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上宮則幸

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一億の夜 ♯1

信号待ちの車列に追いつき、前方の車の車内に取り付けられたロッドホルダーとロッド複数が目に入った。
リアハッチのガラスには釣具メーカーのステッカーが数枚。
目を凝らすと、車内には2人の男達が乗っているらしく、運転席の男が大袈裟な身振り手振りを交えて何か話している。 
助手席の男もそれに何か応えて、2人で大口開けて笑いあっている様子。

ふと気付けば信号は青に変わっていた。
前の車は雑談に夢中で気付かない。
暫く待ったが、おれの後ろの車が焦れてクラクションを鳴らした。
慌てて前の車のドライバーがアクセルを踏む。
車列は何事もなかったみたいに整然と流れ始めた。

世の中はお盆の休暇に突入している。
多分、日本中で見られる光景なんだろうな。
休みに浮かれた釣り師達が日本中にうじゃうじゃいることだろう。

お盆を返上で仕事しているおれにも短い休暇がもうすぐやってくる。




おれは今年40歳。
妻と10歳になる娘がいる。
仕事は食品の卸し関係の、まぁ普通の会社員。
出世争いなどどこ吹く風の小さな会社で毎日遅くまで働き大企業のベースアップや長期休暇を羨ましく思う一方で、地方都市ではまあまあな暮らしにそこそこ満足している。

休日は日曜日ではないので娘に「遊びに行こうよ!」とせがまれる事はあまりないが、今は夏休み中。
多分、盆明けの休暇には妻に娘を遊園地にでも連れていけと言われるんだろう。

できれば寝て過ごしたい。
昼間から酒を飲んでゴロゴロしてみたい。
そんな希望は叶わないんだが。

久しぶりに釣りにも行きてぇなぁ…

そうボンヤリと考えながら家への道に車を走らせた。



ガレージに車を放り込み、ネクタイを緩めながら玄関を開けた。
「ただいま」を言う前にリビングから「お帰りなさい!」と妻と娘の声。
少し調子を乱されたおれは、声をひっくり返しながら「ただいま」。

いつもなら、奥のおれの書斎に鞄を置いて、それからリビングに入るが、妻と娘のちょっといつもと違う雰囲気を感じてそのままリビングに入ると既に夕食をすませた娘が唐突に「パパ、亜美ちゃんとハウステンボス行っていい?」と期待に満ちた笑みで問い掛けてきた。

あまりの唐突さに声の出ないおれに妻が「亜美ちゃんのお母さんのお誘いを受けちゃったのよ。」

事情はこうだ。
亜美ちゃんと言うのは、おれの会社の同期の岩井憲作の娘。
岩井のうちが今度の盆休みを利用して長崎のテーマパークに二泊三日の旅行を岩井と奥さんの詩織さんと亜美ちゃん、それから岩井のお母さんの四人で計画していたらしい。
そう言えば岩井からそんな話し聞いてたっけ。
ところが、岩井のお母さんに何か用事が出来、岩井もそれに付き合わなければならなくなって、キャンセルしようか迷っていたと。
妻と詩織さんはおれと岩井が入社以来の釣り友達ということもあり、また子供の歳も近いことから自然と仲が良くなり、今日も岩井家で子供を連れてお茶してたようだ。
そのお茶の席で詩織さんからキャンセルの話を聞いて亜美ちゃんが突然、おれの娘と一緒にハウステンボスに行きたいと言い出したそうだ。
うちの方では休暇中の予定を特別決めてなかったから妻も乗り気になり、当然娘も行きたいと言い出しトントンびょうしに話が進んだってところだ。



「いいよ!楽しそうじゃん!」
おれは快諾したが、妻が少しばかり申し訳なさそうな声で言った。
「でもね、困ったことがあるのよ。部屋の予約がね…一応キャンセル待ちなんだけど、今のところ確実なのは2人分しかとれないみたいなの…」

岩井と岩井のお母さんの穴埋めだから当然2人。
妻と娘。
おれはあぶれるのか(笑)

「いいよ!おれは家でゴロゴロ過ごすからさ。」



おれが行かないと言ったときの娘の喜びようは少々癪に触ったが、至福の休暇をおれはこの時手に入れた。




つづく







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