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▼ 最終回 『雷鳴~長い長いトンネルの出口で見えたもの~』
- ジャンル:日記/一般
- (小説)
終章 雷鳴
1
人事課の動きは早かった。メールの一件があってから一週間後、ボクは、異動になった。
オフィスに置いてある私物をまとめようとロッカーを開けると、ワインレッドのブックカバーが無造作に置かれていた。清夏から完全に引導を渡された形だ。
不用意にも、清夏からもらったネクタイも置きっ放しにしていた。こんなことになってもなお、ボクはそれらを捨てられなかった。
清水課長が「庇えなくて申し訳ない」と声をかけてくれた。それだけで十分ありがたかった。
「課長、もう私を庇わないでください。課長に迷惑がかかります。今まで本当にありがとうございました」
ボクは、かろうじて、この一言を言えるだけの社会人としての礼儀を維持していた。
2
新しい肩書は「史料編纂室長」だ。ありもしない仕事をする仕事だ。左遷よりもたちが悪い。兵糧攻めで社員を追い込み、退職願を書かせるのだ。
前の課で針の筵に座らされているよりは気が楽だったが、それもはじめの三日だけだった。清夏との思い出が詰まった森見登美彦の小説を読もうとしたが、目は文字を追っていても、頭には全く入ってこなかった。いつまでも同じページを眺めているだけだった。
それでも、ボクは、会社を辞めるつもりはなかった。ボクが辞めれば、「ボクが加害者で、清夏が被害者である」という関係性を、他ならぬボク自身が固定することになる。ボク達の蜜月期を想えば、それは耐え難い苦しみだった。
3
史料編纂室に来てから一年が経った頃だった。我ながらよく辞めないでいられたものだと思っていたボクのところに、清水課長からメールが届いた。
あんなことがあったにもかかわらず、今でもボクのことを気にかけてくれていた。
清夏が結婚退職したという知らせだった。相手は大西氏だった。ある程度予想できた結果とはいえ、その衝撃はあまりにも大き過ぎた。
稲妻が光り、空気を切り裂き、大地が泣いた。雷鳴がボクの身体を撃ち抜いた。ボクは、その音に怯え、恐怖におののき、身を屈め、ただただじっとするしかなかった。
ボクは、退社するときに、捨てられずにいたブックカバーとネクタイをロッカーから取り出して紙袋に入れた。
タクシーに乗り、運転手に行先を告げようとしたとき、一瞬、明石町が頭をよぎったが、やはり、新橋のDホテルに向かうことにした。ボクと清夏が初めて結ばれた場所だからだ。
エレベーターに乗って二十一階のバーに行き、あの時と同じ席に座り、あの時と同じラガブーリンのロックを注文した。
ボクは目を閉じた。清夏と過ごした光景が次々と浮かんでは消えていった。
ふと、あのときのEXILEの曲が頭をよぎった。
「どんな暗い闇の中でも、明けない夜はないと信じて、未来のため何かを感じてる」
今のボクには、何も信じられなかった。何も感じられなかった。ボクには、はじめから明るく確かな未来など来ていなかったのかもしれなかった。ボクは、出口の光が全く見えない、長い長いトンネルに入り込んでしまったような感覚に襲われていた。
ボクは目を開けると、スマートフォンを取り出し、ずっと消せないでいた清夏と交わしたLINEのやり取りを消去した。そして、ウェイターを呼び、紙袋を手渡した。
「悪いが、これを捨てておいてくれないか」
「かしこまりました」
ウェイターが辞した後、ボクは、大きくため息をつき、ラガブーリンを一気に煽り、ずっとやめていた煙草に火を点けた。
参考文献
森見登美彦『太陽の塔』新潮文庫
同『夜は短し歩けよ乙女』角川文庫
同『新釈 走れメロス 他四篇』祥伝社文庫
山本文緒『恋愛中毒』角川文庫
引用楽曲
EXILE 『RISING SUN』
西野カナ『go for it!』
郷ひろみ『よろしく哀愁』
1
人事課の動きは早かった。メールの一件があってから一週間後、ボクは、異動になった。
オフィスに置いてある私物をまとめようとロッカーを開けると、ワインレッドのブックカバーが無造作に置かれていた。清夏から完全に引導を渡された形だ。
不用意にも、清夏からもらったネクタイも置きっ放しにしていた。こんなことになってもなお、ボクはそれらを捨てられなかった。
清水課長が「庇えなくて申し訳ない」と声をかけてくれた。それだけで十分ありがたかった。
「課長、もう私を庇わないでください。課長に迷惑がかかります。今まで本当にありがとうございました」
ボクは、かろうじて、この一言を言えるだけの社会人としての礼儀を維持していた。
2
新しい肩書は「史料編纂室長」だ。ありもしない仕事をする仕事だ。左遷よりもたちが悪い。兵糧攻めで社員を追い込み、退職願を書かせるのだ。
前の課で針の筵に座らされているよりは気が楽だったが、それもはじめの三日だけだった。清夏との思い出が詰まった森見登美彦の小説を読もうとしたが、目は文字を追っていても、頭には全く入ってこなかった。いつまでも同じページを眺めているだけだった。
それでも、ボクは、会社を辞めるつもりはなかった。ボクが辞めれば、「ボクが加害者で、清夏が被害者である」という関係性を、他ならぬボク自身が固定することになる。ボク達の蜜月期を想えば、それは耐え難い苦しみだった。
3
史料編纂室に来てから一年が経った頃だった。我ながらよく辞めないでいられたものだと思っていたボクのところに、清水課長からメールが届いた。
あんなことがあったにもかかわらず、今でもボクのことを気にかけてくれていた。
清夏が結婚退職したという知らせだった。相手は大西氏だった。ある程度予想できた結果とはいえ、その衝撃はあまりにも大き過ぎた。
稲妻が光り、空気を切り裂き、大地が泣いた。雷鳴がボクの身体を撃ち抜いた。ボクは、その音に怯え、恐怖におののき、身を屈め、ただただじっとするしかなかった。
ボクは、退社するときに、捨てられずにいたブックカバーとネクタイをロッカーから取り出して紙袋に入れた。
タクシーに乗り、運転手に行先を告げようとしたとき、一瞬、明石町が頭をよぎったが、やはり、新橋のDホテルに向かうことにした。ボクと清夏が初めて結ばれた場所だからだ。
エレベーターに乗って二十一階のバーに行き、あの時と同じ席に座り、あの時と同じラガブーリンのロックを注文した。
ボクは目を閉じた。清夏と過ごした光景が次々と浮かんでは消えていった。
ふと、あのときのEXILEの曲が頭をよぎった。
「どんな暗い闇の中でも、明けない夜はないと信じて、未来のため何かを感じてる」
今のボクには、何も信じられなかった。何も感じられなかった。ボクには、はじめから明るく確かな未来など来ていなかったのかもしれなかった。ボクは、出口の光が全く見えない、長い長いトンネルに入り込んでしまったような感覚に襲われていた。
ボクは目を開けると、スマートフォンを取り出し、ずっと消せないでいた清夏と交わしたLINEのやり取りを消去した。そして、ウェイターを呼び、紙袋を手渡した。
「悪いが、これを捨てておいてくれないか」
「かしこまりました」
ウェイターが辞した後、ボクは、大きくため息をつき、ラガブーリンを一気に煽り、ずっとやめていた煙草に火を点けた。
参考文献
森見登美彦『太陽の塔』新潮文庫
同『夜は短し歩けよ乙女』角川文庫
同『新釈 走れメロス 他四篇』祥伝社文庫
山本文緒『恋愛中毒』角川文庫
引用楽曲
EXILE 『RISING SUN』
西野カナ『go for it!』
郷ひろみ『よろしく哀愁』
- 2019年10月16日
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