ちょっと恐い話


それは、凄腕大会最終日のこと。

のこり釣行可能時間1時間。

夕まずめを過ぎ、辺りは闇の静けさに包まれた時だった。
河口の干潟の真っ只中に、俺ひとり。

ただ、大物を狙って回遊待ちに焦点を当てて、神経をすり減らしリトリーブしていた。

500mほど上流には橋が見える。

なんだか、パトカーが一台二台と、赤く点灯している。

何度も言うが、今日は凄腕最終日。
ここで一本でかいのが来れば、エリア上位もあり得る。この1時間が、大会期間中やく1ヶ月の明暗を分ける、いわゆる山場なのだ。

パトカーなど、気にも留めないで釣りをする。

いや、しかし気づけば上流の橋には、パトカーが一台、二台どころではない。
10台近くあるのではないだろうか？
はしの外灯より、もはやパトカーの赤く光る回転灯の方が明るい。

何事だろうか？
事故か？
事故でこんなにもパトカーが来るだろうか？
これは、事件でも…
いやいや、そんな事を考えている暇などない。

おれは上流の橋を遠目で見ながらそんな事を考えていた。

魚からの反応は薄い。

のこり40分。

そろそろ何か反応が欲しい。

上流の橋のパトカーは気が散るので見て見ぬ振りを決め込み黙々とキャスト。している時であった。
あたりがふっと明るくなった。

はるか後方の漁港からライトで俺を照らしているモノがある。
車のライトか？
いや、後方の対岸までの距離は相当ある。
この距離で周りが明るくなるという事は、車のライトどころではない光量が必要だ。

まさかサーチライトで照らされてる？？


警察が上流の橋にいる。

後方からはサーチライト。

前も後ろも包囲されているではないか。

なにが、始まるというのか


リトリーブする手が流石に止まった

冷静ではない頭を、今一度整理したいが全く状況がわからない。
混乱していた。

そうそうしていると、パトカーから人影がこちらに近づいてくる。
みなハンドライトを持っている。

1人、二人、3人…8にん。。
俺はライトでその集団に合図を送ると、
その8つのライトを俺に向け小走りでこっちに向かってきている様に見えた。
やはり、干潟に潜んでいる俺に向かってきているのだろうか？

おれ、、、、なにか重大なことをやってしまったのか……

ここまで大掛かりな捜査。

もはや、世間の方には取り返しもつかない過ちを犯してしまっていたとしか思えない。

家族のみんな…ごめん
会社の皆様…ごめんなさい

ああ、飼い猫のミー助…なんとか家から逃げてどこの馬の骨ともわからん人の元で暮らすがいいさ

何度も、何度もいうが、釣行可能時間のこり30分間。
この30分に今大会の全てをかけている。
が、今回ばかりは観念した。
もはや釣りどころではない。

おれはあの集団にいってなにが起きてるか確かめるとしたい。

おれは釣り場に背を向け、陸へ産卵を迎えるウミガメの様に帰っていった。

陸には待ち受けた人たちが、おれが来るのを待っていた。


？？？『こんばんは〜。釣り人の方ですか？』

おれ『こんばんは。はい、そうです。』

少し沈黙がつづいた。
おれは恐くなって自分から切り出した

おれ『なにがあってるんですか？

消防『驚かせてすみません。行方不明者をさがしています。なにか、釣りされてる時見ませんでしたか？

やっと、状況を理解できた。
事情聴取されて、おれの問題じゃなかったんだと
ほっとして気が休まったのも束の間、事情を話してる間にも、だれの物かもわからない靴が僕らの前に流されてきた。
彼らはその靴を回収して、俺の事など無視するかの様にどんどん下流へと捜索網を狭めていった。


サーチライトで照らされるなんで経験これから先何度あることだろうか。

そんなことよりも、
人多くの人達が必死でうごいて探されるんだと。
そして自分の帰りを待っている人が、普段気づかないだけで沢山いる事に気付かされた釣行だった。

探されてる方の安否は大丈夫だろうか。

ただの一釣り人としては、あまりに無力である。

いつ、探す側から探される側にいくかもわからない。
安全装備の充実。天候の動向チェック。体調管理。危機管理能力。
安全の確保は最低限のマナー。

釣り場では、ゴミと命は捨ててはいけない。
捨てるのは雑念と
持ち帰るのは魚と感謝にしたい。


考えさせられる、貴重な釣行となった。

行方不明の方が無事なことを祈ります。