(北海道5)運命の入り口

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今、酒を喰らいながら最高の記憶を思い出す。

自分が未熟であっても、その時その自分を知ることはできない。
正確には未熟さ加減が分からない。


鮭を釣れない自分がそこにいた。

アタリはあるのだが外道ばかり。
初めは興奮していたものの、事ある毎にアブラメにつつかれているようでは本命には出会えない。

また、アブラメからのコンタクト。
コンコンコン、ではなく、ブルルルルッ、というアタリ。
すかさずロッドを立て、アタリを遠ざける。


レンジが違うのだろうか?
ウキ下を調整しながらキャストを繰り返す。
ウキ下何センチ、どれが正解かは分からない。
ただ不満を遠退ける様にレンジを変えていく。

誰よりも遠くへ。
誰よりもスローに。
ウキを回収する。

その作業の繰り返し。

ウキ下のルアーは流れに揺れて様々な表情をだす。
それに答えるかのように、分からないのだけれど、スピードを変える。


何かがルアーを突く気がした。
ゴロタにも思えるがこのキャスト距離でゴロタに当たるようなウキ下の長さではない。



もう一度同じ場所へ。
着水と同時にスラッグを取り、ラインを張る。
川の払い出しからの抵抗を感じつつ、デッドに巻いてくる。
流水の抵抗が無くなる場所でスピードを気持ち早める。



まただ。

はっきりと場所を確認した。
そこにゴロタは無い。

もしや?

同じ場所にキャスティング。
意識しつつ川の流れをかわす。

本流から離れたら少しだけ早く巻く。
巻く。

やはり。
確実に突いている。
根魚ではない。


鮭は口に入れる前にコンコンコン、と数回突いて持って行くと友人が言っていた。


間違っていない。
コンコンコン、と何度いったか数える。
…しかし持って行くことはない。
待ちきれずに合わせをいれてみる。
外れた。

全くの肩すかし(笑)

多分、おそらく、これが聞いていた鮭のコンタクト。
友人の説明がいかに的を射ていたかの証明。


間違いない。
鮭はいる。
しかも群れだ。


再度のキャスト。
本流をかわし、海側へ。
少しだけ自分で動かすイメージ

来た。

巻きスピードを少しだけ遅くする。
まだ突いている。

流れもあるので止めてみる。
が、不安になって少し巻く。

相変わらず突いてくる。

波に揺らしながら、少しだけ動かすイメージ。

その時はそれが正解なのか不正解なのか、考える余裕もない。
ただ、自分が鮭ならば、と思い操作する。

そのやりとりに神経を使い、どこまで手前に引いてきたかを見失う。
デッドに、スローに。

ゆっくり巻き込んでいくと少しだけ抵抗が増えた。
…既に突いてはいない。

反射的にロッドを立てる。

重い。

もう一度意識して、今度は大きくアワセを入れた。

跳ねた。

立ち込んでいる自分の位置から40メートル程の沖。
完全に食っている。

自分の立ち位置を確認し、20メートル以上立ち込んでいることに気がつく。
足場は慣れないゴロタ。

ロッドをしならせながらも後退していく。
気がつけばほぼゴリ巻き。
不安になってテンションの調整。
そして後ずさり。

かなり沖で掛けたと思っていたにも関わらず、気がつけば数メートル程の距離。
陸まではまだ10メートル近くある。

迷ったがライトを点けた。
目の前に引き波の長い影が見える。
それは一瞬ウミヘビの影にも見えた。
よく見るとその影の下に魚体が見える。

魚の頭が陸に向いていることを確認し、自分の立ち位置も確認する。
波打ち際の河口側は離れれば離れる程に波による段差がある。
スロープになっている場所は、川の流れと波が交差する場所。

自分の立ち位置とロッドを調整しつつ、スロープ状の場所に一気に引きずり揚げる。

揚がった!
鮭だ!

次の瞬間、鮭の堅い口からフックが外れた。
朝マズメに友人にも起こった出来事だ。

鮭がバタバタと激しく暴れる。
鮭は転がるようにスロープの先にある河口に落ちていく。


そこからは全てがスローモーションだった。
鮭はなぜに自分が川にいるかは分かっていなかった。
俺は躊躇無く、川に飛び込んだ。
飛び込んでいくなかで、鮭が反転して翻るのを眺めるしかなかった。


叫んだ。

本当に、心から叫んだ。

ロッドは気がつけば波打ち際に投げ捨てられていた。

もう一度叫んだ。

叫ぶことができた。


大人になって、遊びの中で叫ぶことができた。

幸せだった。

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