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辛抱治郎さんのヨット遭難の件-②

  • ジャンル:日記/一般
次に沈没の原因ですが、どうやらクジラに激突したのが有力です。
私も何度かクジラに当ったことがあります。
実は2002年のレースの時に南氷洋でクジラの背中にヨットが乗りあげたことがあります。
その時、クジラが暴れて僕の右舷側ラダーを半分折りました。
幸い船体にダメージは無くそのままレースを続けましたが、ヨットとクジラの激突はまれにあります。その時のトラブルで多いのはキールにダメージを」受ける、ラダーを折られるなどのケースが多いです。エオラス号はロングキールなのでキールが障害物によってダメージを受けるリスクは非常に少ないです。おそらくクジラの浮上のタイミングとエオラス号が波よって下がるタイミングが合い、大きな衝撃になったと思います。こればかりは予測は大変難しいです。クジラは水中から浮上します。いくら見張りをしていても見えない場合が殆どです。ヨットは他の船舶と違いエンジン音がしないないので双方気が付きにくいです。当たり所が悪く船体に損傷が起きて浸水したと思われます。
この時の対処は適切なものと考えます。まずヒロさんが音によって浸水を感じます。さすがヒロさん。私たちより感覚が鋭いのでしょう。そして、あっという間に床まで浸水したそうです。この船にはビルジ(船に入ってきた水、水垢)だまりと言って、多少の水漏れはそれをためるタンクを備えております。通常は適度に排出をしていますが、そのビルジだまりの容量を超えて床下まで浸水がありましたので、相当な量の浸水だったと思います。浸水の場所を探したそうですが、それより浸水のスピードが速く船の放棄を決めたようです。
ブラインドのヒロさんを2~3mの波の中、安全にライフラフに乗せるのには通常より時間がかかります。前に述べたように、この航海で一番危険な作業だったと思います。
以上のことを考えますと、総員怪我なく無事に脱出できたことは素晴らしいことです。

次に救助に関するものです。海では救助を求める者(SOSを出したもの)を認識した者は最優先で助けなければなりません(自分の身に危険性があるものは除く)。
これは国際法や日本の法律論の前にシーマンシップとして当然なことです。
その時に、遭難者の国籍、性別、肌の色、思想などに区別はありません。
目の前にいる遭難者を助けられる者が全力もって助けます。
私もレース途中に仲間がキールを痛め航行不能になった時レースをいったん放棄して救助に向かった経験があります。世界のセーラーはみんな同じです。確かにレース中ですのでライバルではありますが、遭難者に対しては全力もって救出に向かいます。
お互いに出港までの大変さや海の厳しさを知っております。何より明日は我が身です。
今回、海上自衛隊は見事にその任務を果たされました。
厚木基地に不時着した時のUS-2をご覧になりましたか?
右舷側、内側のプロペラが止まっていました。
おそらく海上着水時に海水が入り1発エンジンがダメになったのでしょう。
たった3発で荒れる海の波のタイミングをはかり離水し、見事厚木基地に戻って遭難者を家族のもとに返しました。キャプテンの腕、クルーの動きは日頃の錬度の高さです。
その陰で忘れてはならないものがあります。もしUS-2が下りられない場合に備えて近隣の船が救助に向かい、海上保安庁が現場に急行していました。彼らは表立って称賛されませんが敬意を表します。同じシーマンとして素晴らしいと思いました。
日本は海に囲まれています。日本は99.8%が船の輸送によって資材が運ばれてきます。
そして、日本で加工して99.8%が船によって海外に輸出されます。日本の燃料は100%海上輸送です。今の日本は船によって成り立っていると言っても過言ではないでしょう。海の安全は日本国にとって、日本人の生活にとってこれほど重要なのです。その安全を日頃の訓練によって支えられている方々に改めて敬意を表します。
救助を求める者を差別すべきではありません。
商業活動が最優先で遭難者を助ける国などになってほしくありません。
それを望む国民にもなってほしくないのです。
損得勘定で救助をしていたら、日本は世界から信頼を失い、誰も日本へ安心して来てはくれませんよね。
何よりヒロさん、辛坊さんが無事に家族のもとに帰れたのは本当に良かったです。出向前にヒロさんの奥様やお子様ともお会いしました。
本当に良かったですね。

最後に、ずいぶんと生意気を書かせていただきましたが、私は今まで何度も失敗をしてご迷惑をかけてきました。僕も初めて世界一周を目指したとき、2度連続で失敗しております。準備がどれほど大変であったか、資金集めがどれほど大変であったか、どれほど長い時間この時のために耐えてきたか。どれほどのプレッシャーだったか。
今、ヒロさんがどなん気持ちか、察するに余りあるのです。
私が2度の失敗からいよいよ三度目の出港を迎えたときのことです。
僕は次に失敗したら生きて帰ってくる自信はありませんでした。
そんな僕を見て親方はこう言います。
「康ちゃん、生きていれば、生きてさえいれば何度でもチャレンジできるんだぞ」と、
またヒロさんがもう一度夢に挑戦しよう。もう一度太平洋を渡ってみようと思ったとき。
私は喜んで応援します。
「国を亡ぼすには、若者たちに危ないことはするな、おとなしくしていなさいと教え込むほど簡単なことはない」フランス作家の言葉だそうです。

私は日本の皆さんに願います。これから挑戦する人も、応援する人も、見守る人も
「海より深い愛情と、富士山より高い志と、日本刀の下に心を置くほどの忍耐」を持って
行くべきではないでしょうか。

 

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