(北海道4)海と川の狭間で

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リールの巻きが早すぎるのか?
それとも遅すぎるのか?
それすらも分からない。

ただ、友人の教えだと
スローに、ひたすらスローに巻く
という事。
彼は自身の湾奥でのデッドスローの更に1/3程とも言えるスピードで、ゆっくり、ゆっくり、ウキを寄せてくる。
そこに彼の本気と経験を感じる。

対して右岸のアングラー達はデッドどころかスローとも言えないスピードで、投げて回収する作業を繰り返している。
ただ、友人が釣り上げたことで自分の中でのリーリングスピードはおのずと決まっていた。
ハイシーズンがどうだか分からないし、今日の海がいつも通りかも知らない。
だからこそ、彼のアドバイスを素直に受け入れることができた。


結局、二日目朝マズメに明確なバイトはゼロ。
未だ鮭どころか魚の気配も無い。
北海道は魚種が豊富なイメージがあるのだが、量は少ないのだろうか?

その美しく透明感のある海は、道外からの来訪者を簡単には歓迎してくれないようにも写った。


朝マズメから数時間。
そのまま車中で寝てしまっていた。
運転席もまた同じ。
昼前にどちらともなく起き出し、釣具屋へ向かう。

次の夕マズメの攻め方は決めていた。

ウキを大きくし、60グラムほどのスプーンを買い漁る。
そもそも60グラム程度のスプーンが少ない。
人気は35、45グラムあたり。

しかし、とりあえずでも経験して自分のスタイルとしたいモノがイメージできた今、それを信じてやるしかなかった。


情報収集や準備に時間を費やすと、夕マズメはすぐに訪れた。

アングラーの数は朝マズメよりも減っている。
再びの左岸。
友人は一本揚げていることもあり未だウェーダーも履いていない。

彼が余裕なのか、俺に余裕がないのか。
とりあえず、一本。
獲るのではなく、掛ける。
まず鮭とコンタクトすることに全ての始まりはあると思っていた。

そう、まだ鮭釣りを経験している訳ではないのだ。


朝と同じポイントに入る。
ウキ付タコベイト餌付きの60グラムスプーン。
ショアジギング用ロッドで容赦なく振りかぶる。
テニス肘の痛みが一投ごとに響いてくる。

飛距離をそのエリア中の誰よりも稼ぎ、誰よりもデッドにスローにウキを寄せてくる。
イメージは波で揺れているのかリーリングで揺れているのか、分からないくらいで。
正直、これが正解かは分からない。
ただ朝マズメの経験だけで考え、広い範囲をじっくりと探ることに徹した。

鮭はベイトを追っている訳ではない。

それを念頭に、疑似餌としてのルアーの役割を放棄したイメージ、とも言える。
しかもそれが正解かどうかも分からないという(笑)
ただ、何かしらのイメージは自分の中で付ける必要があった。


日が暮れる。
あたりは徐々に闇に包まれる。
完全に日が暮れると地元のアングラーは全員引き上げてしまった。

この小さな河口に友人と二人きり。
右岸と、左岸を一人ずつで占拠する。
これは我々が望んでいた理想の形。
他の誰にも邪魔されない、釣果を約束されない、釣り。

人が風景の中のスパイスとなる。
本当に美しい風景。
右岸を眺めてそう感じずにはいられなかった。

空には雲一つ無く、地上の煌めきに負けない光達が輝く。
月は海を照らし、夜空の光で自分の足下まで見えるほどに透明感のある海。

自分の立ち位置から右側は川からの払い出しで流れが速い。
常に場所を確認し注意しつつ、流れの境目に付く。
足下で水がよれる。

できるだけライトは付けない。
そうして最高の北海道を満喫することができた。


流星が空の低い位置を流れる。
流星のイメージとはほど遠く、ゆっくりと、燃えた煙を引きずり残しながら。
そこに願いを三回唱える時間はあった。

「カネクレカネクレカネクレ」

そう言うと右岸にいた友人に笑われた。
「もっと鮭釣りたい、とか無いのかよ(笑)」

大丈夫、鮭は何とか釣れそうだから。

心の中ではそう確信していた。

実は暗くなる前からアタリはある。
但しそれは聞いていた鮭のものではない。
そしてこの時、外道を一本揚げていた。

魚はいる。
魚影も濃い。



朝とは違って、海は俺たちを歓迎してくれていた。

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