(北海道6)未来へ向かって

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完全に立ち位置を見失っていた。
足場ではない。
自分の、釣り師としての立ち位置。

何のための遠征か。
何を見るための旅か。


頭の中のギアがトップに入った。
その瞬間に全てが空回りしていくことを感じてはいた。

再びの立ち込み。
自分の動きが早い。
波が寄せる度にふらつく。
しかし歩は止まらない。

気がつくとさっきよりも沖に出ていた。
膝どころか股下すぐまで浸かっている。

ためらわずに投げる。
遠くへ。
できるだけ遠くへ。

それが決して正しくないことも分かっている。
ターゲットは逃げることなくこちら側へ向かってくるはずなのだから。


右岸から声がする。
言いたいことは分かっていた。
今の自分は川の流れと海の境界にいたのだ。

助言に従い少し岸側へ下がることができた。
実は自分自身も少し下がる必要を感じてはいた。
しかしその時は自分の右上からの声に耳を傾けることはできない自分がいたのだった。


キャストをしては巻く。
スローに、デッドに、巻く。
アタリは無い。
キャスト方向を変えてみる。
さっきまでの生命感がない。

鮭が暴れたのか、心が暴れたのか。
とにかく海は何かを感じ俺とのコンタクトを止めた。


遠くにオレンジの街灯が見える。
星は見えるけれど、流れ星には気がつかない。
月光と海は流れを持っていても足下の石の一つまでを見せてくれる。
変化があるとしたら自分自身だった。

そのことに気がつくのに時間はかからなかった。

右岸で生命感を感じる。
ロッドが曲がっている。

近くて遠いその景色は俺に全ての答えを与えてくれた。


彼は湾奥用シーバスロッドで戦っていた。
鮭が左右に走る。
ハイシーズンに2メートル間隔で釣りをしているならば考えられないスタイルだ。

河口に二人。
右岸と左岸にそれぞれ一人。

これが彼が望んだスタイル。
俺に見せたかった風景。

まさにその風景のクライマックスを、お互いにとって最高に意味のある瞬間に見せている。

彼にはまだかなわない。

そう思わせるには十分だった。


釣りの神様がくれた最高のプレゼント。
それは俺に鮭が釣れたことでも、その鮭が幻と化したことでもなく、その直後に彼の釣りを見せたことだった。

釣れなくてもよいのだ。
しかし、釣れたからこそ見えた景色。
釣った魚を見ることは簡単だ。
だが本当の世界はその外にある。

ここからがスタート。


彼の一本を最後に鮭は我々の前に姿を現さなくなった。


翌朝。
もう一度、今度は自分でその先を見るために望んだ朝マズメ。
状況は一変していた。
前日までとはうって変わって波がある。
ウキルアーをスローに引くことしかできない俺は、波の上下運動にルアーを数個ロストした。

これが海。
これも釣り。


朝はほとんど釣りに参加せず寝ていた友人と、空港に向かう車中で話をしていた。
朝マズメの正解は聞いていない。
しかしながら少しの経験とこれまでのアドバイスから試したい方法は見えていた。

だからといって。
もう一日あれば何か結果が出たのだろうか。
次の夕マズメに釣れたとして、それが結果か?
翌日の天気予報は雨だった。
では翌朝の雨の朝マズメは?

きっと今日と同じで一から出直しだよ(笑)
俺たちは来訪者だから。
釣りがそんなに簡単ならとっくにやめている。
まだ始めたばっかりだけどね。

では?

そう考えたときに友人が以前言っていた言葉を思い出した。


アラスカにキングサーモン釣りに行かないか?


・・・(笑)
してやられた。
既に、そこに向かう第一歩は踏み出してしまった。

もしかしてこれが目的だったのか!?


喰えないヤツだよね。

これからもよろしく。

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