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妥協の味

  • ジャンル:書籍・雑誌
  • (読書)
乃南アサ『幸福な朝食』読了。

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女優になって「光」を浴びる人生を歩むことを夢見て上京した主人公・志穂子であるが,容姿が酷似しているマリ子が,少し早くデビューしただけの理由で,アイドル・女優として活躍している事実に打ちのめされ,同じ芸能界でも人形劇の人形使いという「陰」の世界で生きていくことを選択する。

本作のポイントは以下の二箇所に集約されています。

「志穂子の中で,何かが壊れたような気がした。生まれて初めて味わう,妥協の味だった。諦めという言葉がこんなにも実感として志穂子の中に広がったのは初めてのことだった。冷やかな,湿った空気が心を充たしていく。静かで,悲しい,安定した気持だった」

「あれはかつての志穂子の姿だった。全て,流れ去った時の中での事実だった。馬鹿だったのだ。自分で自分の一番大切なものをことごとく破壊して,その上でそれらの存在を待ち望んでいた。ああ,もう取りかえしはつかない。ーーー馬鹿だった。本当に」

後半から,志穂子が妄想(と思われる)世界に入り込むところに唐突感が否めませんが,最終章を読めば,その美しい構成に気付くはずです。

総合評価 ★★★★★(★4つ半)

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