行においてほとんど1人で釣りをすることが多い自分が思い切ったことをしたものだと思いつつ、まだ見ぬ大分アカメを求めて一緒にルアーを投げさせてもらった。
あのお兄さんは私が今まで出会ってきた釣り人の中で間違いなくトップクラスに入る相当な腕を持っていた。自分が釣りをしているフィールドの情報をいち早く取り込み、そこと照らし合わせて論理的、最善とも言える手を繰り出しながら釣りを展開してくる知識や閃き、そして技術に圧倒された。
感覚寄りな釣りをする自分にとっては、知らない手品を目の前で見せられているような気持ちで釣りをさせてもらえ学ぶことがあまりにも多くあった。車で一緒にポイントを回り、あげくにルアーまで頂くという散々お世話になり尽くして、私はお兄さんと別れ、ノーバイトという結果で初日の釣りを終えホテルへと戻った。
ーー次の日の朝、空が明るみ始める頃に釣り場へ向かった。3時間程しか寝ていなかったが不思議と身体は疲れていなかった。この朝マズメはピックアップ寸前にジョイクロでエバのチェイスがあったのみ。メッキサイズしか見たことがなかったので少し驚いてしまったが、昨晩お世話になったお兄さんが全く異なる場所で1時間程前に同じくエバをトップで釣ったという知らせをもらっていたので見間違いではなかったように思う。掛けてキャッチするところがなお凄い...。
朝の釣りを終え、ホテルで朝食を済ませて(めちゃくちゃ美味しかった)からはチェックアウト寸前まで釣り道具の手入れをしながらのんびりすることにした。正午の時点でフィールドに立てる時間は残り10時間程であり、次の日に仕事があるため終電までに釣りを終えないといけないという状況だった。そこで私は、夕まずめ後の数投で勝負を決めるために少し遅めの昼食を終えた後、釣り場でポイントを確保させてもらいながらのんびり暗くなるのを待つことにした。
ーー釣り場で持参してきた本を読み終えた頃には自分の縛りでは、残り5時間。自分の家にまで行く最後の電車の時間まで残り3時間を切っていた。それでもまだ、キャストはしなかった。釣り場で数時間読書というおそらく普通の釣り人がしない行動をしていたせいだろうか、いや、きっと昨晩、凄腕の釣り人に出会い、色々な話を聞かせてもらったり一緒に釣りをしたりしたおかげだろう。スポーツで言うところのゾーンに入っていたのかもしれない。まだ掛けたこともない、居るのかもよく分かってない魚に対して「今じゃない」というのが分かっていた。
ーー完全に辺りが暗くなってから、あるタイミングで水面のボラの挙動が少し怪しくなってきた。
「今だ」と思った。終電まで残り約1時間。投げるルアーは昨晩お兄さんから頂いたルアーをチョイスした。自分が得意なトップウォータープラグであり、せっかくアカメを釣るならこのルアーで釣りたいと思ったからだ。
1投目。大きめのスライド幅を持たせたドッグウォークをしながら流して行ったが反応無し....。
2投目。先程よりも小刻みなドッグウォークとロッドアクションを一切入れずに流して魚が居るであろう場所に流しこむことを意識したリーリングで引いてくる...。
喰ってくるならあともう少し流した所だろう。そう考えてルアーを動かしていた。
自分がイメージした場所に入るまであと1秒もないであろうという刹那、
「ズバァンッ!!!!」
誰か落っこちたのかと思う程、大きな音が鳴り響いた。今までの釣りで、あそこまで心臓がびくっとなるような音を聞いたのはあれが初めてだった。おそらく「アカメだったと思う。」
「アカメだったと思う。」と書いたが、つまり、掛けられなかったのである。お兄さんから頂いたルアーはあの凄まじい音が鳴った直後、宙を浮いていた。スローモーションでその光景が見えた。アワセを入れる間もなかった....。
ーー結局、私は終電の時間を迎えてしまった。私が1バイト出した直後、合流したお兄さんが駅まで送って下さった。何かとてつもない魚を水面に引きずり出してしまったという嬉しさと掛けられなかった悔しさを噛み締めながら車内で色々な話をした。
終電の時刻の少し前に駅に着き、私はお兄さんと熱い握手を交わして、軽い疲労と沢山の荷物、そして凄まじい程の充足感を抱えながら電車に乗り込んだ。
ーーこの物語にはもう少し続きがある。
「素晴らしい釣りだった。あわよくば掛けたかったけど今回のところは100点満点だ。」
電車に乗ってしばらく経ち、そのようなことをぼーっと考えながら電車の心地良い揺れに誘われて眠りそうになっていた頃である。
一通のLINEが届いた。
(以下、ほんの少しLINEのやり取りを載せます。許可は頂きました。)
自分以外誰も乗っていない電車の中で、思わずガッツポーズをした。間違いなくこの人は釣るなと思っていただけに全く驚きはしなかったが、自分のことのように喜びを感じた。
更に嬉しいことに、釣ったルアーがそのお兄さんから私が頂いた、極限までタイミングを見計らって1バイトを引き出した、そんなルアーの色違いだった。自分がトップで出した「アカメだったと思う」魚は間違いなくアカメだ。そう思わせてくれたお兄さんには感謝してもしきれない。
ーーそして今年の夏。私はまだ大分に居る。
今年こそ「大分アカメ」を手にしたいと思っている。 新しい相棒を携えて。
私が4月から趣味で始めたブランド「flame frame」初のオリジナルロッド「Memento "ALKA" 」。このロッドを製作するにあたって、普段の釣りやこれまで訪れてきた熊本、長崎、高知で磨いてきた感覚を詰め込むことを意識したが、根底にはこのロッドの名前にもある通り、大分アカメを追いかけた「"ある夏"の記憶」があるのかもしれない。
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- 2023年8月29日
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