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上宮則幸

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台風の日

  • ジャンル:日記/一般
夜が明けたら台風の暴風雨が待ち構えている。

自宅の周囲のガラクタはとりあえずガレージに放り込んであるから飛ばされる心配はない。
そもそも我が家は谷間の地形に立地しているために、強風の影響を受けにくい。
明日仕事あるんかいな?
相方とみなもは怖がっていないやろか?
実家の両親は?
のんびりと布団の周りに侍る猫族達はいつもと変わらない様子だけど…
とりとめない事が次々脳裏をよぎるがある昔のはなしを思い出して回想に耽った。

あれはおれが中学一年の夏、13歳の時の事。




台風が来るので学校が昼から休校になるという。
自宅に通学自転車で帰る途中に通る錦江湾岸の直線道路は激烈な追い風でペダルをこがなくても猛スピードで走れた。
その直線道路は同級生の悪友達とのレース区間で毎日凌ぎを削っていたが、その日は人生一二のスリルを味わえた。
勝ったか?負けたか?
いや、なぜだかおぼえていないが楽しかった。

興奮覚めやらぬままに自宅に帰りカッパも着たままで迷わず釣り具を鷲掴み近所の野池を目指す!

台風接近、気圧低下!
バスは芦際に浮いているはず。
スピナベで捕るか?フロッグで捕るか?
小さなルアーケースの中にブルーフォックスとスナッグプルーフだけを入れて野池に急ぐ。

自宅の木戸口を左に折れて急な下り坂を下りたら真っ直ぐな田んぼ道に出る。
目的地はその道の行き止まりにある。

目指す野池の名は『大王池』!
地元の訛りで『でおんいけ』と言う。
ソソる名前だろう?
デッカいヌシが潜んでいそうだろう?
その日もヌシを仕留めるつもりでいた。
芦際で、ブルーフォックスのタンデムウイローで。

田んぼ道を中ほどまで走ると、左手の脇道から見慣れた白いバンが走ってくる。
親父だ!
嗚呼!なんて事だ!
「こんな日に釣りになんかいくな!」と怒られるに決まってる。
タイミングの悪さを恨んでいると、案の定親父が険しい顔して車を止めた。

全く予想外に親父はこう言った。
「爺ちゃんが死んだ」




爺ちゃんとは母方の祖父を指す。
まだ74歳。
呆然としているおれに親父は「早く家に帰れ」と告げて走り去った。

信じられない事だった。
つい先日、爺ちゃんの家で元気な爺ちゃんの顔を見たばかりだ。
爺ちゃんの髪をバリカンで丸坊主に刈ってやったばかりだ。
嘘に決まっている。
嘘だ!

その後におれが取った行動とは…

野池の芦際にブルーフォックスタンデムウイローをキャストした。
親父に買ってもらったばかりのミリオネアの遠心力ブレーキは少々気難しかったが、なぜだか初っ端から見事にキャストが決まった。

バスは浮いているはず。
芦際をフォーリングさせずに巻き、表層をトレース。
大王池の水面に小降りの雨粒がひっきりなしに落ちてはいたが、小波一つ立っていない。
その水面直下にブルーフォックスのブレードがハッキリ見えた。
不意にブレードの進む軌道が真横に逸れた。

ヒット!!!

ロッドにズッシリとした重み。
直後に静かな水面が大きく割れてブロンズバックが空中で身を捩らすのが見えた。
ブルーフォックスにはトレーラーフックが装着されているバラすもんか!

夢中で巻いて丸々肥えたビッグバスがおれの足元に横たわった。
その下顎を親指と人差し指で掴んだ。
あんなに肉厚な唇は初めて掴んだ。
生涯初のランカーだった。

岸の濡れた芝の上に優しく置いた。
喘ぐように大きく動くエラブタを見ながら、母ちゃんの裁縫箱からくすねたメジャーを取り出しサイズを測った。

55cm

自己記録を10cm更新!

上顎にガッチリ掛かったブルーフォックスを慎重に取り外して素早くバスを水に浸ける。
嬉しさが込み上げてくる。
不意に涙が零れた。
同時に爺ちゃんの死を悟った。
中学一年にもわかる非合理な考えなんだが、なんとなく爺ちゃんがお別れに釣らせてくれた魚だと思った。

目の前のバスは鰭をユラユラ動かして蘇生が済んでいるのがわかった。

右手を放した。
バスは小さな飛沫をあげて大王の元へ帰った…




泣きながら家路に着いた。
帰宅すると身支度を済ませた親父が待っていた。
親父が聞いた「釣れたか?」
「うん」とだけ答えるのが精一杯だった。
「行っど」





爺ちゃんとお別れをした。
爺ちゃんの頭は綺麗な丸坊主で、親戚みんなが上手に刈れてると誉めてくれた。
そうだ、おれが刈ったんだ。



今でも台風がくると思い出す。
デカい魚と出会ってもそうだ。



爺ちゃんが大好きだった。







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