弱き心

台風の影響で風が強い日が続いている

天気予報では荒れる予報であったが、実際の海はそこまで荒れておらず、安全に釣りが出来る状況だ

この日も、よし君と共に磯へ向かった

乗った磯には2人の先行者がおり、一言声をかけてから邪魔にならない端に入れてもらった

まずはヒラスズキ狙いでサラシや磯際をミノーで探る

すると開始10分ほどで足元から5mほどでゴッとバイト

フッキングするが、伝わるファイトは弱弱しく、すぐに抜き上げてランディングした

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画像だと大きく見えるが、実際はかわいいヒラセイゴだった

すぐにリリースし、辺りが薄明るくなってきたのでヒラマサ狙いにシフトする


まずは表層をトップで探り、反応が無ければジグに変えてアプローチ

前回のヒットパターンだった、ジグをフワフワとスローにアクションさせる動きも試した

それでも、ヒラマサからのコンタクトはなく、先行者の1バラシのみであった

その後はよし君と別れ、車内で仮眠を取り、この日休日だった僕は別の磯へ向かうことにした


向かった先はここの所好調だと言われる磯

時刻は9時をまわっているが、4~5人がロッドを振っていた

帰り際のアングラーを捕まえ、状況を聞いてみると、1バラシあったそうだ

ヒラマサをキャッチしたアングラーも居たそうで、俄然やる気になる


入りやすいポイントには先行者がいるので、離れ磯へ泳いで渡る

まず1ヵ所目のポイントへ泳いで渡り、周辺を探るが反応無し

次に2ヶ所目のポイントへ泳ぐ、ここは以前昼頃入ってヒラマサを上げた場所だ

沖目にダイビングペンシルをフルキャストするが反応無し

次に3ヶ所目のポイントへ

ここは少し奥詰まり、スリットになっている場所で、沖の磯に波が砕けてサラシが広がっていた

もしかしたらヒラスズキが出るかもと、ミノーにチェンジする

サラシの広がるタイミングでミノーを送り込む

するとサラシの中でドンッと来た

すかさずフッキングすると確かな重量感

エラ洗いさせないようにロッドを下げ、素早くランディング位置へ移動する

サイズも悪くなく、良いファイトを魅せてくれるが、ヒラスズキにしてはどうも走り過ぎるような気がした

魚までもう少しという所まで寄せ、海面を覗くと青白く光る魚体

掛かった魚はヒラスズキではなくヒラマサであった

まさかあんな所で食ってくるとは思わず、ヒラマサのヒットに体が竦んだ

ルアーはヒラスズキ仕様のミノー

それでもフックは青物に対応出来るようにヘビークラスに変えてはいるが、ヒラマサ仕様のフックよりも弱いものだった

その弱気な心を感じ取ったのか、ヒラマサは足元へ猛然と突っ込んだ

普段であれば、ラインを出さずにロッドでためることが出来るが、フックの弱さが脳裏をよぎった

この場面ではラインを出すことはそれだけ根に巻かれるリスクが大きくなる

それでもフックの弱さ故、ラインを手ドラグで出してしまった

その長さおよそ1mほど

ロッドは弧を描いたまま静止した

足元には海藻と共に揺らめく青白い魚体

フックを伸ばされるのを恐れるあまり、根に巻かれてしまった

ロッドを煽ったり、ラインを引っ張るが全く外れない

そうこうしている内にラインが切れた

それでもまだ魚はルアーに海藻に絡まった状態で海中で煌めいていた

その距離およそ3m

このままこの魚を見捨て、すぐにルアーをキャストすればおそらくまだ釣れるだろう

ラインはルアーの接続部分で切れていたのでリーダーも結ばなくて済む

どうせ釣れてもリリースする魚だ。特別あの魚が欲しいわけではない

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それでも僕は、ライフジャケットを脱ぎ、片手にナイフを握りしめた

呼吸を整え、波を見計らって潜ってみるが、ウエットスーツの浮力が強すぎて上手く潜れない

水温も冷たく、呼吸が乱れる

潮位も上がり、波に呑まれそうになる

それでも何度も何度もあの魚まで潜ろうとする


何故あの魚のみをこれほどまでに欲するのか

あのまま魚を見殺しに出来ないとか

そんな偽善に満ちた理由じゃなく

恐らくあの魚に「負けたくない」のだろう

魚をこの手で掴むまでが釣りだと思っている

形がどうであれ、あの魚さえ掴めればこの釣りは完結する

だから、あの魚を手にするまではこの釣りは終われない

もうどれだけ時間が経ったか

何十回とトライした果てに、魚は姿を消した

この瞬間。僕の負けが決まった

誰も居なくなった磯で1人悔しさを噛み殺した

海水が目に染みるのも

コンタクトが外れて視界が良く見えず、躓いて転ぶ痛みよりも

何よりも辛い痛みが僕を支配していた

僕はこのヒラマサとの勝負、そして己の弱さに負けたのだ


なんの為のヘビークラスのフックだったのだろう

3フック仕様のルアーを、大型太軸のフックに変えても泳ぐように2フック仕様に変えたのはなんだったのだろう

青物などの大型魚にも耐えれるように、普通のヒラスズキタックルより3ランク強いタックルを使ったのはなんだったんだろう

磯に立つと、時々弱い自分が出て来てしまう

そんな弱い自分が出てこないように、不安材料を残さないよう準備していたはずなのに

もうこんな感情はこりごりだ

弱き心は、磯には必要ない


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帰り道に出くわした鹿

今日の僕を馬鹿にしてくれていいんだぜ

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