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上宮則幸

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ある老釣り師の話し

  • ジャンル:日記/一般
今日の夕方、親父が自宅でちょいと怪我をして、病院で治療を受けた。
鉄筋が掌を貫通して救急車を呼んだらしい。
鉄筋を切断する必要があったため、救急車だけでは手に負えず、レスキュー隊まで出動して
普段静かな田舎の集落が一時物々しい雰囲気に包まれたとか。

救急隊から連絡を受けて搬送先に向かったおれは怪我の状況を見て、なぁんだ大したことないなと消毒液の臭いが充満した病院を抜け出して駐車場で処置が済むのを待った。

不注意による事故。
親父は今年74歳。
もう立派なお爺ちゃんだ。
ちょっとした事が命取りになる…




一昨日、久しぶりに帰省してきた弟に会いにおれも実家に寄った。
既に帰っていた弟一家が床の間で親父を取り囲んで何かを見てる。
親父が自慢の釣り道具を引っ張り出して孫(おれから見たら甥っ子)に道具の手入れの仕方をレクチャーしているらしい。

親父は器用にドライバーやレンチを操りAbuのAmbassador 7000Cのギアボックスを開けるところだった。

おれの親父は釣り師だ。
「釣り師だった」と言うのが適切かもしれない。
何故ならもう十年近く釣りには行っていない。

この7000Cでカゴの遠投でカンパチや磯の王者石鯛の大物を幾たびも仕留めた。
愛用のオールドAbuをこうしていじくる姿は久しぶりに見た。
孫に各部のパーツの役割や取り扱い方を教えてる。

親父は最近のベイトリールのアンチリバースはワンウェイのローラーベアリングになっている事を知らないから、昔のリールで事の他取り扱いに注意の必要な挟み込み式のアンチリバースの爪の説明に熱がこもる。
クラッチの構造も違う。
当然おれも25年近く前に、今のこの甥っ子ぐらいの年齢(14才)の頃に教わった。
その時には不器用なおれはゲンコツも食らった覚えがある(笑)

甥っ子は中学に上がってから釣りに目覚めて今はブラックバスに夢中だ。
憧れの魚は赤目らしくて、その赤目を何本も仕留めていて110cmを超える鱸まで捕獲しているおれは最高のヒーローで、甥っ子的には村田基とおれはもはや神らしい。
甥っ子は目を輝かせてバラバラに分割されていく7000Cを食い入るように見つめる。

一通りバラしてパーツを洗浄し組み立てなおす時になって、唐突に「則幸がしてみよ」と、おれに作業を投げた。
実は親父の7000Cに触れるのは初めての事で、小僧の頃には触ろうものなら勘当されかねない勢いで叱られた。

おれはまるで自分の愛機であるかのようにその黒とクロームメッキの無骨な7000Cを正確に組み立ててみせた。
親父は満足そうに「じゃがじゃが!」(そうだそうだ!)と頷きながらおれの仕事を見ていた。

親父の7000Cを組んでいる時にひとつ不思議な事があった。
四点式遠心力ブレーキのブレーキブロックが見当たらないのだ。
どうしてか?と親父にたずねると「そいなもんば付けちょっと飛ばんでや」(そんな物付けてたら飛ばないんだよ)と言う。
メカニカルもユルユルでサミング技術だけでカゴ仕掛けを遠投していたと言う。

キャストの技術論の話しを始めると、普段無口な親父は饒舌に語り始めた。
そう言えば親父とこんな話はした事がなかった。
話のついでに調子にのったおれが「このリールおれにくれよ」と言うと「やっせん」(だめだ)と返事。

太い指でその黒とクロームメッキの無骨な7000Cを大切そうに持ち上げ、クラッチレバーを切ったかと思うとすぐにハンドルをまわしてカチリとクラッチを繋ぐ。
そしてハンドルをクルクル…
「こいがおいの釣りよ」と満面の笑顔で言った。



愛すべき老釣り師は磯に立つ事こそもうないが、現役の太公望だった。

親父は老いた。
それでもまだまだ夢の魚を追ってるんだろう。

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