難しいよね

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例え(パターンA) 主人公 夫
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 誰もいない自宅へ戻ると、部屋に散乱した洋服をかき集めた。そして洗濯機を回しながら、夕餉の支度を始めた。些細な言い争いから、妻が家事を拒否して久しい。最近は争うこともなくなったが、話し合うこともない。妻が家事をしないのだから、私がするしかないわけで…、とにかく今の状況を打開方法を考えなければならなかった。
 そうこうしていると、妻が仕事から帰ってきた。
 妻は何も言わず冷蔵庫を開けると缶ビールを取り出し、そのままソファーにどさりと腰掛けた。そして私が料理する音が煩いとばかりに、テレビのボリュームを上げた。
 妻はグビグビと喉を鳴らしながら、テレビを見て大口で笑っている。
 夕食ができると、妻はそれを満足そうに平らげ、そそくさと一人風呂へと向かった。私は食い散らかされた食卓テーブルの上を片付け、流しへと汚れた皿を運んだ。
 蛇口を捻り、洗い物を片付けようとしていた時、風呂から妻の絶叫が聞こえた。
  「熱い! 水を出さないでよ」
 私は急いで水を止め、キッチンにある椅子に腰をおろした。換気扇のスイッチを入れると、煙草に火をつけ、煙を吐きながら溜息をついた。


 いつまでこんな生活が続くのだろうか…別れた方がよいのだろうか。


 妻がバスタオル一枚かけて風呂から上がってきた。私は細々したことをやっと終えると、妻の隣に座った。そして、労るように妻の膝の上に手を置き、なるべく柔和な顔をつくった。
 話し合わなければ、そして理解し合わなければ…。このままではダメなことは判っている。
 ところが妻は、開口一番「はやく風呂に入っておいでよ」と私の口を塞いだ。私は頷き、黙って風呂へと向かう。 
 風呂から上がって来ると、リビングに妻の姿はなかった。すでに寝室で毛布に包まりコトリとも動かない。顔を覗き込むと、すでに寝息を立てていた。やむなく私も横になり、発展のない一日が終わった。
 翌朝、私は部屋中のゴミをかき集め、玄関先においた。
 「いってきます」
 妻はそう言うと、先に出掛けてしまった。
 私の一日はまたゴミ出しと共に始まった。

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例え(パターンB)主人公 妻
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 自宅へ戻ると、ベランダで洗濯物が瞬いている。また私のブランド物のブラウスを洗濯機でグルグル回したのだろう。しかし、それを言ってしまえば、口汚く争うことになるだけであることが判っていたので、グッと堪えた。
 「ただいま」
 私は小さく言うが、キッチンにいる夫は眉間に皺を寄せブツブツと何か考え事をしているようだった。私の料理に幾一文句を付け、自分で料理を作ると言い出したくせに、結局、それが不満なようである。
 私が、そっと冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、夫の聞こえみよがしな溜息が聞こえた。私はソファーに腰掛けテレビのボリュームを上げた。もう一度、夫の溜息を聞いたら、この家から飛び出してしまいそうだったからである。
 辛気臭い空気をフッ飛ばそうと、面白くもないバラエティの笑い声に合わせて、私も笑った。
 昨日と同じような、たっぷりの醤油と化学調味料塗れの料理が食卓に並んだ。夫の顔を盗み見ると、眉間に皺を寄せ、また何か考え事をしているようだ。会話のない狭いリビングに、テレビの音だけが響く。
 窮屈な食事が終わると、私はすぐに風呂へと逃げ込んだ。この家で安らぐことが出来るのは風呂とトイレだけであった。
 その時、シャワーから流れるお湯が急に熱湯に変わった。
 「熱い! 水を出さないでよ」
 私は思わず叫んだ。夫は3日に一回はこれを繰り返す。ワザとしているとしか思えない。私に熱湯がかかり、いい気味だとでも思っているのだろう。シャワーから出る水を口いっぱいに頬張ると、それを吐き出すのに合わせて溜息をついた。


 いつまでこんな生活が続くのだろうか…別れた方がよいのだろうか。


 風呂から上がると暇を持て余した夫が擦り寄ってきた。周囲に汗臭さが立ち込める。私の太ももに手を起き摩り始めた。夫は口元だけで嫌らしく笑っていた。今日初めてみる笑顔がこれでは堪らない。 
 「はやく風呂に入っておいでよ」
 私は絶えられずに、そう言った。そして、夫が風呂から上がってくる前に寝室へ向かった。別にまだ眠たいわけじゃない。読みたい本もあるし、したいことも山ほどある。しかし起きていれば、夫に体を求められるかもしれないという嫌悪が付きまとう。都合のいい時ばかり求められても、体は反応しない。
 風呂上りの夫は私を探しているようだった。寝室を覗いて、私が眠っているのを確かめると、やっと諦めたのか、夫も寝てしまった。 
 翌朝、玄関前には、これ見よがしに大量のゴミが置いてあった。どうすればこんなにゴミを生産することが出来るのか、理解に苦しむ。持ち上げてみようかと思ったが、到底、私に運べるような質量重量ではなかった。
 「いってきます」
 私はそれだけ言うと、家を出た。
 また夕方、ここに帰ってくるのかと思うと、憂鬱な気分になる。

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 上記したパターンA,Bは、主人公が違うだけで、全くおなじシチュエーションである。が、読む人に与える印象はまるで違うものになると思う。
 実際、釣人の間もこうなんだろうな。リリースか持ち帰りか、またゴミの問題にしても、はたまた橋の上から釣りにしても、皆が皆、自分が間違っているとは思っていないだろうからね。
 さて、どこをどうやって歩み寄って、未来の釣人が幸せでいられるフィールドを築いていくのか? ホント難しいね。


 

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