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連載第11回 『雷鳴~長い長いトンネルの出口で見えたもの~』

  • カテゴリー:日記/一般
  • (小説)
第六章 蜜月

ボクと清夏の蜜月が始まった。
会社のメールではなく、LINEでやりとりするようになった。清夏から送られてくるLINEには、絵文字や顔文字やスタンプが多く使われていて、とても可愛らしかった。
職場では、今までどおりに振る舞った。清夏は、ボクに対して敬語を使うことを忘れなかったし、互いに名字で呼ぶよう細心の注意を払った。ボクは、清夏がミスをすれば当然注意をするし、良い仕事をすればためらうことなく褒めた。ボク達は、こうした「二重生活」を楽しんでいた。
ボク達は、週に二度はデートするようになった。清夏と会う時には、ボクは必ず指輪を外した。
ボク達は、いつも違うレストランで逢瀬を重ねた。清夏は夜景の綺麗なレストランを好んだ。台場、竹芝、日比谷、恵比寿、新宿、六本木、丸の内、日本橋、浅草など、挙げればきりがないほど、たくさんのレストランで食事を共にした。ただ、恵美と初めて結ばれた渋谷のCホテルだけは避けた。
清夏が最も好きだったのが、明石町の高層タワーの最上階にあるイタリアンレストランLだ。東京中で、最も夜景を俯瞰できる感覚が好きなのだそうだ。
ボク達は、食事の後、いつも決まって同じタワーの中にあるホテルで枕を交わした。ボクは、ラブホテルを使うつもりなどこれっぽっちもなかった。二人で過ごす時間を、ただセックスのためだけではなく、特別なものにしたかったからだ。
初めて寝た時に比べて、清夏はどんどん大胆になっていった。初対面の時の清楚な印象からは、まるで別人のように変わった。自分から積極的にボクの身体を愛撫し、柔らかな舌でボクを包み込み、激しく動かした。一つになる時も、自ら上になり、貪欲にボクを求めた。化身とは、まさにこういうことを言うのだろう。
そんな清夏の変化は、ボク達の関係の深化に他ならなかったし、清夏の妖しい肢体を独占できることは、ボクにとって至高の歓びだった。
 

ボク達は、クリスマスイブに一泊二日で京都に出かけた。清夏が「勇輝さんが一年過ごした京都の街を、森見登美彦の世界を見てみたいの」と言ったのがきっかけだった。清夏がクリスマスイブを望んだわけではなく、むしろボクの方がそうしたかった。しかし、妻帯者がクリスマスイブに家を空けるなど、普通はありえない。それでもボクは、クリスマスイブに清夏と特別な時間を共にしたかった。さて、恵美にはどう説明したものか。
恵美には、大学の同期五人との集まりだと伝えた。海外から五年ぶりに一時帰国して実家の京都に滞在している友人の歓迎会なのだが、その友人の都合がつくのがクリスマスイブしかないのだと説明して許しを乞うた。ボクは、本当に五年ぶりに帰国した友人を含めた五人に口裏を合わせてもらうという周到さも忘れなかった。
ボクは、また嘘をついた。
 

ボク達は早朝に東京駅で待ち合わせ、新幹線に乗って京都に向かった。
清夏からは、オードパルファムの香りはしなかった。清夏の配慮を知って、ボクは安堵した。もちろん、ボクも指輪ははめなかった。家を出てすぐに外し、財布の中にしまっておいた。
新幹線の中で、ボクは、清夏にささやかなクリスマスプレゼントを渡した。ブライドルレザー製のブックカバーだ。色はどうしようかと迷ったのだが、清夏がワインレッドの財布を持っていたので、その色に揃えることにした。内側にはSKの刻印を入れてもらった。
「わあ、嬉しい!こういうのが欲しかったんだ。どうしてこの色が好きだって分かったの?」
「財布の色に合わせただけだよ」
「ちゃんと見ていてくれたんだね。ありがとう!でも、ごめんなさい。私、何も用意していなくて…」
「ボクがそうしたいだけなんだ。気にする必要はないよ」
清夏の意図は分かっていた。自分との仲を恵美に悟られないように気遣ったに違いない。清夏には、この時点ではまだ、ボク達の関係が不倫だという分別はあったのだろう。
清夏は、音楽プレーヤーにイヤフォンを繋ぎ、片方の耳で聴いていた。
「誰の曲を聴いているの?」とボクが尋ねると、「西野カナだよ」と答えながら、もう片方のイヤフォンをボクの耳に挿した。
「精一杯の想いを全部、今すぐ伝えたいの。でも傷つきたくない、嫌われたくない、でも誰かに取られたくもない」という歌詞が聞こえてきた。
清夏はにっこりと笑って、ボクを見つめた。
 

京都に着いたボク達は、バスに乗って四条河原町に行き、『夜は短し歩けよ乙女』の最初に登場する四条木屋町の交差点から髙瀬川に沿って三条まで歩いた。途中、浪人生時代によく通ったTラーメンでお昼ご飯にした。
清夏は、ボクが住んでいた寮からS予備校までの通学路を歩いてみたいと言った。
ボク達は、河原町三条からバスに乗って百万遍に行った。そこは、森見作品に頻繁に出てくる場所でもある。そこからS予備校のある堀川丸太町までのんびりと歩いた。
道中、鴨川と高野川が合流する賀茂大橋の真ん中で、清夏が「ここが勇輝が一年間過ごした街なんだね」と呟いた。
「その景色を一緒に見られるなんて嬉しい」
ボクは相好を崩した。
さすがに歩き疲れたボク達は、投宿することにした。バスを乗り継いで大原まで行った。バスの中では、ボク達の手はずっと握られていた。
「なんか、遠足みたいで、いいね」
ボク達の気持ちは一つだった。
ボクは、個室露天風呂付きの純和風旅館を予約しておいた。ボクは、清夏と二人だけの贅沢な時間を過ごせる環境を整えたのだ。
ボク達は、寝食を忘れて抱き合った。互いの身体を貪るように求めあった。汗をかくと、個室露天風呂に浸かり、肌を重ね、一つになった。水面が激しく波打った。
クリスマスイブに家を空けている背徳感が、よりいっそうボクを昂らせた。この時間が永遠に続けばいいのにと願った。
翌日は、十二時にレイトチェックアウトし、バスを乗り継いで北白川に行き、浪人生時代によく通ったTラーメンで小腹を満たした。清夏が、「ラーメンばっかり」と笑うので、ボクは「浪人生は貧乏なんだよ」と言って苦笑で応えた。
その後、『新釈 走れメロス』にも登場する哲学の道を歩いた。禅林寺と南禅寺を訪れた後に湯豆腐を食べ、ボク達の京都でのクリスマスは終わった。
帰りの新幹線の中で、清夏はボクと手をつなぎ、肩に寄りかかって眠っていた。ボクは、清夏と過ごした二日間に思いを馳せると、喜びと興奮でとても眠ることはできなかった。
ただ、眠ることができない理由は他にもあった。現実的な問題、つまりお金だ。こんなに贅沢にお金を使い続けるのは、正直なところ、かなりの負担だった。清夏は自分の分を払おうとするのだが、「年下の子に支払わせるのは、自らの所作として美しくない」とボクが固辞し続けてきたこともその一因だ。それでも、清夏の喜ぶ顔を見続けたいがために、ボクは、京都に来る前、恵美に内緒でいくつかの株を売却していた。
京都から帰宅したボクを迎えた恵美は、いつもと変わらぬ調子で声をかけてきたものの、その眉間にはやはり深い皺が刻まれていた。

第七章 事端 に続く

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